第21話
「まだ、鍵は閉めないんだ」
夕飯後、風呂やらなんやらを終え、俺は部屋でラノベを読んでいた。ガラガラっと音がして、バルコニー側の窓が開く。バツが悪そうに柚香が立っている。
柚香の言う「鍵を閉めない」というのは、彼女の通用門であるバルコニー側の窓のことで、ここを閉めないということは、来たければ来ればいいという意味にも取れる。実際、そういう意味だし。
「早く閉めろよ、蚊が入る」
「うん、わかった」
柄にもなく気にしてるようだが、多少は気にしてもらわないと。しかし、意外とコイツ本気で怒ると、まあまあ打たれ弱い。いつもシュンとしてしまう。
学校では当たり前のように、隣に来ようとするが、強がりなのは長過ぎる付き合いでわかる。
「気が散る、座れ」
「うん、ごめん」
沈黙。
別にいいんだけど、罰を与えているようで、なんか……
「ほら、すぐ窓閉めないから蚊にやられてる、出せ」
蚊に刺されて柚香の手の甲が赤く
「お前さ、反省してるのはわかるけど、黙ってたら被害者面が鼻につく。ホントの被害者、お前じゃないだろ」
「わかってる。明日なんとかする。ごめん」
叱られた4歳児。
昔から知っている。叱られた時の顔と何も変わってない。こうなると、こっちが気が引ける。
「一緒になんとかしてやる。だからもういいって、その暗さは俺のお通夜まで取っといて」
「泰弘のお通夜とか……」
びぇ〜〜っんと泣く。昔から変わらない。
ごめんね、
いいよ。
その繰り返し。いつもの落としどころ。ふたりはこれでいいが、世間はそれを許してくれない。許してもらうには、ネタにするしかない。しかも
「ん……珍しくしてる」
大泣きが落ち着いて、背中を擦ってやるとブラの紐に気付く。コイツ、俺の部屋に来るときは基本ノーブラ。よくてカップ付きのキャミ。
「ちゃんとしないと、怒るでしょ?」
しゃくり上げながら。
「お前さぁ、女子なんだからさぁ、それ当たり前」
「うん。そういうの泰弘しか言ってくれないし……」
いや、それはお前、他の男子にはめちゃくちゃガード高いからだろ。いや、今更ガード高くされても、それはそれで「なに警戒してんだ」となるんだが。
「一旦。戻す」
「うん」
「うんって、わかってる?」
「私とよりを戻すってことでしょ、この照れ屋さん」
涙で顔を潤ませながら、何いってんのコイツ。なんにもわかってない。
「冗談。一旦、幼馴染で従兄妹までってこと、だよね」
わかってるんだ。まぁ、基本頭いいし、読もうとすれば空気も読める。俺には無理。
「そう。あと、委員会に入った。風紀委員。藤江先輩と中八木さんともこの先絡むことが増える」
「中八木!?――ちっ」
何故に中八木さんに舌打ち? 聞くとめんどくさそうなので、聞かない。話はここで終わらせた。
仲の良いだけの幼馴染、従兄妹はこの時間帯にふたりで部屋にいるのはちょっと不自然。
なので、柚香は自宅に帰らせた。
その後、先輩にメッセージで明日の昼休み、教室にいてくださいと送って眠りにつく。
***
「やあ、早くに悪いな」
寝ぼけ眼で歯磨きをしてると、お母さんが呼びに来た。
「ヤス君、モテ期なの?」
何を言ってるかわからない。わからないが、どうしてそこまで、首を傾げるのか、もっとわからない。自分の息子の可能性をもっと信じよう。
からの、冒頭の先輩のあいさつだ。
「なんですか、先輩。それとほぼ、寝てるそれは」
「ん? 気にするな。
ほぼ、寝てる「それ」は中八木さんだった。
それにしても、ここからまだ引きずり回されるのか。なんか不憫。
制服には着替えているが、寝癖がついたままだ。待てよ。先輩が無理やり起こして連れてきたんじゃ……
「家の人にはちゃんと断った。服も私が責任を持って着せたんだ」
すごいだろ? みたいな顔されても。
服も自分で着れないくらい熟睡してるのを……それ拉致じゃないのか?
「あの、先輩。ちゃんと下着付けてあげましたか? 学校で目覚めてノーブラだったなんて、シャレになりませんよ?」
「大丈夫だ。まぁまぁ、エロいブラだったぞ?」
エロいのか? ど、ど、どんな感じでエロいんだ? その透ける感じなのか?
そんな高校生男子らしい妄想を巡らせていると、先輩はとんでもないことを言い出した。
「爽やかな朝だから、立番でもやらんか?」
えっ、立番? 立番って、校門で立って挨拶するあの、地獄のような
考えてもなかった。陰キャが話したこともない生徒に挨拶なんて。控えめに言って地獄だろ。
「先輩。短い間でしたが、お世話になりました」
「ははっ、相変わらず林崎はおもしろいな、冗談はさて置き、行くぞ」
俺は虚しく先輩に連行されることとなった。
***
「林崎君。君。私の寝顔見ましたね」
だからなに。ちなみによだれを拭いてあげたのは俺なんだけど。
「あの、お言葉だけど、中八木さん」
「なに、林崎君」
「女子の寝顔って、言うほどいいもんじゃないよ。第一夢が壊れる」
「あらそう? それは可愛い女子の寝顔を見たことがないせいじゃないの、林崎君。例えば君の幼馴染の
キメ顔で俺を見てるトコ悪いんだけど、さっき見たのは学年で6番目の君の寝顔。だから、その感想なんだけど、6番目の
あと、寝ぐせな? アホ毛に見えなくもないからいいか。
そんなことを考えながら、陰キャな俺は地獄の立ち番を終えた。
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