第26話
「二人とも、ホットココアでも飲む?」
「『……』」
いつの間にかキッチンに移動していた杏璃は、机の上にマグカップを二つ置く。
ふわっと香る甘いココアの匂いに、すっかり毒気を抜かれた帝は大人しく私の首から手を退けて座ってカップに手を伸ばした。
……かっわい
杏璃が私の隣に座ってココアを飲み、飲まないの?と目で訴えてくる。
二人に挟まれ、肩身の狭いままココアを一口。
隣の帝は恐ろしく整った無表情顔で、ココアを息で冷ましている。
『かっわい』
「しー」
「あ?」
杏璃と二人知らん顔でココアを啜り、杏璃がテレビをつけた。
「何処行ってた?10年間」
『んー?……地球上の何処か。』
「真面目に話してるんだけど。」
『あったかい……』
両隣からの温かさも、人が淹れてくれた飲み物も。
膝を抱き抱えて蹲り、夢のような時間に目を閉じた。
「寝ないでよ?」
『うん』
同じ部屋に人がいて寝れないから大丈夫。
本当はマンションみたいな人の気配が多いところで生活するのは不安だったけど、このマンションは防音はしっかりしているからと紹介されたのだ。
「ご飯食べた?」
『……うん。』
「あ、今嘘ついた。食べていきなよ。」
『今日は疲れたから帰って寝るー。』
立ち上がろうとする私の両肩を、二本の腕が負荷をかけてくる。
『あの』
「だーめ……逃がさない。」
まるで恋人に愛を囁くが如く、甘い砂糖菓子のような杏璃の声。
鋭く射るような冷たい帝の視線と、骨が軋むくらい力の込められた手。
そしてその晩、私は徹夜する羽目になったのだった。
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