第33話
「
それとなく、俺は出来るだけそれとなーく、柚香に声をかけた。だがしかし、俺たちが『2―C』でやった漫才謝罪会見を知らない者はいない。
なので、それとなくなんて通用しない。つまりは注目の
「えっと、なに?」
なんだよ、その女子みたいな反応! なに照れてんだよ、こっちが恥ずかしいわ! 振り返ると教室の端ではタルミンが腕組みして、しっかり見張っていた。
しょうがない――
「連れション行こうぜ、そろそろ行きたい頃だろ」
「えっ、あっ、はい……」
なにが「はい」なの? 顔赤いでしょ、セクハラみたくなってるのは気のせいか?
「あっ、従兄妹なんでこういうの普通です、普通」
ふわふわとした空気になったので、誰に言うでもない言い訳をしたりした。なんで、連れションひとつで汗かくんだ?
「これで俺の気持ちは少しはわかったか?」
入学以来、柚香の偽りのネトラレ騒動で、肩身の狭い思いをしてきたので、ちょっと言ってやった。
いや、ちょっとだけだ、ほんのちょっと。
なのに――
「ごめんなさい……」
タルミンー! すまん、俺ひとりの手におえる状態じゃなかった! 助けを求める視線の端に人影が。さすがマブダチ、タルミン。
俺の危機を察して――って、あれ?
「林崎君。どうしたんです、元カノさんとお出かけですか?(ワン)」
「中八木……さん!? えっとこれは……」
なに、俺にだけ聞こえる語尾のワンは? そして誰にも見えない死角から俺の二の腕をつねる、荒業。
「これはなに?(ワン)」
二の腕をつねる指に力がこもる。顔は笑ってるけど、完全に目は笑ってない。女子怖え。
しかし、ここでようやく遅ればせながら、タルミンの参戦。
「おっと、ちょうどいい、そこの風紀委員さん、ちょっと相談があるんだ」
「えっと、なんでしょう?」
「いや、ココだけの話、今日はいてるパンツなんだが」
「「パンツ!?」」
何故か俺もハモった。そして何故か息ぴったりでハモったハズの俺の二の腕は更につねられた。
「その……パンツがどうしました?」
「いや、実は校則に触れかねないほど……なんだ、透けてる?」
「「透けてる!?」」
(ご主人さま、いい加減にしないと、人前でも噛みますよ?)
本格的に小声で脅された。いや、でも、マブダチのパンツが透けてるってのは……気になるもんだよ?
「えっと、垂水さん。私にどうしろと?」
「いや、あーしの基準と校則の基準? 合ってるかどーか確認してほしいっていうか」
「わかりました。えっと、更衣室で確認します」
(ここじゃないの?)
(ははっ、ご主人さま、バカですか? まさか私がいないからって、エロマンガみたいに、トイレでエッチなことしないでしょうね?)
それファンタジーの世界の話だからね? 基本ムリでしょ。クギを刺されつつ、俺たちは晴れて連れションに向かった。
――のだが。
トイレに向う廊下。柚香は廊下に面した窓から外を見てて、気付かないが、残念。俺は気付いた。
「ちょうどよかった、ユズちゃん」
「とーるちゃん?」
間が悪いことに、江井ヶ島先輩と出くわした。先輩、残念ながら泰ちゃんもいますが?
「えっと、なにかなぁ?」
柚香は焦ったような口調で俺を見る。なに、この反応。浮気現場みたいになってない? あきらかに浮足立ってるよね、空気が。
さて、どっちが浮気相手なんでしょうか。
「その、林崎君、悪いね」
「いいえ、どうぞ」
「すまない。ユズちゃん。前に約束してたその……応援の件」
「えっと、とーるちゃんが出る試合の? うん、なに?」
「あれ、どうするのかなぁって。出来たら来て欲しいと思ってる」
ん……? どういう状況? 偽りの関係は終わったんだよな?
「えっと……」
言いよどむ柚香。明らかに俺の顔色をうかがっている。そこに――
「なんだ、林崎。ここにいたのか。探したぞ。教室に行ったのだが――透……何をしてる?」
先輩。このタイミングですか? 出待ちしてませんでしたか? ドンピシャですよ、ある意味。
江井ヶ島先輩と柚香は完全に目が泳いでいる。かろうじで、正気を保ってるのは俺だけか。
「えっと、簡単に言うと、俺と柚香が連れションに行く途中――」
「にゃんで、元カノと、つ、連れ……なんて行くんだ!?」
それはタルミンに言ってください。残念ながら、今どこぞの風紀委員にパンツ見せてますが。
「えっと、ユズちゃん。それホントなの?」
江井ヶ島先輩も面倒くさいなぁ……タルミンに言ってよ。仕方ない。
「あの、もう兄妹同然で育ってるんです、実際従兄妹だし。それくらい一緒に行きます。安心してください。一緒に個室には入りませんから」
シャツを引っ張るヤツがいる――って、柚香!! なに、全開で顔真っ赤にしてんだ!?
「それは、まぁ、いいとして、なぜ透は林崎に
いやー先輩が話聞くと、絶対面倒くさい方向に向きます、ちょうどトイレあるんで、行っててもらっていいですか?
「いや、次の練習試合。ユズちゃんと約束してたから」
「――してたから?」
なんだと言うんだ。先輩。最後までちゃんと言いましょうね。怒ってるじゃないですか。
「来て欲しいらしいですよ、江井ヶ島先輩は」
「そ、そうか……伊保はどうなんだ?」
あっ、先輩。もう、やめませんか。なんで、何でもかんでも追求したがるんです? 絶対、痛みしか伴わないですよ。
「えっと、泰弘に聞かないと」
えっ、ここに来て俺? 俺の返事次第? 行きたいなら行けばいいし、行きたくないなら行かない。なんで、俺に決定権を委ねるの?
そんなことしたら、めちゃくちゃ面倒くさい方向に向くじゃないか。 行けばと言えば、柚香を突き放すことになる。
行くなというと、アレだけのことをされたのに、嫉妬してることになる。だけではなく、俺の女に手を出すな、みたいな拡大解釈も成立しそうだ。
「お前はどうしたいんだ?」
「ん……約束してたから、もし泰弘がいいって言うなら、行きたい……かも」
『かも』が取って付けたくらい俺でもわかる。しかし、これって俺だけの問題なのか?
「先輩はどうなんです。柚香が江井ヶ島先輩の応援に行ってもいいんですか?」
俺の中でほんの少し、先輩が「ダメだ」って言うのを期待していたのかも、知れない。
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