第25話
また抱き締められて、背後で鍵が閉められてチェーンが掛けられる音がした。
……やべ、これって安心させて地獄に落とすやつじゃん。
フッ、と笑った杏璃の息が首筋を掠め、体を捩るとさらに強く抱き締められた。
そのまま、抱き上げられて靴を脱がされると奥の部屋へと運ばれていく。
玄関には、揃えられた私の靴。
それはリビングの扉が閉められるのと同時に見えなくなった。
『これ、拉致じゃね?』
「同意取ったけど……嫌なの?」
『嫌じゃなくてさ、怖ぇーのよ。』
「落ち着いて。今、帝も出てるだろうから。」
最早死刑宣告ですか?と聞きたくなる。
ただ、杏璃の本心はまだまだ分からないが、彼が玄関で言ったことも本心だと伝わってきた。
凄くほっとしたんだ。
会いたかったと、言ってもらえるような姉じゃないから。
部屋を見渡して、黒と白で統一されたモダン的な清潔感のある部屋。
座らされたソファーはふかふかで、出された麦茶は冷えている。
『あ、ありがとう。でも、私すぐにかえ』
「積もる話もあることだし、ゆっくりしていきなよ。」
『あんまり遅くに、女子が男子の部屋はよろしくないかと』
「姉弟は例外でしょ。」
ごもっとも。
逃げ場を失ってやっと腹を括り、ソファーにどっしりと構える。
さながら戦場の武将のような心境だ。
ドクンッドクンッ、と心臓が跳ね上がり鼓膜の奥で五月蝿く騒ぐ。
「あ、出てきた。」
『っ』
平然と開いた扉の奥から、濡れた髪をタオルで乱暴に拭きながら不機嫌顔のもう一人の弟が現れた。
帝は視線だけをこっちに向け、動きを止める。
「……紫苑」
『帝』
私の顔を真顔で見つめて、次の瞬間には瞳に怒気を孕む。
悪寒に身を震わせると、逃げようとしているのかと誤解したのか、杏璃が背後から私の肩を両手で押さえる。
「俺たちを捨てて、今まで何処にいた。」
『っ……帝、落ち着け!』
「質問に答えろ。」
首に手をかけられて後ろに押し倒された。
杏璃は顔に出やすい性格だったが、帝は昔から、感情を表に出すのが下手くそだった。
杏璃は隠すのが巧くなっているが、帝は下手くそなままだけど行動に出せるようになったのかな。
『憎い?腹が立つ?……会いたかった?』
笑いが止まらない。
痛め付けられて笑っているなんて、マゾなんじゃないかと思われたらどうしよう。
絶対アイツのせいだ。
「黙れっ!お前みたいな自己中に会いたくなんか」
『わたし、自分勝手だから…すごく会いたかったよ』
帝の頬に触れ、顔を隠す前髪を払い除けると心臓を締め付けられる痛みが襲ってきた。
『ごめんね』
「……」
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