第45話
「なるほど、委員長と江井ヶ島先輩の試合を見に行くと」
昼休み。
リア充の楽園。屋上の隅で俺は中八木さんといた。ここに来るのは2度目だ。周囲をも渡すと、リア充だらけで相変わらず居心地が悪い。柚香のことはとりあえず放っておいても心配ないだろ。タルミンもいることだし。突拍子もないことはしないだろ。
中八木さんはパックのいちごオーレをちゅーと飲みながら、ふむふむと
「林崎君って、一体何がしたいの? 実のところ」
根本的な疑問を投げかけてきた。
「だってそうでしょ? それって、どうこう言ったところで、元カノさんが心配だったりー委員長が気になったりーあっ、八方美人さん目指してるんだ、知らなかった! びっくり!」
おっと、なんてことでしょう。中八木さんが、お怒りになっておられますが、まったく身に覚えがない。いや、素直に身に覚えがないって言えば、教えてくれるわけでも、俺に対する圧が弱まるわけでもない。
むしろ強くなることが予想される。そこから
「土曜。例の試合を見に行くんだけど――」
「うん、それさっき聞いたよ?」
はい、確かにお伝えしました。話のつなぎ上、必要かなぁと思ってもう一度言いました。油断を誘うためか、中八木さんはいつもの笑顔だ。いや、本心かも知れない。実のところ中八木さんもよくわからない。
結構なことも、サラッと流してくれたり、そこ、こだわるんだってところでこだわる。こだわりスイッチがまだわからない。一緒にいる時間を重ねていけば、そういうのもわかっていくだろう。
そのためには、今を頑張らないと。
「会えない? その後」
「ん……? もしや、デートのダブルヘッダーですか? それは八方美人への欠かせないルートなのかな?」
八方美人。そんなつもりはないけど、
でも、今その事を
「約束してた、写真撮らない?」
「あぁ……アレか……実のところ林崎君、面倒くさくなってない、私のこと? いやー我ながら思うの。自分のことなんだけど、面倒くさいヤツだなぁ、になってるんだ、いま現在進行形で。林崎君の本音が聞きたいかも、みたいな?」
「それは全然」
「えっ、即答? もしや考えるのも面倒くさい? いきなり
「いや、考えるまでもなくなんだけど。じゃあ、逆に俺が中八木さんのどこが、面倒くさいって思うと思った?」
「そりゃ全部ですが」
即答に即答で返された。でも、悪気はない。中八木さんは顔の前で手のひらを合わせ、眉をひそめながら宙を見て考えてる。
たぶん、どーみても、私のことなんて面倒くさいヤツでしょ、みたいなことを思ってる顔だ。
「えっと、面倒くさいとか思ってない。中八木さんのコスプレ写真も撮りたいし、見たい。ただ……」
「なに? 今とってもいい感じで話が進んでたんだけど、なんでここで『ところがどっこい』な感じ出すの? イジワル?」
「いや、そういうつもりじゃないんだけど、ごめん」
「いいよ、こちらこそ話の腰を折ってごめん、それで?」
「うん、先輩とはあの時、ラブホふたり、入るの見かけた時、あっただろ?」
「うん」
「一緒にいれて、お互い助かった。後でわかった、それって間接的に、中八木さんがしてくれてたんだって。ほら、中八木さんが俺と先輩を引き合わせてくれたっていうか」
「でもそれは、委員長
「下心って、立派って言っていいの?」
「うん、だって
なんか中八木さんは下心に誇りを持ってる感じ。こういうところが、なんか彼女の魅力。
隠さないし、自分がやったことに、変な自信を持ってるし、何よりこの独特な言い回しというか、下心さえ、あっけらかんとしていて、唯一無二な感じがクセになる。
だから、わかってほしい。俺の本心みたいなものを。
「先輩は助けてくれたし、助けたい」
「うん」
「
「ん……それはちょっと理解できないかもだけど」
こういう部分も曖昧な理解で自分を誤魔化したりしない。これって意外と難しいと思う。
俺にはたぶん、無理。いい顔したいのか、理解力があるヤツだと思われたいのか、納得してなくても、理解した感じを出す。
器がデカい風を装って、実はめちゃくちゃ小っちゃい。
「でもね、言ったよね?『私が最初に好きだった』って。いや、まぁ、実際は伊保の方がずっと前だけど、そこはほら、あの時は――
――と、まぁこんな感じで、何が良かったかわからない間に、中八木さんはご機嫌になった。
先輩と試合を観に行くことも、柚香との関係が現状維持なのも丸呑みして。そして軽く俺の膝をつねりながら。
「でも、ドタキャンは厳禁だワン、ご主人さま」
そう優しくクギを刺す。その仕草、はにかんだ表情、少し低めの声、ほんのり赤い頬。何もかもが可愛かった。
俺はこの学年で6番目に可愛い女子から、目が離せなくなっていた。
□□□作者より□□□
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