赴任教師

第84話



《姫side》



毎朝部屋を出る前に、全身鏡の前で身だしなみをチェックするのが私の朝のルーティンだ。

鞄を肩に掛け、携帯をポケットに入れてすぐ振動が着信を告げる。



『もしもしっ!』



「もしもし。姫ちゃん?恭弥です。」



朝からなんて色気だろうか。

甘く柔らかい声音が耳に心地いい。

耳元でこの声は心臓に悪すぎる。


『恭さん、おはようございます!』



「おはよう!あのね、実は仁が体調悪くて……今日は学校休むことになったんだ。」



『え!?大丈夫なんですか?』



「うーん……夕方には落ち着いてるかもしれない。出来れば帰りに顔見せてあげてくれる?姫ちゃんに会えば元気になるから。」



『もちろん!それじゃあ、帰りにお見舞い行きますね。』



「いつもありがとね……それじゃあ気をつけていってらっしゃい。」



『はい。さようなら。』




仁が体調不良はよくあることでも、学校を休むほどとは珍しい。すごく心配……。



恭さんがいるから大丈夫だと思うけど、出来ることなら飛んでいって傍にいたい。



帰りにアイス買って行こう。

フルーツゼリーも好きだからそれでもいい。



とにかく学校に行くか。



高校生になってから、一人で学校まで行くのは初めてではないだろうか。

いつも仁がいたから。

隣が少し寂しく感じた。



学校に着き、自分の席に座る。

もう当たり前になりつつある呼び出しのラブレター。



よくも飽きもしないものだ。

慣れたもので最近はもっと工夫しろよ、とも思うようになった。



慣れって怖いな。

思わず苦笑いが出る。



「姫~おはよっ!」



「はよ!……あれ、仁は?」



今登校してきたひかと亮が挨拶してくれた。

さっき女子の黄色い声が聞こえたから。



『おはよ。仁は具合が悪いから、今日はお休みなの。』



「えっ……そうなんだ……お休み……」



ひかが寂しそうな顔をしているのを見て、可愛いなと思う反面、仁のことを何て言えばいいのか分からない。



実は、仁に振られた後の女子にはあともう一パターンある。

仁を逆恨みするのだ。



なんで女だって言わなかったのか、と言ったなんとも自分勝手な言い分だ。

今はズボンでも、中学ではスカートを履いていたのに、よく見もしなかったのかと呆れた。



まだ2ヶ月程しか一緒にいないが、それでも、ひかが心優しい子だと言うことは分かる。



だから怖いのだ。

仁もひかのことを気に入っている。

もしもひかが仁に告白した後、仁は勿論断るだろう。

そして理由も言うだろう。

自分は、女だと。

その後のひかの反応が怖い。





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