第23話

「えっと、先輩。そんな話、俺しましたか?」

 若干しらじらしいが、ここは、いま気がついた感じにした。


「したさ! なんださっきから、黙って見てたら、イチャイチャして! これを見せたいがために、私に昼休み教室に居ろと?」

 俺は助け舟を求めて、中八木さんを見たが、肩をすくめて知らん顔。滝の茶屋先輩に至っては完全にエンタメ目線で楽しんでいる。


「そうです、藤江先輩。お察しの通り、今の漫才は、このイチャイチャをお見せするためのわば前座――」


「おい、柚香」


(ちょっと待って、ここから江井ヶ島先輩の、プライド回復大作戦に繋がるの)

(信じていいんだな?)

(うん、この場合、江井ヶ島先輩が私に手を出さない根拠こんきょを示したらいいんだと思うの)


 まあ、間違ってない。そうだ、どれくらい藤江先輩のことが好きなのか示せたらそれでいい。

 別に先輩に元さやに戻って欲しいんじゃない。今のままじゃ、だまし討ちみたいですっきりしない。

 こういう場合、ほとんどの場合、俺が泣きを見ることになるが、そうなると先輩が幸せだということだから、それならまだいい。


「ここだけの話ですが――」

 ここだけの話多いな。


「泰弘ったら、私みたいに『Bカップ以上Cカップ未満』が好きなんですよ」

 おい、何言いやがる。いや、否定はしない。確かにそうなんだが、なんてコイツが知ってる?


 いや、遠距離で中八木さんがなんか誇らしげ。確かに君も俺の見立てだと『Bカップ以上Cカップ未満』ですけど、まあまあ、いらっしゃるクラスじゃないかなあ……

 って、先輩? なんで今日一番でにらんでます?


 確かに先輩はこのクラスじゃないですよ『Eカップ以上』確定です。別にデカいの嫌いって言いました? デカいのはデカいでロマンがありますけど、一般的に俺が好きなのは、柚香が言ったクラスなわけで……


 ん?

 この会話の切り口、なんか意味あるのか? 柚香がああ言ったんだ。単に先輩をあおりたいだけとは思えない。


「なんかこの会話、意味あるのか?」

「大ありよ!」

 誰だよ、お前。


「つまり、泰弘がの『Bカップ以上Cカップ未満』が好きなように、江井ヶ島先輩は藤江先輩クラスの爆乳が好みなんです!」

 ドヤ顔で、人の個人情報をさらした。


「だからなに?」


「だ・か・ら。の胸の私と、ラブホ行ってもなにもしないよ、って話、どう? 説得力あるでしょ?」


 ねえよ! むしろ説得力下がったわ! 見ろ、教室の男子先輩方を。みんな悲しそうな目で首を振ってるじゃないか。

 わかんないか?

 男子たるもの目の前に触っていいπパイがあったら、触っちゃう生き物なんだよ。


 いや、江井ヶ島先輩の無実を証明しようとして、これとんでもないこと言ってないか?


「つまり、アレか。とおる。お前は私の体が、目当てだってことで、いいんだな」

 ほら、先輩さぁ、こういう、ちょっとイジけたとこある子なんだから、取扱注意なんだよ。でも、意外と上げて落とすのはイケる口なんだけどな。

 結果よりプロセスを大事にするタイプなんだろう。


 ***

「えっと、すみません。俺も柚香こいつも悪気はないんです」

 深々と頭を下げた。もちろん、頭を下げたがらない、柚香の頭を押さえるように江井ヶ島先輩に下げさせた。


「いや、林崎君。気にしなくていいよ。伊澄アイツ言い出したら聞かないし。も、なんか悪いね」

 ユズちゃん――なんか気のせいか、ざわりとした。風邪気味かも知れない。そう言えば質の悪い風邪が流行ってるとか、いないとか。


「江井ヶ島先輩、ひとまず俺――先輩探します。えっと、この度、俺、副風紀委員長になったんで」


「そうか、大変だと思うが頑張って」


「いや、頑張んないとなのはちゃんだからね? 別に放っときゃいいのに、ちゃんの無罪証明するために、私たち尽力じんりょくしたんだから」

 とーるちゃん――ダメだ。寒気までしてきた。本格的に風邪だな。


「すまん、すまん。林崎君、元はといえば、こっちが変なことに巻き込んだのに、悪かったね。伊澄いずみの誤解は解けないけど、おかげでクラスでの居心地はマシになりそうだ、ありがとう」

 いい人だ。先輩も早々に受け入れて、仲直りすべき。


「あの、柚香、頭切れますけど、基本コイツの発想は、ほとんど劇薬なんで、ご使用は控えめに」

「参考にするよ」

 さすがサッカー部のエース。どこまでも爽やかだ。


 先輩を探すため『2-C』の教室を後にしようとしてると、背中をツンツンされた。


 だ・か・ら。陰キャにそんな頻繁ひんぱんにボディータッチしたら、明日告っても知らないぞ? もちろん「ごめんなさい」するんでしょ、中八木さん。


 中八木さんは「よう!」みたいに手を挙げた。そう言えば、なんで『2-C』にいたのか聞いてなかった。


「なんで中八木さんって『2-C』にいたの?」


「なんでってご挨拶。君が元カノとこそこそしてるから……心配したんだからね、まただまされないかって。来てみたら騙されてるし!」

 騙されてるの、俺? ごめん、気付かなかった。


「あと、君。私のその……拭いてくれたんでしょ?」


「拭いて……あっ、よだれ?」


「よだれ言わないで。いいけど。お礼言ってなかったし……委員長って強引なんだ、寝てるのに」

 いや、着替え終わるまで寝てるの逆に凄いけど。


「委員長何か言ってなかった?」

 ブラがエロいと――これは言わない方がいい。それくらい陰キャでもわかる。


「林崎君、悪いんだけど委員長たのんでいい? 私、委員長に強制的に起こされたから朝から何もたべてなーい! 倒れそうだから、学食行くね?」


「わかった、ところで先輩のいそうな場所知らない?」


「あそこまでねたら、風紀委員室にはいないかも……校舎裏。昔の体育倉庫があるの。その裏で前拗ねた時発見した」

 先輩ってちょいちょい拗ねてるの? なに、その愛すべきポンコツ。俺は足取りも軽く昔の体育倉庫を目指した。





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