第41話

 柚香ゆずか視点。

 やってしまった。気付かなかった。考えもしなかった。泰弘やすひろの方から来てくれるなんて、思ってもなかった。だから、うれしい反面、完全な無防御だった。


 これって世にいう――ポロリ、だよね。今まで自分から、誘うような行動を泰弘にしてきた。それは、たぶん泰弘なら常識の範囲内で接してくれると思ってたから。

 今だって、見ても――裸を見ても、強引に迫ったりしない。

 私に魅力がないの?


 違うか、泰弘は必死で目を合わさないようにしてる。これって、そうだよね、我慢してくれてるんだよね。

 歪んでる。歪んでるけど、なんか嬉しい。目をそらそうと必死なのは、見たいからって思っていいよね? ってことは可能性ゼロじゃないんだ。

 なんだ、そうなんだ。私なんて眼中にないのかなぁ、なんて凹んだりしてたけど。


 潮時しおどきかなぁ……なんて思うことが最近増えてきた。この泰弘に対する感情。気持ちは、そっと封印した方がいいのかもと思い始めていた。


 従兄妹で幼馴染、家は隣。

 そうなると、少し先のこと――例えば10年先とか考える時がある。その時に笑顔で会うには、とことん行ったらダメなんじゃないかなぁって。


 感情を、要求を、欲しいものを、気持ちをぶつけ合って、ダメなら会わないでいい関係じゃない。

 お母さんがよく言う「覚悟がないなら、ふたりの関係は進めちゃダメ」という言葉が嫌いだった。でも、その言葉が正解なのかもと思う自分がいて、どうしていいかわからない。全部、泰弘に決めて欲しいとすら思う日もあった。


 でも。

 少し、チクリとする。いくら従兄妹で幼馴染だからって、少しくらい触れてくれてもいいでしょ。理性的なのはわかるし、我慢も、わかる。

 でも、わかって欲しい。私だって我慢してる。触れて欲しい、触れたいという気持ちを我慢してる。


 人生で初めて裸を見られたのに、触れてくれない。

 たぶんだけど、泰弘も人生で初めて同年代の女子の裸のはず。その我慢は、私の我慢の何倍も頑張らないとなら――大切にされてるって、考えちゃうけど、いいの?


 それとも、誰かに触れられていいの? 触れさせていいの? 違う。泰弘はちゃんと言ってくれてる。

『エイヤーで、になったりしないか?』って。


 これってのこと、だよね。珍しく自己主張してくれてる。いや、珍しくはないか。考えてみたら今まで、私が告られる度に、それとなく自己主張してたね、泰弘は。


 でもさ、それとなく過ぎ。わかんないよ、従兄妹で幼馴染でも実感が欲しいいんだよ。女子として見て欲しい。見てないわけじゃないよね、それわかるけど、さり気なさ過ぎ。

 もう、私じゃなきゃわかんないんだからね、そんな微量な愛情表現。


(ねぇ、泰弘。タルミンから貰った、――使わない?)

 誘ってみた。どうせ、けんもほろろだろう。


(例のヤツってゴム的な?)

(そう、3個貰ったでしょ)

(使わない、ってか、使じゃダメなのか?)


 えっ、いつもとなんか違う。使わないとじゃダメなのかって、それってつまり……使したいってこと、なの?


 心臓が止まりそう。でも、バクバクと心臓が脈打つ。それって、本気なの?

(えっと、それって、その……勘違いかなぁ、使わないでって聞こえたけど?)

(そうだけど、ダメか?)


 ダメかって、ダメじゃない? だって私たちは高校生だし、従兄妹だし――いや、従兄妹関係ないか。正直、考えたこともなかったし、怖い。

 あの泰弘がこんな大胆な要求するなんて思いもしなかった。でも、これもしかしたら、最初で最後のチャンスかも。


 これは勇気じゃない。そんなことはわかってる。わかってるけど、このままじゃ取られちゃう、藤江先輩か中八木に。こんなに近くにいるのに、手をこまねいてるだけなんて、嫌だ。


(いいよ。泰弘なら。でも、信じて貰えないかもだけど、したことない)

(そんなのすぐわかるだろ)

 それもそうか。でも、そういうこと言うんだ。全然草食系じゃないんだ。泰弘の顔が私の首元に。そして体が私の上になる。手は――はいたばかりのスエットに手が掛かる。


 泰弘は簡単に私からスエットを奪い取り、その手は私のお気に入りのピンクのパンツに手を掛けた。私はどこかで、ここで泰弘はヒヨるかもと思った。でもそうじゃなかった。泰弘は一気にピンクのパンツを脱がせた。


 まだ、お父さんもお母さんも起きてるのに。

 本気なんだ、あんまり実感がない。今まで色々試してきた。どうやったら泰弘が手を出すか。全部うまくいかなかった。なんで、今日うまく行ってるんだろう。

 わからない、もしかしたら嫉妬心だろうか。江井ヶ島先輩に取られたくない、そんな気持ちが少しでもあるなら、うれしい。


 そして耳元でささやく。

(お前のパンツを初めて脱がせたのは俺だ)

 なに言ってるんだか。どうせなら、最後に脱がすのも俺だって言ってよね。私は無言で頷いた。暗闇の中でも、密着してるからわかるだろう。たぶん、この胸の高鳴りも気付いてるだろうね。


 こうなることを願ってたのに、いざとなると、体に力が入る。手が震える。怖いことなんてない、失うんじゃない、手に入るんだから。

 私は自分に言い聞かせた『使わないとじゃダメなのか』なんて言ったけど、なんやかんやで、泰弘は私を大切にしてくれる。だから、きっと付けてくれると思う。


 だけど――

 泰弘の手が私の太ももに触れた。思ってもない動きに私は困惑する。

(なんで?)

 戸惑う私の言葉に泰弘の目が泳ぐ。泰弘の手は私に太ももに触れ、あろうことか脱がせたパンツを再びはかせたのだ。


 こいつ、ここでヒヨるのか⁉ いや、ダメだろ、私色々と出来てるんだけど!














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