第25話
「それじゃあ、あたしのお任せ、ってことでいいのね? ヤスちゃん?」
どういう状況か、実のところ俺が聞きたい。
放課後。
最近では
いや事実、連行されている。
ここは――ヘアサロン『アンディのお店』
どういう状況? 俺は先輩に「いいから来なさい」とほぼ首根っこを母猫に
鏡に映るのは無造作に全体的に伸びた髪と、筋骨
そのオネエのアンディさんと共に鏡に映り込む先輩。
「先輩、これは?」
「ん……君が『めんどくさい』とか『わからない』と努力の方向を悩んでいただろ。こういう時はプロを頼るのが一番だと私は思うのだ」
『私は思うのだ』じゃない。
この武士、まったくデリカシーの欠片もない。このヘアサロン。恐らく男性も女性も利用できるお店。
そして俺の話を聞いてイメチェンがしたいと思ったとして、この店がすぐに浮かんだということは、普段から利用してるってこと。
勧めるということは先輩の身近な人物――男性が利用してよかったってこと。つまり、江井ヶ島先輩
そんな店に連れて来るか、しかし。もし俺が柚香がいつも言ってるヘアサロンに先輩を紹介したら、先輩は柚香みたいになって欲しいのか、と
鈍感スキルも結構だが、これは鈍感とは違う。
「――サイアクでしょ、この娘。あたしもねぇ、予約の電話受けた時思ったわぁ『うわぁ、コイツ元カレと同じヘアサロン紹介して、元カレみたいな髪型にさせたいの⁉』ってね?」
「わ、私はそ、そ、そんな意図はない! ただ林崎が……変わりたいと思ってるのかと! その、お手伝いが出来ればと‼ そ、それにアンディ、林崎はそんなねじ曲がった受け止め方をするヤツではない!」
「あんた、ホントーにそう思ってる? この顔見ても言い切れる?」
ムスーっ。
「ど、どうした林崎⁉ 私は良かれと思って――」
「はいはい、良かれと、ね? あんたね、悪気がないからって、人を傷つけないとは限らないのよ? ヤスちゃん、いい機会だからイメチェンして、こんなのよりこましな女子に乗り換えたら?」
「はい、前向きに検討します」
検討するのか⁉ そんな顔してる先輩を横目に、確かにせっかくだしイメチェンすることにした。
「透ちゃんはスポーツしてるから、短髪でさっぱり感だしてるけど、ヤスちゃんは――もち、違う路線がいいわよね? 仮にそこのダメな娘が短髪命でも」
短髪命ではないぞ、と首を振る度に、先輩の先輩たる部分が揺れる。まぁ、許してもいいかも……明日くらいには。
「どんな感じがいい? ざっくりとでいいわよ?」
俺は少し考えた。今まで髪が伸びたからとか、お母さんが「そろそろ散髪したら」みたいな感じでしか考えて来なかった。そんな俺に具体的なイメージがあるはずがない。
しいて言えば――
「陰キャっぽくない感じですか」
「いいわねぇ、そうね、うん。トップは長めで
俺は頷き、鏡に映る落ち着かない素振りの先輩を見た。学校では決して見せない姿。学校では堂々としたその姿で、同性に人気を
そういう部分を見せてるのは、俺だけにだろうか。江井ヶ島先輩の前でも、こんな顔してるのだろうか。考えても仕方ないことを考えてしまう。
考えてしまうクセに、元さやに戻れば、なんて言う俺は何なんだろう。
***
「こんな感じでどうかしら、
カットを終えた俺をアンディさんが、背中を押して先輩の前につき出す。
「か、か、かわうぃいと、思うぞ、私は――」
かわいい……? 男に? アンディさんに助けを求める。
(伊澄ちゃん、こんな顔しないよ? 信じていいかもねぇ)
アンディさんは上手にウインクした。
お母さんに事前に美容院に行くと、送ってもらったお金で電子決済し『アンディのお店』を出た。
別に怒ってない。怒ってないけど、このムカムカした感情があることは伝えたい。でもなぁ……伝わるか、この武士に。仕方ない、角を立てるか、少しくらい。
「先輩」
「にゃ、にゃんだ⁉」
なにネコみたいになって浮足立ってんだ? さっきからロクに目も合わせようともしない。どーせ、江井ヶ島先輩と来たヘアサロンでの思い出に浸ってるんだろ、はぁ……
「もし、です」
「はい」
「もし、
「――うん」
「柚香と同じ髪型で、って美容師さんに言ったらどうします?」
「えっ、わ、私にショートボブ……しかもハーフツイン⁉ に、似合うかな⁉」
そこ? 似合いそうだからって意味じゃないです。この反応だと、悪気がないというのはウソではないんだろうが――
なんでこの人は柚香が
バカなの? いや、たぶんそうだろう。柚香みたいな髪型でも「似合ってる」と言えば喜ぶんじゃないだろうか。
ざわざわしてる俺が小さいのだろうか。そして視界に入った先輩の
□□□作者より□□□
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