第62話

「準備?」



「うん。準備。大切でしょう?何かをするときには、準備が必要だからねぇ」



マスターは、車の鍵と財布を持って店から出る。


私も、店から出た。


車に乗り込むとマスターが私にポイッと柔らかい何かを投げ渡した。



「何?」



「凛ちゃんの大好きなネコのぬいぐるみ」



…………………………。


うん、ネコは好きだよ。


でも、車の中にぬいぐるみ?


しかも、マスターの車の中。



「マスターの趣味?」



「違う。愛娘のために置いとくの。愛娘って凛ちゃんだからね?」



「………………分かるけど」



「けど?」



「びっくりした」



「そっか。いきなりだもんねぇ。あっ!電話してくれないかな?獅堂家に」



「なんて?」



「最後の会話だよ。さようならって。今から、死にます!って感じにね」



「それって、必要なの?」



「うん………………………重要になるよ。最高の言葉を言っておいてね?お別れの言葉だ」



私は、コクンと頷いて携帯を取り出す。


それと同時に車はゆっくりと動き出した。

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