第8話

「捨て身過ぎん?」

 嫌な汗が全身から流れた。なに、この寝取られ――仕込みだったのか?

 どっきり?

 いや、全校生徒巻き込んですることか?

 ってか、先輩……藤江先輩。巻き込む必要あったのか⁉ いや、あるはずがない。


「需要と供給。わかる?」

 わかるかーい‼ いや、待て。待とう。いつものだ。いつものけむに巻くヤツだ。なし崩しにされて、何もなかったことにする気だ。

 もうその手には乗らない。


「何が目的だ」

 でも、一応聞こう。頭ごなしはよくない。

「目的? 簡単よ。嫉妬に狂って滅茶苦茶にされたかったの。だってこうでもしないと手――出さないでしょ? 危機感をあおる? そんな感じ(笑) なに気にしてるの? だから? 知ってるだろうけど一応言う。従兄妹結婚できるよ。瑞姫みずき姉ぇ以外家族みんな賛成してるじゃない。は家族じゃないし」


 そう。俺と柚香は幼馴染。しかも従姉弟。始まりは何となくだが付き合ってて、

 それだけじゃない。


「なに? なのがダメなの? 一卵性双生児。前髪の分け方以外見分け付かないくらいそっくり。?」

 そう、そこだ。母親同士が双子。一卵性双生児。そして何より柚香ゆずかはおばさん似。

 ――ということはつまり、お母さん似でもある……


 事実、柚香とウチのお母さんが一緒に買い物に行こうものなら『お母さんとそっくり』みたいなことを言われる。

 それも頻繁ひんぱんにだ。

 つまり、それは柚香が若い頃のお母さんに似ているってこと。


「マザコンの泰弘にはいたれりくせりじゃない(笑)」

 滝汗。反論出来ない。

 いや、それも前の話だ。ラブホに行って、何もなかったなんて言い訳は苦しい。それに藤江先輩を巻き込む必要は、本当になかった。


「それとも何、私――なにかされたって思ってる? どこで?」

「どこでって、ラブホに決まってるだろ」

「うん、でもラブホの入り口で帰ったよ。料金パネル見てさ『意外と高いねぇ』みたいな会話して」


 つまりは入室してないって言いいたいのか。でも、思春期男子がそんな提案に乗るだろうか。思春期男子の蒼い衝動を舐めてるだろ、お前。


「極論すると、先輩が悪い」

「先輩? 藤江先輩か?」

 なんでだ。きっと一番悪くない。俺は柚香ゆずかの暴走を止めることが出来たかも知れない。コイツの性格を知ってたはずだ。甘く見ていた。


「言ったでしょ、藤江先輩は武士だって。江井ヶ島先輩――藤江先輩の彼氏で幼馴染さんは私と同じなんだって」


「お前と?」

「そう、私なんていくらすきを見せても、なーんにもしてくれないじゃない、君ってヤツは。あのね、私たちが実の兄妹なら泣く泣く我慢する。仕方ないじゃない、来世に期待するしか。従兄妹だよ? 母親が双子だと結婚ダメって法律ないよね? 親だって付き合うの反対してなかったでしょ、まぁ、賛成してるか、わかんないけど。も同じなの。逆に先輩片時も隙を見せないの! 江井ヶ島先輩はでも。実際あっちもこっちも、お互い好き同士。じゃあ、もう嫉妬に狂ってもらうしかないじゃないってなったの。も悪いんだからね?」


 つまり、全生徒を巻き込んだ自作自演。それを信じろと? ムシが良すぎるだろ。第一なにもなかったなんて証明出来ない。


「確認してみたら?」

「江井ヶ島先輩にか?」

「ちがーう。そんなの意味ないでしょ、疑い深い陰キャなんだから『きっと口裏合わせて俺のことだましてんだ』になるでしょ。何年幼馴染やってると思うの? 私がご提案してるのはもっと具体的なこと」

「具体的? 悪い、話の方向が見えん」


「おい、何しようとしてる?」

 おもむろに、突然、なんの前触れもなく穿いてたスエットのズボンを半分ぐらい下げた。淡いピンクのパンツ。コイツ本当にピンク好きだなぁ……じゃない!


「だって」

「だってじゃありません。意図が見えません。もしかして誘惑して、あわよくば、なーにもなかったことにしようとしてないか?」

「ニシシッ、それゼロじゃない(笑)」

 ゼロじゃないんかーい!


「でも脱がないと確認できないでしょ?」

「何を?」

「言わせないでよ処○膜よ!」

 ○女膜って確認できるのか⁉ 

「いや、どうやって?」

「ん……目視確認?」

「具体的には?」


 俺は柚香にベッドをちょいちょいと追い出され、俺が寝てた場所に収まり――もちろん脱ぎかけたスエットはまた穿いたが――見事に足を広げ、お股を開き……その、アレだ。

 見せる仕草――俗に言う『くぱぁ』とでも言おうか。

 断っておくが、もう一度言う。スエット穿いてる。


「ごめん、質問」

「どーぞ」

「処〇〇って見てわかるの?」

「知らなーい。見たことないもん。泰弘はある?」

「お前、俺の陰キャ力、舐めてんだろ?」


「藤江先輩の傷心に付け込む手練てだれさんでしょ? 正直、あせってる。だから、素直な私は無実を証明して心からの謝罪の意を表明すべく――ささげようかなぁ、みたいな?」


 捧げる……そ、そういう意味だよなぁ。生唾を飲み込むものの――先輩の、笑ってる先輩の顔が浮かぶ。


「そういうの素人の俺が見てもわからない」

「逆に玄人くろうとって誰? お医者さん? てもらって診断書書いてもらうとか? 嫌だよ、君以外に見せたくない」

 急に女子っぽくされても……


「こういうのはどう?」

「ロクなもんじゃねぇだろ」

「まぁ、聞きなさい。君にはメリットしかないから」

 そこまで言うなら聞こう。コイツなら黙って病院に行くかも知れんし。


「ひとまずさぁー」

「うん」

? でね、事後にわかるじゃない? ほら。で、もし君の判定で黒が出たらきれいサッパリ諦める!」

 いや、ある意味正論のように聞こえるが――なし崩しパターンじゃないのか? それにここまで堂々と言うってことは、寝取られはなかったってことじゃないのか。


「白なら?」

 結果が白の場合も聞かないと判断できない。

「もちろん、結婚マリアージュ♫」

 もう完全に罠だろ……


 和やかムードになりかけて、思い出した。今日みーちゃんが帰って来たんだ。


「あのさ、訃報ふほうなんだけど」

「訃報? まさか、藤江先輩をすでに毒牙に……」

 誰が毒牙なんだ。そうじゃない。


「今日さ、みーちゃん帰って来てた」

「へぇ、瑞姫みずき姉ぇ、帰ってたんだ、それで?」

「先輩があいさつした」

「ふーん、しそうな感じ。ちゃんとしてるっぽいもんね」

 まさに他人事な反応。しかし――


「みーちゃんに関係を聞かれた時、先輩が説明したんだけど」

「待って、説明したって……まさかのまさか?」

 高みの見物から一転、俺のベッドでゴロゴロしてた柚香は飛び上がった。


「説明したよ、先輩が丁寧に。お互いの交際相手が浮気して、辛かった時に支えてくれた俺のことが好きだって」

「待って‼ えっ、言ったよね? フェイクニュースだよ? いや、自分が意図的に流したのはスマン! えっ、瑞姫姉ぇはなんて?」

「昔から柚香は信用できないって言ってたでしょって、怒られた」

 柚香最大の天敵みーちゃんに、災害級の誤解を与えたのは言うまでもない。











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