第10話
「は、は、初めまして! 私、
見てるこっちが緊張するくらい、先輩はガチガチに緊張していた。
そして風圧を感じるもの
「あらあら、かわいい武士さんだこと。母です、よろしくね。伊澄ちゃん」
先輩は俺を見て「武士?」みたいな不安そうな顔したが、そこはごめん、スルーさせて。
再び俺を見て「伊澄ちゃんだって!」みたいな歓喜に振るえた顔をした。中々喜怒哀楽、激しいなぁ。実はここに至る数時間前、俺と先輩は会っていた。
***
数時間前。早朝。
きのう遅くに先輩にメッセージを送り、無事会えることになった。なったのはいいが、偽りの寝取られという情報を共有出来てないのが、気になってならない。
気になって眠りが浅かった。
そしてふと思いついて先輩にメッセージを送った。
「おはようございます。もしよかったら今から会えませんか?」
イチかバチか。
寝てるかもだし、寝起きの顔を見られたくないなんてよく聞く話だ。いや、それはあくまでクラスの誰かが話してるのを、偶然耳にしただけで俺との会話じゃない。そんな会話陰キャには無縁なので。
ちなみに――柚香は普段からよだれ垂らして寝てても気にしてないヤツだ。
『会いたい――ってこと?』
会いたいのは会いたいなんだけど――先輩の受け止めかたが『会いたい』ではなく『逢いたい』と受け取ってるように思えて、更に解かないといけない問題を作った気がする。
俺にとっての『会いたい』は目的であって、先輩の『逢いたい』はより強い感情、気持ちが乗っているように思えた。考えすぎだろうか。
――とはいえ、会うことは変わらないので。
「そうです、大丈夫ですか?」
そう送った。
『私も会いたい』
やや
いま俺が持っている事実を伝えても、先輩は今の気持ちのままなのだろうか心配もあった。
『もしよかったら来てくれないか。その……昨日の今日、彼女にひとりで出会うかもと思うと少し怖い』
彼女とは
このひとつとっても彼女は武士ではない。
彼女が武士らしい一面があるとするなら、やせ我慢して笑う横顔だろう。
先輩の位置情報を受け取り、きのう手入れしたマウンテンバイクを出す。意外にも先輩の自転車もマウンテンバイクだった。
そんなことを考えながら、先輩に貰った位置情報を頼りにペダルを
しかし、俺自身も気付くべきだった。
先輩に起こることなら、俺にも起こるということを。
***
「君は――」
出会いは突然だった。
先輩の位置情報。メッセージに添えられた家の特長。駐車場には青い車。そして表札。そんなものに気を取られて、俺は周りが見えてなかった。
「あ……っ」
本当に「あ……っ」としか言いようがなかった。
俺と藤江先輩の条件は同じ。幼馴染と付き合い。幼馴染を寝取られた。そしてその幼馴染は隣に住んでいた。
柚香から――藤江先輩の元彼の名前は聞いていたし、ファミレスの窓から仕組まれた自作自演の罠。だから江井ヶ島先輩の顔を知っていた。
いや、自作自演なら――元彼というのはなんか違う気がする。
こんな朝早くに先輩に会わないとって思ったのは、その辺りが原因で、先輩を振り向かせたいための嘘だったと知らせたうえで、これからのことを決めないと目覚めが悪い。昨晩は寝つきが悪い、だけど。
しかし、出会ってしまった。自作自演。それは柚香から聞かされた。
でもどうなんだろう。
絵を描いたのは、話を書いたのは確かに柚香だ。
でも、一緒に演じて、寝取られという舞台に上がったのは、彼自身の判断だったはず。誰に命令された訳でもなければ、強要された訳でもない。
真っすぐ、ぶつかればよかった。ぶつかってダメでも、次がある。それがダメでも終わりじゃない。
どうせ今回もダメだろう。そんな
結果はどうだ?
藤江先輩を泣かせた。悔しくて、苦しくて、情けない涙を流させた。自作自演でホントじゃないからセーフ?
遠慮しないとなのか?
年上だから? サッカー部のエースだから?
どうでもいい。
柚香から、もしかしたら、自作自演だったことがバレたと聞いてるかも。それはそちら側の話で、俺と藤江先輩には関係ない。
少なくとも、俺の口で、言葉で、気持ちで伝えるまで「私は……その付き合いたい」と言ってくれた藤江先輩の言葉は生きている。
***
「林崎です。林崎
どうしたんだ、陰キャ。ちゃんと
「早かったな、林崎。急いで来てくれたんだな、君は本当に優しい」
狙いすましたようなタイミング。しかも藤江先輩から俺は見えても、江井ヶ島先輩は見えない。止めようとしたが時すでに遅し。
「朝から君に会える私は幸せ者だ。ん……あっ……
それはお互い様です、先輩。
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学年で6番目にかわいい女子が幼馴染や学園のマドンナにも引けを取らない物語 アサガキタ @sazanami023
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