第38話
ドラフトを終え――
「なんだよ、林崎。オレを指名してくれるのかと思ってたのに」
窓際で白い歯をきらーんとさせながら、男バスのエース、
イケメンは何をやってもイケメンだ。このイケメン、意外にラノベを読む。そんなこともあり、ラノベ関係でよく話をする。
「それも考えたんだが、競争率高そうだろ」
「みたいだな、正直驚いた。みんなバスケに興味あるんだな」
いや、バスケの話がしたくて、みんなお前の班を指名したんじゃないが? 確かにお前の班、男女共にバスケ部みたいだけど。
それより、俺はお前の自己評価があまりにフラットなところに、改めて驚いたが?
「あらあら、入学後、わたくしたち、
霞ヶ丘さん、親睦を重ねるとおっしゃいますが、廊下で
そんな事を考えてると、ゆるふわ美少女、霞ヶ丘雫がトンと距離を詰め、俺の肩に手を
(やっぱり林崎さんは、わたくしの期待通り――『寝取らせ』属性の持ち主なんですね、素敵)
そう言って、この歩くCG技術は、うっとりとした顔で俺と
おい、まさか、帰国子女枠……そっちの住人なの⁉ いや、別に俺、ワザと柚香を江井ヶ島先輩に寝取らせてないからな?
どうしよ、ダメな女子の匂いがプンプンしてきた。
思考停止してると、帰国子女の反対側の二の腕に痛みが走る。
(泰弘。これ以上、女子いらなくない?)
あの、俺べつに霞ヶ丘さん狙ってませんが? だいたい柚香さん、その圧、今じゃなくてよくないですか? あと、なんで俺の周りの女子は、俺の二の腕の柔らかい部分つねるの?
中八木さんに助けを求めたくても、鼻血の止血に集中してもらいたい。命に関わる。
タルミンは――西新町先生となんか話してる。たぶんエロいパンツについてだ。身振りで何となくわかる。その話題、教師と生徒の間でする話題か?
「だから、最近のミシシッピ、熱いんだって! 西ちゃん!」みたいな、あのエロ系にやたら強い通販サイトを推す親友の声に少し泣いた。あと、西新町先生を「西ちゃん」って呼んでんだ。
仕方ない。ここは、見た目女子だけど、何の因果か男子な
「塩屋君は――」
「
『もう』と少し拗ねた感じで、はにかむ笑顔。俺は無言で柚香を見る。
(だから、塩屋君は男子だって‼)
(どうしよ、柚香。俺、新しい扉開きそうなんだけど)
(止めないけど、それくらいにしとかないと、マジで中八木、死なない? 別にいいけど)
中八木さんがフラフラで壁に手をついてる。
鼻血で出血多量とかあるんだろうか。しかし、出血してる割には顔が真っ赤だ。青くなってないところを見ると、まだ大丈夫なのか。
試しに――
「わかった、
「いや、
俺はなんで男同士でキャッキャウフフしてるのだろう。するとどこかで物音がした。
ドサッ。
「あら、たいへん。林崎さん。わたくし、保健委員なので、中八木さん保健室に連れて行きますね、彼女――なぜか何もない時によく鼻血出るの。体弱いのかしら……精密検査とかしなくていいのかしら……」
心配げな霞ヶ丘さんだが、心配ご無用です。ちょっと彼女、男子×男子で
***
放課後。
保健室に運ばれた中八木さんが、今更ながら心配になり、保健室に行くと既に霞ヶ丘雫さんに付き添われ、帰った後だった。
霞ヶ丘さん。行動も美少女なんだけど――
まさかの『寝取らせ』趣味なのではないか疑惑。いや、そうだろう。あの
保健室までのなんてことない廊下。
これまで人生で、当たり前に隣にいた柚香が、また当たり前に隣にいる。その違和感。しかも黙り込んだままで。
中八木さんのことは心配だけど、家に帰ったらシュン兄さんもいるだろうし、病気じゃない。いや、むしろダメな病気か?
ひとまず、夜にでも連絡してみよう。
そういえば最近先輩、藤江先輩を少し放置気味だ。あのイメチェン以来、何度か絡みはしたが、なんか指先に、棘が刺さったままな感じで距離をおいていた。
理由は、柚香のこと。江井ヶ島先輩とのこと。ふたりが観戦デートすること。藤江先輩のこと。江井ヶ島先輩とどうしたいのか、俺自身どうしたいのかわからない。
わからないので、そういう解読不能な要素を持たない、中八木さんといるのが心地いいのだけど、それでいいのかと思う、めんどくさい自分もいる。
「どうして欲しいんだ?」
考えても仕方ない。隣に柚香がいるんだ。こんがらがった糸をほどく、きっかけにならないかと、口を開いた。
「わからない」
そんな答えが来そうな気はしていた。付き合いはバカみたいに長い。下手したら、自衛官になって家を出た実の姉、
俺がわからないことを、俺の片割れみたいな存在の柚香が答えを持ってるハズもなく――逆に、同じように答えを探してるのだろう。
「エイヤーで、そんな関係になったりしないか?」
「江井ヶ島先輩と? ないよ。信じて。私も信じてるからね……えっと、その……信じていいよね? 泰弘のこと……信じてるからね?」
なに俺のことだけ、なんで急に信じていいの? みたいになる? そりゃ、返事しませんけどね? 男子だもの。
何も答えがないまま、俺は柚香と別れ、あのホコリ臭い、元教科準備室の名残のある風紀委員室に足を向けた。
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