第15話
昼休みの屋上。あちらこちらに生徒がいた。設置されたベンチがいくつかあり、女子やカップルがぽつりぽつりといたが、座るベンチがないほどではなかった。
昼休みの屋上はリア充御用達の場所。
俺みたいな陰キャが、そもそも足を踏み入れていい場所じゃない。軽く手汗が――
なんでこんな場所を中八木さんが選んだのか、訳がわからない。
もしかして、秘密保持のために屋上から突き落とす? いや、それはない。いや、待てよ「今度語尾で
ひとまず謝ろう。誤解なんだ。ちょっと話しかけられて、他の男子より仲いいかもなんて、妄想抱いちゃっただけ。
なにせ、俺的公式では中八木さんは学年で6番目にかわいい。そんな子と話せるようになった。だから、ちょっといい気になってた。
いくらなんでも土下座までは要求しないだろう。いや待てよ、こういう一見普通で真面目そうな女子に土下座――
新たな属性が芽生えるかも。ニューワールドな予感。なんのこっちゃ。
などと妄想していると、中八木さんが二の腕をツンツンしてきた。あの、陰キャ相手にボディタッチはとんでもない誤解を生むので、やめましょう。
今のツンツンで告白までのロードマップ頭に浮かんだ。あっ、ついでに振られる映像――「ごめんなさい」まで見えた。
「えっと……」
ツンツンの意味を聞こうとして上手く聞けない。先輩相手なら少しくらい軽口を叩けるようになったのだけど。
それは先輩の武士のような口調も関係してる。姉さんに少し似てるからかも。中八木さんは当たり前だけど、普通の女子の話し方だから少し緊張する。
「えっと、林崎君。あのすみっコ、行かない? ちょっと日陰だし」
あっ、陰キャに日陰を勧めるなんてなんて優しいんだ。そう、陰キャは屋上の直射日光にくらっとくる。陰キャに直射日光はよくない。最悪溶ける。
日陰はいいが、建物の陰で他の生徒から見えない。
そんな他の生徒から見えないところに、陰キャが俺的学年6番目にかわいい中八木さんと行っていいものか。
でも先に目的地に辿り着いた中八木さんが振り向いて「ほらっ!」みたいに手招きする。しかも笑顔で。
あっ、いま勝手にここが
あれ、これ死ぬ
***
「あの……それなりにこっちの世界に、
告白。
言葉選びは慎重にお願いします。
妄想は
「えっと、なに?」
一応聞こう。完全に告白じゃないとも限らない。いや、
「これ見てくれる?」
なぜか顔を真っ赤に染める中八木さん。肩までの髪から少し出たきれいな形の耳まで真っ赤だ。差し出されたのは彼女のスマホ。
「ん……これは――」
そこには――犬耳でメイド服を来た
「それで語尾が『ワン』なんだ」
「うん、イメトレ中だったの。ほら、私って猫派っていうより犬派じゃない?」
いや、知らん。だけど藤江先輩と接する感じはそうかも。
「そうだね、なんか忠犬ぽい」
「――でしょ! 林崎君、君なかなかわかってくれてる!」
いや、ごめん。それほどわかってない。
「つまり……犬耳メイドってこと」
「
なぜに英語⁉ 中八木さんは安心したのか、腰掛けた段差に体重を任せて足をぷらんぷらんする。
ちょ、これなに、青春のひとコマっぽくない?
「他もあるんだけど、見てくれる?」
ほかもって……さすがにポロリとかないよな、見ていいんだろうか。横目でチラッと見ると期待に
「かわいい……」
あっ、ヤバい。思ってることつい言葉にしてしまった! これ完全にキモがられるヤツだ‼ 屋上の熱気関係なく背中に一筋の汗が流れる。
恐る恐る中八木さんの顔を見ると両手で顔を押さえてる。キモ過ぎて怒りに肩を震わせてる。
うん、土下座しよう。俺は滑らかな動きで土下座に移行しようとした、その時――
「ほんと? からかってない?」
「ごめん、ついその……」
「つい?」
「えっと、キモいこと言って」
「その……キモいとか思ってない。その――ホントなの? かわ……いいって?」
顔を両手で隠していた指の間から覗き見る表情は――破壊的にかわいかった。
***
「ちょっと待ってね」
そう言うと中八木さんは誰かに通話を始めた。そして2分と待たずにその男子は全速力であらわれた。
あっ……イケメン。
ヤバい。彼氏だ。そりゃ学年で6番目にかわいいとなると、彼氏のひとりやふたりいてもおかしくない。そしていきなり彼氏さんは俺の腕を
「君、それは本気で言ってるのか!? 正気か⁉」
「えっ、何がですか!?」
腕章から2年生だ。中八木さん年上と付き合ってたんだ。
「
あの姿。犬耳メイドのこと、だよな。今更嘘をついても仕方ない。土下座する相手がふたりになっただけ。
「その……スミマセン。そう思いましたけど……」
「マジか……正気か……」
彼氏先輩は俺の肩に手をついて項垂れる。
「ねっ、見る人が見たらそーなのよ」
何故かそこに勝ち誇ったように胸を張る中八木さん。これはアレですか、
「君、名前は?」
「俺、ですか? あの……林崎です。1年の林崎泰弘です」
「泰弘、
妹……?
なんのこっちゃわからない俺の隣で、当の中八木さんは「ふんぬっ」とドヤ顔で、彼氏先輩もとい、お兄さんをドヤ顔で見返した。
□□□作者より□□□
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