第63話

電話をする相手は兄だ。


というか、家族の中で一番繋がりやすいのが兄だからだ。


携帯依存症にでもなっているのか。


どんな場所でも携帯を持っている。


発信ボタンを押して出るのを待つ。


すると、低い声で【凛か?】と私の名前を呼ぶ兄の声が聞こえた。


やっぱり、すぐに繋がった。


両親だったら、絶対に出ない。


無視される。



『珍しいな。お前から電話なんて。どうかしたか?何か、問題でもあったか?まだ、学校か?』



うん。


なんて、言えばいいのだろうか。


言葉なんて、考えてなかったよ。


悩んでいると、紙が降ってきた。


どうやら、マスターの仕業みたいだ。


紙を見てみると、言う内容が書かれていた。


この通りに言えばいいの?



これなら、簡単だ。



『凛?おい?』



あっ。


もたもたしてる暇はないね。



「お兄様」



『なんだ?今、少し忙しい。手短にしてくれ』

『ぁ……ぁあっ!そんな………に………だめっ!』



兄の声と混じって聞こえてきたのは女の声だ。


どうやら、真っ最中だったみたいだ。


いつものことながら………………


元気だね。


なんで、誰も妊娠しないのかな?


避妊だって完璧ではないし。


というか、あやめはどうした?


生け花の練習はしてないの?


女抱いてる時間はあるんだね。



『早く言え』



あぁ。


そうだ。


言わないと………………



「お兄様。私は、生まれて良かった人間なのでしょうか?」



『………………………いきなり何言い出す』



「私は、裏にいます」



『あぁ』



「だから、考えてました。私は、この身を捧げる覚悟で裏にいます」

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