第24話

「先輩、ねないでください。このパン一緒に食べましょうよ」

『2-C』を出た時、もしかしたらお腹が空いて機嫌が悪いのかも、先輩ったらと。だから、購買により女子が好きそうな、メロンパンとクリームパンそして牛乳を買った。


「やっぱり心配して来てくれるのは林崎だけじゃないか」


「すみませんね、江井ヶ島先輩じゃなくて」

 なに、来て欲しかったの? もし誰も来なかったら? 拗らせ系武家ガールなの? 先輩の活躍のおかげで、新ジャンルが続々と確立されるんだけど。


「林崎。私はそんなにデブか?」

 何を突然。半泣きで何を言い出すかと思えば……気にしてたんだ。でも、は、デブとは言いませんが。


「何を気にしてるんです? 先輩はデブじゃないですよ、基本」

 他の人、特に女子に聞かない方がいい。聞く相手を間違えたら空気読めないヤツ確定だ。


「基本ってなんだ」

 あぁ……なんかめんどくさいスイッチ押したか? いや先輩は実際のところ巨乳でしょ? いいじゃないですか、巨乳。なんて、陰キャに言えるか?

 いや……真っ赤に顔を染める先輩をみたい願望はある。


「そうは言うが、本音のところどうだ?」

 どうだと言われ、先輩の先輩な部分を見る。少なく見積もっても『Eカップ』

 完全に俺的巨乳ゾーン。


 どうだと聞かれたので、改めて至近距離で見るが、破壊力は計り知れない。待てよ、先輩の「どうだ?」とは「どうだ、触りたいか?」の短縮コードなのでは?


「なんで、そんなの気にするんです?」


「前に言われた。とおるに『俺はお前みたいなぽっちゃり系が好きなんだ』って。アイツはぽっちゃりしてたら誰だっていいんだ! そう思わないか、林崎? どうした、林崎?」

 ちっ、惚気のろけかよ。


「いえ、その……さっきから何かざわざわして」


「ざわざわ? 風邪か? いかんな、この時期の風邪は厄介だぞ」

 しかし、江井ヶ島先輩。結構やらかしてるなぁ、そこは「お前が好きだ」だけで良くないか?


 たぶん、体型……を気にしてる先輩をなぐさめるためだろうけど。それに、先輩はぽっちゃり系か?

 巨乳ではあるが、体型は……巨乳系にありがちなぽっちゃり系とは違う。痩せてるとまではいかないが、中肉中背。健康的で理想的な体型。


「これは個人的見解なんで、あてになんないかもですけど」

「うん」

「先輩はぽっちゃり系とは違います。その細部を見たわけじゃないですが」


「見るか? 見て、私が本当にぽっちゃり系か確認してくれ! お前の太鼓判と共に透に抗議する。今は……自分だけだろ、判断基準が。だから自信がないのだ」

 細部って、どこまでですか?脱ぐんですか、ぽっちゃり系かどうか確認するために? バカなんですね。


 江井ヶ島先輩が絡むと周りが見えてないじゃないですか。なんか、胃がむかむかしてきた。胃腸まで来たか。今日は早く寝よう。


 しかし、その挙句「林崎が細部まで事細ことこまかに検証した結果、私がぽっちゃり系でないことが証明された」とか、江井ヶ島先輩に報告するんでしょ?


 俺、完全にませ犬ですよね? 新しいプレー楽しんでません? ゾクゾクしてきた。ダメだ、本格的に風邪らしい。早退しようかなぁ……


 俺の調調に反して――機嫌が少し直った先輩。差し出したメロンパンをぱくりといった。

 機嫌が直ったはずなのに、牛乳パックのストローを、チューといわせながらのジト目。なんだ?


「君は痩せ型が好きだそうじゃないか」

 こちらが疑問をたずねる前に話してくれる。便利なのか、こらえ性がないのか。


「それは一般論としての好みってヤツですよ、先輩もないですか? 日焼けしてスポーツができて、自分のことが大好きな同級生が好みだとか。そういうヤツですよ」


「ん? 何を言ってるかわからんが」

 とぼけてるワケではなく、真剣に首を傾げてる。なに、女子版鈍感スキルなの?

 悔しいが、この悩んでる顔、可愛い。


「つまりですね、江井ヶ島先輩みたいな人がタイプでしょ? 好きになった人がタイプになりませんかという話です」


「何をねてる?」

 拗ねてません、と言いかけてやめた。そんなテンプレを繰り返しても、陰キャに陽の目は当たらない。

 そして鈍感スキルを常時発動させてる先輩にも伝わらない。


「拗ねてますよ、イケメンで、スポーツが出来て、おだやかで。そりゃ、スポーツに関しては、努力もしてるでしょうし、穏やかでいようとするのも、我慢がまんがいるというか……イケメンだって、努力次第で、俺もそれなりになるかもだけど、めんどくさいというか、どうしたらよくなるか、とか調べもしない。なので、単なる嫉妬ですね、はい。なにも踏み出さないでいる自分を、見るのがしんどいので、誰かのせいにしてます。例えるなら、先輩の元カレです。元さやに戻ればいいじゃないですか。なんで少し優しくされたからって、後輩の陰キャになついてるんですか?」


 なんか、風邪気味だから投げやりだ。そして、風邪気味にも関わらず長文。疲れた。


「なんだ、そんなことを気にしてるのか。よし……私にがある。まかせてくれはしないか?」


 ん……何の話だ。我ながら珍しく長文を話したので、何について任せていいかわからない。

 だけど「なんだ、そんなことか。林崎も案外かーいいとこがあるじゃないか」とひとりごとを聞くと、任せたくなる。

 それが気の迷いだった事に気付くのは数時間後のことだった。






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