第47話

 港工学みなこーとの練習試合は完敗だった。

『12―0』よく知らないがサッカーってこんなに点差がつくもんなんだ。

 しかし、しかし、江井ヶ島先輩は知れば知るほど、いやそんなに知らんか。でも、少し知ったと仮定して、よくわからない人だ。


 どうしても柚香ゆずかに観に来て欲しいって、話だった。普通に考えていいところを見せたいから、だと思うのだけど――素人目に見ても、少しもいいところなんてなかった。

 もし、いいところを見せたいなら、もう少し実力差がない学校との練習試合の時のほうが良かったのでは。


 しかも……関係ないけど、勝ったハズの港工学の選手は監督から長々と指導を受けていた。説教とまではいかないが、小言を言われてる。

 これだけの快勝をしても、反省することがあるんだ。これが強豪校ってもんなのか?


 褒めて育つ俺にはわからない文化だ。そして、そして。何を考えたのか俺は『85』との談笑を終えた江井ヶ島先輩のところに向うことにした。


「林崎?」

「ちょっと、江井ヶ島先輩と話してきます」

「なんで?」

「わかりません、何となくです」

「あっ、と俺あるんで、もしあれなら先に帰ってください」

 呼び止める声が何度かしたが、俺は江井ヶ島先輩のところに向かった。


「お疲れさまです」

「林崎君か、来てくれたのか」

「はい、藤江先輩も……知ってるとは思いますけど」

 学校のグランド。強豪校でもないウチの練習試合に足を運ぶ者はほとんどいない。目に入らない方がおかしいレベルだ。


「完敗だったろ」

「まぁ、そうですね。サッカー全然知りませんが」

 グランドでは港工学は試合後の軽い練習をし、ウチのチームは帰り支度を早々にしていた。マネージャー含めてこの後カラオケに行くらしい。


 楽しそうで何よりだが、江井ヶ島先輩の目指してたサッカーとは、恐らく違うだろうが、それもひとつの決断だから仕方ない。


港工学みなこーって俺が知ってるくらいの強豪校ですよね、この結果は見えてましたよね? なんで柚香を誘ったんです?」

 江井ヶ島先輩は着替えながら、ちょっと考えて「いいか」みたいな顔して教えてくれた。


「ユズちゃんを誘えば、君が伊澄いずみを連れてくるだろって」

 なるほど、俺はまんまとえさに掛かったわけか。それは別にいい。踏み出さないと何もわからない。


「藤江先輩と柚香に何を見せたかったんです?」

「大げさに言えば、現在地」

「現在地」

「そう、なんか学校では、サッカー部のエースだのなんだの言われてるけど、この程度だよって」

 堅苦しく言えば、情報公開したってことか。部活に入ってるわけじゃないから、よくわからない。でも、別にどこの高校も、全国を目指す必要があるかは疑問だ。


 別に体力つくりだったり、仲間となかよくでもいいと思う。そういう形もありだと思うが、江井ヶ島先輩としては違ったのだろうか。

 でも、見た感じ自分から積極的に部員を追い込んで、強くなろうって感じにも見えない。

 でも、俺はこいつらとは違うんだって言うタイプでもなさそうだし。うん。知れば知るほど訳が分からない。それほど分かりたいとも、先輩が俺にわかってほしいとも思ってないから、わからないのかも知れないが、じゃあ、藤江先輩と柚香はわかったのだろうか。


 まぁ、実際のところ、俺自身もなんで来たのか、来たかったのか。今となっては謎だ。そうだ、後はに任せよう。

 そう思い、帰ろうとしてる藤江先輩の首根っこを掴み、ついでに嫌な予感的中みたいな顔してる柚香の手を引いて江井ヶ島先輩のところに戻った。


「江井ヶ島先輩。みんなとカラオケに行くんですか?」

「いや、オレは行かない」

「じゃあ暇ですよね、練習したくても誰も付き合ってくれないでしょうし、なのでファミレスにいきましょう、ラブホの見えるファミレスに」

 柚香はとてつもなく苦い顔した。それは藤江先輩も変わらない。


「それは、まぁ……構わんが、林崎。このメンバーで行くのか?」

 藤江先輩は渋々感満載で納得してくれた。

「はい」

「しかし、お前さっきこの後あるって。それって予定あるって事じゃなかったのか?」


「ありますよ、えっと……」

 振り向いて中八木さんが隠れる木の辺りを見る。油断してたのか、慌てて小枝で顔を隠した。雑な隠れ方だ。


「ほら、待っててくれてるんで」

「待っててくれてる……どこに誰がだ?」

 藤江先輩と柚香は目を凝らしてグランドを探すが、何いってんだこいつみたいな顔をする。うそだろ、丸見えだろ?

 仕方ないので俺は中八木さんに手招きして来るように伝える。小枝を顔の前から取ると――


「「そんなところに!?」」

 うそだろ? なに、そのいいリアクション。マジでわからなかったの? いや、相当雑な隠れ方だったけど。

那奈なな、えっと、お前……」

「泰弘、中八木――さんと出かけるの!?」

 あれ、おかしい。ふたりは中八木さんの存在に、その俺の中の中八木さんの存在に気づいてるものだと思っていたが……


「あっ、ごめんなさい。林崎君がなんか、、私の写真撮りたいっていうから、私はって感じなんだけど、断るのも……あっ、でもごめんね、


 ここぞとばかりにドヤる。まぁ、これくらいはいいんじゃないか。割と頻繁に学校でも一緒にいたのに、俺達のことに気づいてないってことは、眼中にないってことだったんだろ。

 それはいくら何でも、中八木さんに失礼だ。










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