第32話

「委員長。どこまでついて来るつもりですか?」

 珍しく、中八木さんが腰に手を当てて、溜息をつく。


「べ、別にいいではないか、お前たちがよくて、私がダメな理由を聞かせろ!」


「私はB組で、林崎君の隣です。それに委員長立場を考えてください」


「立場? ……えっと……林崎の新しい――」


「違います‼ 風紀委員長ですよね?」


「まぁ、そうだが」


「それで、委員長の推挙で林崎君はいまや、副風紀委員長。付け加えるなら――私も風紀委員。この意味わかりますか?」


「意味?」

 先輩はあごに手を沿え、首を傾げた。無邪気だ。


「先輩、中八木さんが言いたいのは、1年生がおびえてるってことです」


「怯えてる?」

 先輩、更に体を傾けて考え込んでる。小学低学年のようだ。


「風紀委員長と副委員長、そして風紀委員が集まれば、知らない生徒は抜き打ちで、持ち物検査が始まるんじゃないかって、思うかもと、中八木さんは言いたいんです」

 中八木さんは得意げに、両方の人差し指を立てる。


「そうなのか? でも、林崎。今の那奈ななの言葉だけで、よくわかったな」

 それはですね、持ち込んじゃダメな、ギリギリの持ち物を、所持することが多いからです。


 しかし――

「そうなんです! 私たち、通じ合ってる感じなんです‼」

 中八木さんは先輩に比べ、ささやかな胸を張ってドヤッた。


 ささやかと言いながら、このサイズ――『Bカップ以上Cカップ未満』が好きなのはどうしよもない。ちなみに――いま、無言で教室に入った柚香ゆずかもそのサイズ。

 年に何回も見ない柚香の落ち込んだ横顔。気にならないワケがない。


「しかし、私は抜き打ちの荷物検査などとしない!」


「そーですか? 朝の立ち番って、一般生徒的には、抜き打ちと変わりませんよ? 校門以外入れないんだし」


「しかし、それはだな、決まりさえ守っていれば――」

「決まりですかぁ~確か、校則では校内で男女の過度な接触を避ける、でしたよね? 委員長、林崎君に『ツンツン』してませんでした? あれ、私から見たらですが?」


は――お前のさじ加減ではないか! 私は単に、林崎に用事があって呼んだだけであって――ん⁉ 那奈⁉ お前」


「なんです? 私はが気になって、話に集中出来てない委員長に用事がありましたので、肩をトントンしたですが?」

 中八木さんは、ふたり同時に刺しに来た。なんかの悪い、俺と先輩はそれぞれの教室に向かった。


 江井ヶ島先輩の件。

 俺的には一応のみそぎというか、罪をつぐなったつもりだ。先輩自身まったく悪くないわけじゃないし、過度な謝罪は元からするつもりも、柚香にさせるつもりもない。


 いや第一、俺被害者だし。だけど、昨日の『2-C』での漫才謝罪会見。俺たちの『1-A』に伝わってないはずもなく――


「林崎って、おもしろいんだ。知らなかったー」


 そんな感じで、クラスの話したことないダウナー系女子――魚住うおずみ文乃あやのが話しかけてきた。

 俺ボードランキング――女子のランキング:容姿、スタイル、唯一無二性などなどを独自集計しランキング方式で、自分の中で発表してるのだが――


 魚住文乃あやのは、唯一無二性を高く評価され『俺ボードランキング』1年生部門で堂々4位にランクインされていた。

 ちなみに、容姿、スタイル、唯一無二性で客観的な評価として、残念ながら柚香が1年生部門1位なのは内緒だ。


 ちなみに、魚住さんは俺の言葉を待たずに、親指をビシッと決めて去っていった。よくわからん。


「しっかし、参ったなぁ~その周期かよ~」

 補足すると、これは俺のセリフじゃない。そしてこの背中にムニュりと当たる、なまめかしいの感触が、偽りもモノだと俺は知っていた。


「タルミン、上げ底が過ぎる」


「君が黙ってたらバレない。ちな、来年までには、このブラからあふれること請け合い」

 このボディータッチお化けは、俺と柚香の共通の友人、垂水たるみ友里ゆり、通称タルミン。百合ゆりじゃない方の友里ゆりだ。

 付け加えるなら――『俺ボードランキング』1年生部門で18位と中々健闘している。


 ちなみに『Aカップ以上Bカップ未満』なタルミンだが、Cカップのブラを着用するという、学歴詐称さしょうならぬ、カップ詐称中。


 更に付け加えると、怪しげな物品を中心に取り扱う通販サイト『ミシシッピー』の常連で、先日柚香にゴムなアレを渡したのもコイツだ。


 まぎれもない『処女ビッチ』である。経験豊かみたいに言うが、とんちんかんな上に、下ネタする時は顔が真っ赤だ。

 ちなみに、小柄で140センチそこそこ。


 ――とまぁ、一通りの人物紹介を終えたのだが。


「ハヤシン、この間、伊保に渡した使った感想を聞かせろ」

 ブツとはコイツが通販サイト『ミシシッピー』で購入した、ゴムなアレのことだ。


「足りなかった」

「なに⁉ 3つでは足りないと⁉ あなどっていた、そこまでアレがアレだとは……」

 もちろん、からかってる。使いもしてない。とはいえ、柚香のゴムなアレを包装のままくわえる演出は、秀逸しゅういつだった。


 さすが、『俺ボードランキング』1年生部門で不動の1位を誇るだけはある。えっちな方面の唯一無二性は他の追従ついじゅうを許さない。


「なぁなぁ、お前さんの気持ちもわかるよ? でも、とお前さんの仲だろ? 伊保のことさぁ、許してあげてチョンマゲ」


 タルミン――ここでお前との友情を持ち出すの、汚くないか?

 いや、俺なりに落としどころを最大限、探したつもりだし、今朝叔母さんに「優しくし過ぎ」とクギ刺されたばっかなんだよ、でも女子の親友となるとタルミンしかいない。無下にも出来ないか……


「具体的には?」

「そうだね、ここは軽く、みんなの前で連れション誘って

 全然軽くないの来た。











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