第38話

耳を塞ぎたくなる拡声器の雑音が大きく響き、雑に整列した生徒たちは気だるげに顔を上げる。

中には立ったまま寝ている、首の項垂れた生徒もいた。

皆朝早くからの集合に億劫な顔をしている。

ただ、女子生徒だけは顔を上げて表情にも生気が出た。



生徒たちの前に立ち、拡声器を口許に持って行く。

静寂の中、目の前の彼が大きく息を吸い込んだ。



「他校と喧嘩した奴は強制送還のちに夏休み補習と奉仕活動。以上!全員バスに乗り込め。」



……軍隊か!



思わずそう突っ込んでしまいたくなる雑な理事長先生の挨拶に溜め息を吐き出した。

しかし、私の心の言葉に反して生徒たちは従順に指示にしたがった。

喋り出した生徒たちの声を聞いていると、潤と明露の外見やら声やら立ち姿やら……誉め言葉が聞こえる。



明露は普段は優しい人だが、潤は普段も可笑しな奴なのだ。

昨日なんて、興味もない私の水着を着替える度に写真に撮って勝手に決めてしまった。

別に気に入ったものがあったわけでもないからそれはいいのだが、写真は引いた。

しかも、セレクトされていた水着は全て布面積が狭いものだった。



……海入るの、やめよ。



「どうした?浮かない顔。」



バックレるか。

でも、後からの潤が面倒だなー。



「紫苑。」



『……え、ああ。何?透』



「さっきから心配してやってるのに」



『え!ごめん……何の心配?』



「もういい。」



『ご、ごめんって!とおるん!』



「ウッザ」



いつも通りの攻防を繰り返しながらバスに向かう私たちに、パタパタと駆け寄る軽い足音。



「しーちゃん!竜胆さん!」



『あれ?真白。お友達はいいの?』



「大丈夫!しーちゃんたちと居たいって言ってきたの!」



『えーなにそれ。可愛すぎるんですけど。』



「わあっ」



ギュッと抱き締めて頬擦りをした。

柔らかくて女の子の甘い匂い。肌もつるつるでぷにぷにで気持ちいい。



「紫苑」



「っ!杏璃くん!?」



『おお、珍しい。学校で話しかけてくるなんて。』



真白が走ってきた方からゆっくりと歩いてきた杏璃と、その後ろをぞろぞろと着いてきた帝と大門……と更に数人。



「行事は特別。」



杏璃は顔を近づけてくると、妖艶に囁き微笑む。

王子様フェロモンを放つ杏璃に女子は黄色い声を上げたが、私はその斜め後ろにチラリと見える眠そうにウトウトしている帝に苦笑いを溢した。



「紫苑は、俺たちに話し掛けられるの嫌?」



『嫌なわけないじゃん。』



意図的なのか、はたまた天然でしているのか分からない捨てられた子犬の表情に、胸が押し潰されるのを悟られまいと叫ぶように声を上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る