第67話



『……別に。』



確かに、俺なら怪訝な顔をしてしまうかもしれない。

まあ、楽しい気持ちも分かるから、関わらずにその場を去るけどね。



「お前、名前は?」



『……。』



「ん?名前は?」



『……。』



知らない人に名前を教えちゃ駄目って兄貴に昔から言われてきた。

怒られるの嫌だ。

でもこの男、初めて会ったけど……会っていきなり笑われたけど、嫌いじゃない。

むしろ好感すらもてる。

なんでだろう?安心感?包んでくれてる感じ。



それでも口が開かないのは、昔似たようなことがあったから。

その時は、まだ小さかった。

それに、この男みたいに安心感を持ったりもしなかったけど……餓鬼だったんだ。



「ああ、俺は弥(ひさし)だ。よろしくな?」



ほら、名前は?と目が訴えてくる。



『……仁』



「仁か……。良い名だ。仁、俺のことはひーくんでいいぞ?」



いきなりおどけて見せる男──弥に思わず口角が上がってしまった。

ひーくんって……あんた何歳だよ。



「おお!笑った顔がいいな~。もっと笑えばいい。」



『ん?』



面白いこともないのに笑えない。



それからは会話をしているうちに、仁とひーくんと呼び合うようになった。

ひーくんは優しくて、俺の言葉が出るのを待ってくれたりした。

こんなにたくさん話したのは新入生歓迎会の時以来だ。



「あー。仁と話すのが楽しくて時間が早く過ぎてしまった。……もう迎えが来てしまった。送っていこうか?」



『いらない』



「遠慮することはないぞ?」



『買い物』



「そうか……もっと一緒に居たかっただけの口実だ。気にするな。」



どうやらひーくんはタラシのようです。

さらっと恥ずかしいことを言う。

おまけにダンディーなイケメンさんだから、心臓に悪い。



ひーくんは立ち上がり、歩き出そうとした。

咄嗟に袖を掴み、



『ひーくん……次……』



「くっくっくっ……そうだな。俺は大体この時間は決まってこの公園に立ち寄るんだ。゛秘密〝だぞ?……仁の気が向いたら暇なときにでも会いに来てくれ。…………じゃあな?













女の子は夜道に気を付けなさい。」



それから、俺の頭を一撫でして去っていった。



俺のことを゛女の子〝と気づいていた。



─────いつから?



副会長もひーくんも、なんで?



次に会ったときにでも聞けば良いか。

そういえば、副会長とまだ話せていない。 

二人になることがないからだ。



……聞かないといけないよな。




俺がひーくんの言った

“秘密”の意味を知るのはまだまだ先の話。





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