第2章
臨海
第35話
真白誘拐事件も終え、数日が経つと噂でザワつく学校も落ち着いてきた。
そんなある日、私は理事長室に呼び出しをされたのだった。
「随分楽しくやってるようだな。」
『ぼちぼち』
「可愛くねぇなー。」
『そりゃどうも。』
私を鼻で嘲笑い、優雅に長い脚を見せつけるように組み換えた。
「潤は心配していたんだよ。」
明露の言葉に舌打ちをした潤は鳩尾目掛けて肘を入れようとしたが、軽々とかわされる。
力で明露が潤に負けるはずがない。
『それより、潤には連絡ないの?』
「誰の連絡を待ってるんだ?」
コイツ……知ってて聞いてきている。
頭に浮かんだ人物を振り払い、ニヤリと笑う潤に知らん顔をしてそっぽを向いた。
視線の先にきた明露にクスッと微笑まれ、慌てて反対を向いた。
『……レオ、とか?』
「天樹はどうした。」
『着いた日に天樹と電話したけど。聞きたいことが』
「てめぇはてめぇのやるべきことに集中しろ。地べた這いつくばって泥水すすって、そうして手に入れたのがこの時間だ。限られた時間の中で足掻いてみろよ。」
『……うん……それに私がほしいのは、手に入れようとしているのはもっと大きくて……私には眩しすぎるんだよ。』
目を閉じて瞼の裏に浮かぶのは、大切な守りたい人たちの顔。
しかし、心の隅棲み続けるのは、人が苦しむのを見て嗤う意地悪で鬼畜な最低男。
───最も最低なのは、私。
『なんか連絡あったら教えて!私は此処にいるけど、あっちを放っとくなんて出来るわけないよ。』
「あの馬鹿のことか?」
『……』
潤があまりにも真剣な目をするから、ピンと張り積めた空気に変わる。
「紫苑。」
『明露?』
向かいに座っていたはずの明露が、私の頬に触れて困ったように眉を八の字に寄せた。
『へーき。』
「あれが死ぬような野郎かよ。ぬるい鍛え方されてねぇんだよ。」
『……ん』
潤なりの励ましの言葉に、少しだけほんの少しだけ期待してしまった。
何事もなかったかのように戻ってきて、そしてまた難題を吹っ掛けて私が困るのを見て笑う。
そんな日がまた来てくれるのではないか、と。
「それよりも、来週から臨海学校なんだからお子ちゃまは早めに準備済ませろよ。水着だ!水着!」
『変態。』
「俺は餓鬼に興味ねぇよ。」
『私もおっさんに興味ねぇし。』
「あ!?おっさんじゃねぇ!!」
『餓鬼じゃない!!』
額を擦り付けて睨み合い、舌打ちをして背凭れに凭れた。
それが全く同じタイミングでまた苛立って睨み合う。
『水着なんか持ってない。』
「買え!」
『金の無駄だから買わない!』
「お前……女だよな?」
『どっからどう見ても女だよ。』
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