第24話

『どうしよう。』



「話し合えばいいでしょ。姉弟なんだから。」



『……明日のことは明日考える。それよりも、お隣さんにご挨拶の菓子折を渡さないと。』



頑張れ、明日の私。

自分のことを心のなかで激励してから、遅い時間だからと、女の子の透を単車で駅まで送り届けた。



そしてその30分後───



私は隣の住人の玄関の前で、菓子折片手に行ったり来たりしていた。

何度も訪ねるのは反って迷惑のはず。

そして家にあまりいないと言うことは、お忙しい人なのだろう。



……ちゃっちゃと済ませて寝よ。



チャイムを鳴らして数秒、インターホンのスピーカー部分から男の人の低い声。



『隣に引っ越してきたものです。ご挨拶を……』



「少々お待ちください。」



喋る口調からして、第一印象は良い。

真面目な感じでほっと息をついた。



「お待たせしまし……た?」



扉から顔を出したのは、まだまだ記憶に新しい人物。

私よりも遥かに背が高くて、しっかりと出た喉仏が上下する。

心の準備は明日の私がするはずのことだったのに!



『……出直します。』



「っ!!ちょっと、逃がさないから!」



『ふぐっ……』



ゆっくりと後ろに下がっていた私に、慌てた声を上げて突進してきたせいで顔面が堅い胸板に強打してしまったではないか。



「紫苑?」



『……』



「引っ越してきたお隣さんが紫苑だったなんて……嘘みたいだ。」



嘘なら良かったよ。

こんな偶然もあるものなのか、はたまた誰かの仕業なのかと疑わざる負えない。



「会いたかった。やっと見つけたのに、逃げるし……」



『……ごめん。』



耳元で吐息混じりに掠れた声で囁かれて、私の知っている小さな弟の姿ではない。

きつく、痛いくらいに強く抱き締められて、ホッと息をついてしまった。

落ち着く……何故だろう。

私の知らない間に大きくなった弟は、昔と変わらない泣き出しそうな顔で私を見つめる。



「会いたくなかった?俺達のこと、嫌いになった?」



『そんなこと、天と地がひっくり返ってもあり得ない。』



「即答だ……嬉しい。」



そう言って、私の弟──櫻小路杏璃は目を細めて笑った。



「おかえり、紫苑。」



『……た、ただいま?杏璃。』



「名前、もっと呼んで?」



甘えた声で私の指に、自身の白くて細長いのに男の人特有のゴツゴツした骨っぽい指を絡めて、恍惚と笑みを深くした。



『杏璃、帝は?』



「風呂。ねえ……入って?」



『今日は……もう寝ようかとお』



「入るよね?ん?」



さっきまでの天使のような微笑みは何処かへ消え、威圧的に瞳の奥を鋭く細めた杏璃は、腕を引っ張って簡単に私を部屋の中へ引き込んだ。

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