第37話

『恩人?……世話になった人。』



恩人もしっくりこない。

世話になった人は、言える範囲の妥協案だろう。



「男?」



『うん。』



なんでそこ気にする?

頭を傾げながらも頷いた瞬間、何故か室温が下がった気がする。

帝の仏頂面は変わらないのに威圧感が……怖い。

足元の杏璃は見ないでおこう。



「「……」」



『なんで黙るのさ。』



「……彼氏?」



彼氏なんていたことないけど。

うん……アイツは彼氏なんて甘い響きじゃない。

でもそうだな。アイツと私は何と呼ぶべき関係だったのかな?



『もしかして、お姉ちゃんを取られると思ったの?』



ケラケラと笑うと杏璃が私の足の裏を擽ってきて、ビクッと体が反応して帝の膝の上に置いた頭に体重が掛かる。

無言で痛がる帝にデコピンされて、それでも気が済まなかったのか鼻を詰まんで来やがった。



「調子に乗るな。」



「そうだよ。もう餓鬼じゃない!」



頬を膨らませて拗ねる杏璃と、威圧的な睨みで見下ろされる。



知らないよね。私が言わないから。

私にとって、二人が何よりも変えがたい私の唯一無二の宝物なんだよ。

私は二人のためなら、どんな残虐な悪役にも偽善で塗り固めたヒーローとやらにでもなってみせる。



……ああ、まさかこんな夢現な瞬間が来ようとは。



笑う二人に反撃をしながら、胸の奥がぽかぽかして落ち着かなかった。




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