第7話

「コーヒーもどうぞ」



「ありがとう」



出されたコーヒーはマスターがブレンドしたものだ。


ストレートコーヒーでは出せない風味を感じる。


マスターが言うにはこのブレンドを生み出すのにかなり時間をかけたらしい。


デザートに合うコーヒーを作るためにいろんな産地から豆を取り寄せて全部試飲をしたと言う。


そんなに苦労したコーヒーが美味しくないわけがない。



「凛ちゃん。家は相変わらず?」



「うん」



「そっかぁ。相変わらずか。まぁ、簡単に変わったら怖いよね。何かありそうで」



「マスター」



「ん?」



「寝癖。右に」



「えっ!マジで!恥ずかしい。全く気づかなかったよ。さっき、買い出ししてきちゃったよ。レジの人、気づいたよね」



「相変わらず、お客さん来ないね」



全くお客さんが来る気配がない。


経営が心配なほどだ。


こんなに美味しいコーヒーがあるのに。


マスターは、手くしで直そうとしてみるが直らないみたいだ。


ハネがキツイのかも。


なんで寝癖のまま来たの?


鏡見ないで出勤したの?


身だしなみって大切だと聞いたけど。


マスターってちょこちょこ抜けてるところがある。



「まぁね。汚い喫茶店だし。凛ちゃんは、話すようになったよね。最初は、何も言わない子だったのに。俺が声かけても無視で。悲しかったよ。一人で喋ってる感じがしたよ。実際、一人で喋っていたか。でも、今は話すようになったから嬉しいよ。会話って大切だよね」



「しつこいから」



「そんなこと言わないでよ。でも、気に入ったんでしょ?」



「うん。お客さんがいない感じが好き。おしゃべりのマスターはいるけど」



「なんか、失礼だね」



「本当のことでしょ?」



「最初はおしゃべりじゃなかったよ。お客さんの件は否定しないけど。でも、成長したね。本当に」



「…………」



マスターの目は、時々違和感を感じる。


どうしてか分からないけど。


私を見ているけど私ではない誰かを見ているみたいに感じる。



「ほらほら、食べてみてよ」



「いただきます」

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