第0―6話 反故②
純白色の長い髪。
全身を纏う白いドレスのようなワンピース。
人とは思えぬ可憐な姿をしたそれは奇跡のような白い少女だった。
「はは。どんな奴かと思ったら、ただ美しいだけのちっこいお姫様とはね」
と言いつつも、男は魅了されたようにまじまじと少女の顔を床に頭を付けながら眺めていた。
陶器のような色白の肌に、人形のように表情一つ変わらない少女の左目には黒の眼帯が覆われている。そして、白い睫毛に覆われたもう片方の瞳はまるで金剛石のように輝かしいものだった。
「ご苦労様です。タケオミ」
幼い容姿とは裏腹、白き少女は凛々しい声で青年の名を口にした。
「……それじゃあ、僕はこれで。急いで街を巡回し直さないと」
外は依然あんな空模様で今何時なのかも検討は付かないが、こんな雲行きの中、また悲劇が繰り返されたら堪ったものではない。
「待ちなさい。まだ、被害の報告を聞いていないです」
「……あ、ああ……」
壁際で決まりの悪い顔をして返事した。その返事を聞いただけで少女は事の顛末を何となく察しているようだった。
「ははっ、ははははは‼」
少女を見て胸高鳴ったのか。突然吹き出すように嗤い出した異常者。
「おい、どうしたのかなぁ? ほらほら、早く言いなよ~。誰一人助けられませんでしたって。ハハハ、はあははははははははあはあは」
頭の螺子がまた一つ外れた異常者は壊れたように嗤い続ける。
「……ほら、言えって、言えよぉ~」
立ち尽くしたまま、何も言えずじまいでいる雄臣を見て、男は心底楽しそうに唆す。敵の前で自らの失態を報告するほど屈辱的なものはなく、けれど間違いなくあれは自分の失態だ。もっと早くに家を出ていればこんなことにはならなかっただろう。
「ほらほら~、言えって、言われてるぞ~」
「ほざくな、外道」
少女の殺意が男の笑いを両断させた。
「答えなくてよいです。話は目障りなものを排除してから聞きます。さっさと終わらせましょう」
罪人の元へ歩み寄る白い影。閃光の煌めきが彼女の右手に灯る。その光は何度見ても目を奪われるくらい神々しく美しく、やがて光は長く細い形状に変わり、斬るための凶器となった。
「おいおいおいおい。随分とトントン拍子に進むじゃないか。少し話でもしないか、いや、したい」
顕在した白銀の長剣は少女の背丈よりも長く、流麗さと神聖さを兼ね備えた剣を目のあたりにして、男はひどく狼狽する。
「貴様と話すことは何一つありません。罪なるものにはそれ相応の罰を」
異常者には蔑みを持った冷徹な声と眼差し。少女は蔦で身動きが取れない男の顔面にきっぱりと切っ先を向けた。
「待て待て待てよっ! せめて、僕の名前くらい――」
「罪人の名前に興味はありません。その魔力、還してもらいます」
見下ろす右目が男の心臓部を捉え、刀を逆手に持ち直す。
「やめろっ!」
男の最後の訴えも少女の耳には届かない。ここは許しを請う場所でもなければ、罪を償う場所でもない。ここに送られた時点で、そいつの運命は決まっている。故に躊躇なくその切っ先を真っ逆さまに振り下ろした。
「ぐはっ⁉」
心臓を勢いよく突き刺された男は、刺された衝撃とともに芋虫のように手足を痙攣させた。ビクビクと身体が不自然に反応する中、自身の体内に流れていたはずの力の源流が刀によって吸われていく。授けられた魔力が吸い取られていく度、男の活力、精力は失われていき、刀を引き抜いたその時には、感じたことがないであろう虚脱感と喪失感で、身体は、脳は、停止した。
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