第132話



「お、おい!」



「仁!!」



灰原の怒ったような少々戸惑いのある声と驚いた緑川の声。



「白石くん?」



「仁様?」



女子の呼び止める声。



俺は鞄を持つと飛び出して全力疾走していた。

廊下に出ると、結構人だかりができていて、突然出てきた俺に吃驚して皆が避けてくれた。



聞こえる全ての声は無視。

もはや声なんて聞こえていなかった。



脳の中に姫の毒舌が聞こえてきて、急いで駅に向かって電車に飛び乗った。



あまり遠出しない俺にとって初めての町で、少し迷いながら一時間程かかってしまったが、何とか目的地に辿り着いた。



…………ここ誰の家だよ。



インターホンを鳴らし、中に入る。



恐る恐るという感じで、玄関が開いた。

そこに立っていたのは、3日ぶりのひか。

可愛らしい部屋着を身に付けている彼女は、俺の顔を一瞬見るとすぐに俯いてしまった。

目を合わせるのも嫌なんだ。

姫が無理やり呼んだ、ひかは来てほしくなかったということだろう。



心がズキンズキンと痛い。



姫が我が家のように言っていたが、人の家に馴染みすぎだろ。



「ど、どうぞ」



未だ俯いたままのひか。

非常に気まずい。

しかし、どうぞと言われたら行くしかない。



『……お邪魔します』



ひかの家は、白や淡い色を基調にした落ち着いたデザインの部屋だった。

家具も必要最低限で、もしかしたら一人暮らしなのかもしれない。



姫の隣に座ると、ひかがお茶を出してくれた。



誰も何も言わない時間が流れる。

正直気まずいです。



「ひか、言いたいことあるんでしょ?」



姫がひかに優しく問いかける。

聞かなきゃいけないと思って彼女を見ると、今日初めて目が合ったかと思うといきなり顔が真っ赤になった。



今のどこに照れる場面があった?

少しソワソワしてしまう。



『ひか』



もう呼び慣れた名前。



『話して』



話してほしい。

高校で出来た姫以外の友達。



いつの間にか俺の中で大切な友人になっていた彼女。

何を思ったのか聞きたい。



何かを決心したように顔を上げた彼女は、ポツリポツリと言葉を紡ぐ。



俺のことを傷つけたと言った。

しかし、傷つくことを言われた覚えがない。

もしかしたら「嘘つき」のことかもしれない。

そう言われても仕方のない俺なのに、その事を謝っているのだろう。






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