第35話

 西新町にししんまち加奈子かなこ

 紹介が遅れたが『1―A』の担任だ。新卒3年目。見た感じ、至ってまともな教師のように見えるが――実はそうでもない。まあまあな毒量を持つダークな教師だ。

 その教師が開口一番――


「林崎、お前陰キャだったんだってな。聞いたぞ『2―C』での件。センセーショックだぞ、この裏切り者め。そんなセンセーになんか面白いこと言え!」


 朝のホームルームで聞き逃していたが、5時限目が例の校外学習の説明でホームルームになっていた。ここで中八木さんが言ってた、A組B組混合の班決めがされるのだろう。

 ひとまず中八木さんのおかげで、B組の誰かと組まないと、というプレッシャーは回避できた俺は完全に気を抜いていた。

 そこでこの知る人ぞ知るダークサイドの住民、西新町先生の意味不明な発言。


「しかも、なんだ? イメチェンか? 高校デビューがひと波過ぎた後で、あえて感じ、お前――実は手慣てなれてるだろ? 先生みたいに」

 先生みたいかは知りません。


 なに高校生相手にイカした女アピールしてるんですか。先生は知りませんか、俺は単に先輩に拉致されて、先輩の元カレが利用する美容院に連れて行かれただけですけど?

 こういう意味においても、先生みたいなんですかね? もしそうなら、共感できそうですけど、面白いこと言えってなに?


「ほら、遠慮するな。どーせ、班決めなんて最終『エイヤー』で先生が恋バナなんて無縁な組み合わせにしてやる」

 アンチ・リア充なのは共感できる。しかし、なんだ、この「なんか言え」オーラ。しょうがない……


「えっと……なんか今回、風紀委員副委員長になりました」

「それの何が面白い? それともなにか? それは『先生大好き』アピールか何かか?」


「なんでそうなるんです?」

「とぼけなくてもいい。何を隠そう私は風紀委員担当教師なんだ、見てわかるだろ? 溢れ出す清楚感。風紀委員の元締めっぽいだろ?」

 真紫のアイライン。いや、真紫のアイラインでも清楚感たっぷりの方は大勢いるだろうが、先生はそっちじゃない。なんか、夜の街で見かけそうな匂いがプンプンする。風紀委員の元締めってなんだろ。


「実は先生、こんなリア充企画、大反対だ‼」

 黒板をこぶしで殴る。そういうのは職員会議でやってもらえないだろうか。


「つい! そう‼ つーいこの間まで中坊だった男女が、飯盒炊飯はんごうすいはんだの、共同作業だの、カレーだの、やっぱし焼肉だろ? とかきゃっきゃしてる姿を見せられる教師の立場にもなって欲しいものだ‼」


 ある意味ド正論だし、ホントに共感できる。できるが、今、教室で言うことじゃないと思う。

 居酒屋で、大学時代の同級生とかに言った方がいいんじゃないだろうか、保護者会とか教育委員会とかの絡みで。


「そんなわけで、みんなお楽しみの男女混合班なんだが、な、な、な、なんと! 今回はあの憎きB組とも混合になる‼ 知ってるよな? B組のクソ担任! そう、大蔵谷おおくらだに教師だ!」

 クソとかなんとかって、なんか可愛そう。


「知ってるか、林崎。大蔵谷なんとかは、あの悪名高い男子サッカー部の顧問だ! つまり、お前を寝取られという大海原おおうなばらに叩き落した江井ヶ島のボスだ‼ お前、潮干狩りと称してアイツ首から下埋めろ。先生その隣で讃美歌さんびかを熱唱するから」

 ふたりの間に何があったか知らんが、生徒を復讐に使わないこと。讃美歌歌うのになにか意味があるのか?


「そんなわけで、先生決めました。今回の班決め。とりあえず、林崎と伊保はマストな? ちなみに拒否したらお前らだけ、現国のテストの難易度上げるからな? 先生舐めるなよ? でも、今のは保護者には言わないでくれ」

 よくわからない脅しと、よくわからない要求。そして、突然の弱気発言。


「えっと、なんで?」

「なんで? お前、あのネトラレは、大蔵谷なんとかが仕組んだに決まってるだろ、悔しくないのか!? アイツの前でラブな感じを見せつけろ‼ 先生今回だけ、大目に見よう、今回だけだからな?」

 いや、仕組んだのは柚香だから。いや、ホントに一体ふたりの間に何があった?


「一応ルールを説明する。A組からはひと班3人。必ずひとりは異性を入れること。あと、渋々だが、各班に3名B組が入る。計6名。お前たちが嫌で嫌で胸が張り裂けそうなのは、先生十分わかるが、上からの指示だ。上って学年主任な?」

 いや、たぶんB組が入ることで、誰も胸が張り裂けないと思います。


「あと、あぶれそうなボッチ。早めに先生のとこに来い。それとなくどっかに入れてやる」

 全然それとなく感がない。

 柚香と名指しで組むとなると、もうひとりは――タルミン確定として、そうなるとB組のメンバーはどうやって選ぶんだ?


「おっと、言い忘れたB組はB組で3人班を作ってる。くじ引きで決めるなんて、大蔵谷が温い提案してきたが、突っぱねてやった! 高校生活は常に戦いなんだ、そう思わんか、林崎?」

 林崎とりあえず関係ないですよね? まぁ、いいけど、くじ引きじゃないならどうやって決めるんだ?


「ふふっ、ここは正々堂々とドラフトと行こうじゃないか。もちろん、我々A組が指名する‼ 向こうに拒否権はない‼ そして、これが前もって準備されたB組の班分けだ‼ 各班の代表がそれぞれ第1希望から第3希望まで書く。もし被ったらその時は――」


 その時は?


「代表がジャンケンポンでスッポンポンに挑み、見事勝ったヤツが指名した班を獲得する仕組みだ! 知っていると思うが、B組には帰国子女枠の霞ヶ丘かすみがおかしずくと男バスエースでイケメン須磨浦すまうら周平しゅうへいがいる‼ おい、女子! かまとと振ってる場合じゃない‼ 須磨浦のヤツは、な、な、な、なんとフリーだ‼ しかも口癖が『オレ、部活に燃えてるんだ、だから彼女とかは――』だそうだ! 千載一遇せんざいいちぐうの好機だと思わぬか⁉ 男子! 霞ヶ丘かすみがおかは帰国子女だ‼ つまり非リアにもフラット! わかるな? この校外学習を足掛かりに、アタックしまくれ‼ あと、本当にスッポンポンになるなよ? 先生まだ色々支払い関係あるからな?」

 なんか、この先生。ちょいちょい守りに入るなぁ。じゃあ初めから言わなきゃいいのに。

 そんなわけで、俺たちは黒板に張り出されたB組の各班のメンバーに目を通した。


 □□□作者より□□□

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