第55話



『……虎く…ん』



さっきよりも更に腕の力が強くなった。



どうしたんだろう?

珍しいな。

辛いことでもあったのだろうか?

いや、今まで学校の話をしていたんだ。

いきなりすぎて、少しドキドキしてしまう。



伯父さんや兄貴に抱き締められるのとは少し違う。

細身の虎くんは、華奢に見えるけど抱き締められると、やっぱり男の人なんだと意識する。

男女の俺でも、やっぱり自分は男じゃないと実感する。



「……仁。ドキドキしてる。」



言わないでくれ。

今俺の顔は茹蛸のように真っ赤になっているだろう。だって顔が熱い。



虎くんは、腕の力を緩めると俺と向かい合う。

結構顔が近いです。喋れば息がかかる距離。



「ふっ……顔も耳も真っ赤」



どうやら俺は耳まで真っ赤なようだ。

妖艶に笑う虎くんにさらに熱くなるのが分かる。

整った虎くんの顔は、龍ちゃんとは二卵性のため、あまり似ていないが、双子なだけあって笑うと似ている。



『……っ!』



咄嗟に龍ちゃんが重なって見えた俺は最低なのだろうか。

今一緒にいるのは虎くんなのに。

入学式の夜のことを思い出してしまう。

あれから、風呂に入る時も寝る時も外していないネックレスをぎゅっと服ごと掴む。

虎くんは俺の様子が少し違うことに気づいているだろう。

彼の手が不意に俺の前髪を少しあげると、そのまま顔が近づいてくる。

頭が真っ白になって、ただただ虎くんを見つめていた。



チュッ、とすぐ近くで軽いリップ音。



虎くんは俺のおでこにキスをした。



きっと酔っているんだ。

俺のおでこから唇を離した彼は、真っ直ぐに俺を見つめてくる。

その目は熱が込められていて、思わず戸惑ってしまう。

真っ白な頭がだんだん動き始める。



なんでキスしたの?

なんでそんなに苦しそうなの?



『……虎く、ん…?』



ゆるゆると彼の手がおでこを離れ、後頭部に回る。

頭の中で警報が聞こえる。



絶対に酔っている。

目を覚まさせないと。



彼の胸を押すが上手く力が入らない。おかしい。

心臓がうるさい。

俺も女だ。

こんなことされれば、意識していなくてもドキドキしてしまう。

また、ゆっくりと顔が近づいてくる。



あと数センチで唇と唇がくっつく距離。



彼は動きを止めると、俺の目を熱っぽく見つめ……



「仁……俺……」



「おい」




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