第8話

「どう?」



「うん。美味しいよ。このチョコレート普通のと違う?なんか、味が違う」



口当たりの滑らかさが普通のより強い?


チョコの色もいつもより濃い。



「正解。舌の感覚が鋭いからかな?高価なチョコだからね。仕入れるの大変だったんだよ。生産数が少なくてね。普通のチョコレートより手間を掛けて作るから大量生産には不向きなんだ」



高価なチョコっていくらなの?


そんなチョコを使うケーキをこの店で出すの?



「だったら、毎日出せないじゃない」



「いいの。定番メニューには入れないから。特別な日とかに使う予定だからね。例えば、バレンタインとかクリスマスとかね。限定品とかにすれば特別感増すでしょ?人間は限定品とかに弱いからね」



確かに、人間は特別とか限定品とかに弱い。


裏にいるとそれがよく分かる。


甘い蜜に群がる虫を一気に叩き潰すことができる。



「まぁ…………お客さん来ないからいいんじゃない?」



「いや、それは言わないでよ。言っちゃいけないことだよ」



「………………ねぇ?今更なんだけどマスターって何歳なの?今、ふと思った」



突然、思い出したようにマスターのことを聞くことがある。


違う会話をしている時でも何気なく聞いてしまう。


マスターは話を変えてしまっても嫌がることなく答えてくれるのだ。


お客さんということもあるだろうが。



「本当に今更だね。何歳に見える?」



「40歳」



「えっ?殴られたいの?」



「39歳」



「どうしても40歳にしたいみたいだね」



「………………」



若そうに見えるけど、実際は結構歳いってるとかあるから。



「まだ、35!」



「…………へ~ぇ」



なんだ、見た目通りだったか。



「質問したのに興味ありませんって感じだね。ちなみに、妻は、34歳。凄く可愛いよ。料理もおいしい。玄関でおかえりって言ってくる姿を見ると安心する」



「幸せそうね」



「そう見える?」



違うの?



「………………分からないけど、それを幸せって言うみたいだから」



「う~ん。人それぞれでしょ?俺は、まだ幸せじゃないなぁ」



「違うの?」



「うん。妻がいるから幸せって言える人もいれば言えない人もいるでしょ?」

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