第77話



話が終わったところで、そろそろ起きるか。



『……ん……んー』



目を開けて、姫を一番に見る。

笑っている彼女を見て、少し寂しいような嬉しいような気持ちになる。

例えるなら、娘に彼氏が出来たときのような気持ちだ。

それを誤魔化すように立ち上がる。



「帰るの?」



『ん』



「私も帰るから」



姫も立ち上がると、姫を逃がすまいと腕を掴む灰原。



「離せよ」



姫の反対の腕を掴んだ俺に向けて言う灰原。



まるで綱引きのように引っ張りはしないが、お互い離さない。

お前が離せよ。姫も帰るって言ったじゃん。



『……小せぇ男。』



俺に嫉妬している灰原に言い放つ。

それを聞いて、冷たい目で此方を睨んでくる。

鼻で笑い飛ばしたけど。

ピリピリとした空気になったところで



「二人とも離してちょうだい。」



姫のいつもより少し低い声に反応して俺はすぐに手を離した。



……これはキレる直前だ。



キレた姫は俺でも止めるのに一苦労する。

それを知らない奴は、まだ姫の腕を離していない。



「離せって言ってるんだけど。私は綱引きの綱じゃないのよ。しつこいわ。」



ものすごく低い声。

鋭い目で灰原を見下ろし言い放った。

それを見て皆が驚いていたが、俺だけはわくわくとしていた。

女王様みたい。格好いい。



俺の目がきらきらとしたのを見て、黄崎が怪訝な目を向けた。



灰原がゆっくりと手を離す。



「仁、行くわよ。」



歩き出した姫の後を追うように歩き出そうとした。



歩き出そうとしたのだが……この手は何。



次はひかが俺の服の裾を遠慮がちに引っ張る。



「じ、仁くん!メール……メールアドレス!お、教えてください!」



上目遣いでお願いされたら、断れない。



しかし、メールはあまり好きじゃない。

打つのがめんどくさいからです。



『……ごめん』



「いや……私の方こそごめん」



『番号』



「へ?」



大きな目は少し涙目になっていた。

俺の言葉が予想外だったのか、目を見開き、気の抜けた返事をした。



「ああ、仁はメールは滅多にしないのよ。面倒くさがり屋なの。電話なら出るから」



「そ!そうなんだっ!は、はい!」



『ん』



ひかの携帯を受け取り、電話番号を登録して返した。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る