第80話




「仁、愛してる。」



黒い手が伸びてきた。大きくて強い握力。

腕を引っ張られて、柔らかい床に投げ倒された。


「お前の――殺されたくないだろ?」



これは悪夢……?

見慣れない天井と黒い人影。



「仁、お前が愛してるのは俺だろ。」



誰……?

顔が見えない。黒い影が大きくなる。



「他に誰もいらないだろう?」



黒い影から真っ黒な瞳が覗く。

ゆっくりと俺に覆い被さる。

のし掛かる重い体は熱を帯びていた。



「ずっと俺のそばにいるんだ。」



無理やり唇に冷たいものが押し付けられる感触。

そして、大きな真っ黒な手が俺の首を掴む。



「仁、愛してる。」



ゆっくりと、でも確実に力が強くなる。

目眩と吐き気に気が遠くなった。



「黙って俺に抱かれてろ。」



ゆっくりと俺の体を這う指先。

荒い息が鼓膜を揺らす。



ああ、これは───…



「早く孕め」



耳元で低く囁く悪魔の声。

頬を殴る拳。




――――覚えている。




痛くて、苦しくて、恐ろしい。




『助けてっ!!』




これは俺の───…





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