第37話

「林崎――オレ、7班だからな」

 男バスのエース須磨浦すまうら周平しゅうへい


「林崎さん、わたくし3班ですわ」

 歩く映像霞ヶ丘かすみがおかしずく


 B組に入るや否や、注目選手? から声を掛けられた。A組と違い、B組はなごやかな空気。これって担任の人としての違いでは?


「林崎、なぜ私を見る? 残念だが私は指名出来んぞ?」

 そういう意味で見てないし、自己評価高めなんですね。だけじゃない。ふたりに声を掛けられた俺は、A組の各班代表ににらまれる。


「あの、西新町先生。質問。逆指名とかありですか?」

「バカ者‼ 須磨浦、貴様趣旨しゅしをまったく理解してないな! 担任の顔が見たいものだ‼」

 先生。そこ親の顔にしましょう。しかし、ふたりの間に何があった?


「はーい、西新町にししんまち先生。指名拒否――出来ないんですか?」

 霞ヶ丘さんが、季節の花々を散らせながら、優雅に挙手しニコリと笑う。西新町先生は何らかの反論をしようとしたが、最終小声で「クソが……」と教師らしからぬ言葉を発した。

 恐らく、同性として、ありとあらゆる部分で、自ら敗北を悟ったのだろう。少し大人しくなって、これはこれで歓迎だ。


 しかし、そこは西新町先生。立ち直るのも早い。A組の各班代表が教壇きょうだんに並び、その中心に西新町先生が立ち、小さな咳払せきばらいと共に、開会を宣言した。


「これより第一回『A組B組、合同校外学習』活動班ドラフト会議を開催かいさいする。なお、ドラフト会議後、如何なる異議申し立ても受け付けない、いいな、野郎ども‼」


 ノリノリだ。

 A組は班決めの勢いで来ているので、西新町先生のノリに付いて行ってるが、なんかB組は若干、取り残された感がいなめない。

 そう言えば、まだB組担任、大蔵谷おおくらだに先生は何も発言してない。少し困ったような顔で、西新町先生を見ている。

 これひとつ取っても、ふたりの関係は、大蔵谷先生の我慢で成り立っているようだ。


 そして普段、授業で見せないような真剣な眼差しで、集めた用紙を開いた。


「『A組B組、合同校外学習』活動班。第一巡選択希望班――」


 西新町先生は必要以上に間を取る。釣られて教室は静まり返る。その真剣な姿。なんか手に汗かいてきた。ドラムの音があってもよかった。


「第一巡選択希望班。指名先、B組7班――男子バスケ部、須磨浦すまうら周平しゅうへい他2名。指名者、A組1班――体育委員、松本栞奈他2名」


 まずは男バスのエース須磨浦が所属する班が、指名を獲得した。低い声でどよめきが起こる。それと同時に須磨浦の周りで小さく歓声があがる。さすが下馬評げばひょう通りの好スタートを切った。


「第一巡選択希望班。指名先、B組3班――保健委員、霞ヶ丘かすみがおかしずく他2名。指名者、A組2班――帰宅部所属、飯田守他2名」


 そして、対抗馬たいこうばもくされていた、歩く2次元ヒロイン霞ヶ丘雫が指名を受ける。

 霞ヶ丘さんの周りで黄色い歓声が上がる。本人も桜が舞い散る効果の中、小さくガッツポーズ。へぇ……最近のCG技術ってここまで来てるんだ。

 2次元の嫁も悪くないかもな。


 そんなこんなで、西新町先生の第一巡目が、粛々しゅくしゅくと進められた。

 おおよその予想通り、須磨浦と霞ヶ丘さんのデッドヒート状態。一進一退、そんな感じ。いや、むしろこのふたつの班しか指名されてない。

 予想してたことだが、現実を見せられると、ふたりの人気を再認識する。

 そんな中――


「第一巡選択希望班。指名先、B組9班……」

 初めて、須磨浦の7班と霞ヶ丘さんの3班以外の指名に、会場となった教室がどよめいた。


「指名先、B組9班――風紀委員。中八木なかやぎ那奈なな他2名――指名者、A組10班、風紀副委員長――林崎泰弘やすひろ他2名」


 名前を呼ばれた中八木さんは、周りにいた同じ班の「ふたりの女子」と手を合わせて、跳ねた。そう言えば、須磨浦と霞ヶ丘さんの班以外で初指名となる。

 俺の指名を聞いた男子数名が「その手があったか……」「やられた」と悔しがる。


 さすが俺ボードランキング学年で6番目に可愛い、中八木さん。知る人ぞ知る感じなんだろう。

 恐らく、彼らの第二巡目、第三巡目候補だったのだろうが、甘い。本当に欲しいものは全力で取りに行かないと。後悔するぜ。


 本当に欲しい……? まぁ、いいか。


 チラ見すると、中八木さんはダブルピースでウインク。しかも口パクで『ご主人さま』と。なに、この6番目。可愛い過ぎん?

 しかし、ここは現実世界――


「へぇ……指名したんだ、泰弘。知ってた? あの子、私のこと嫌いなの」

 低音で隣の柚香ゆずかつぶやく。知ってました! でも、そのきっかけ作ったのお前だからな? そもそも、江井ヶ島先輩と応援デートするお前に言われたくない。


「まぁ、のわかって、一任したんだけど」

 あれ、俺、泳がされた感じですか?

 もうひとりのメンバーのタルミンは「あっ、パンツの人だ」と呟いてるが、どちらかといえば「パンツの人」お前だからな、風紀委員困らせるようなパンツってどんなだよ。


 そんなこんなで、校外学習の班が決定した。

 あからさまに肩を落とすヤツもいるが、おおむねいい感じだ。残念ながら西新町先生のリア充撲滅ぼくめつ計画は空振りで終わりそうで、なによりです。


 しかし、気になることがある。

 手元にあるB組9班のリストには――


 中八木那奈。

 西代にしだい芽実めぐみ

 そして――

 塩屋しおや希信きしんとある。


 中八木さんの机のまわりには、女子がふたり。

 おかしい、必ず異性を1名は入れる決まりだ。リストを見た時、塩屋って人が男子だと思っていたが……トイレでも行ってるのだろうか。


 中八木さんに近づき、その事を聞こうとしたら、ひとりの女子に声を掛けられた。

 中八木さんと一緒にいた女子――制服はズボン。ジェンダーレスの関係でズボンをはいている女子が学年で何人かいる。特に珍しくない。

 彼女もそのひとりだろう。


「はじめましてだね、林崎君! 塩屋しおや希信きしん泰弘やすひろって呼んでいいかな?」

 しかも僕っ娘。

 その上、距離の詰め方が半端ない。いきなり女子に、下の名前を呼び捨てとか、反応に困る。


 ん……?

 今なんて言った? 確か塩屋って。

 俺はこの僕っ娘が差し出した手に焦りながら、握手を返した。そのかたわらで柚香が耳打ちする。

(泰弘。塩屋君って男子)


 えっ? マジ⁉

 助けを求めるように中八木さんを見ると、ハンカチで鼻を押さえている。中八木さんの鼻血……中八木さんはBL関係に秒で反応する。

 ということは……


 マジでこの僕っ娘――男子⁉


























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