第四章

Side:黒猫 歌鈴

第40話 月収30万円(1)- Side:黒猫 歌鈴(劇場:ダンジョン)


「またね~、ばいば~い!」

「……ばーい」


 5回目の配信が終わる。

 まだ、れていないのか、フーカちゃんのトークはぎこちない。


 セーカくんに無理矢理やらされている。

 なので「仕方ないよね」とは思うのだけれど――


(その割には、ちゃんとやっているような……)


 終わったというのに、固まったままだ。

 気力を使い果たし「放心状態になった」という所だろう。


 口からたましいが出ていそうである。


「2人とも、お疲れまでした。素晴らしい動画がれましたよ」


 とはリーナちゃん。金髪ツインテールのメイド服の美少女だ。

 ニコニコとした笑顔が可愛い。


(見た目は小学生なんだけれど……)


 しかし、中身はドラゴンである。

 私たちのボディガードもねているので、相当強い。


(本気を出したら、ダンジョンの地形が変わるかも?)


 知識の一部を召喚主マスターであるセーカくんと共有しているらしく、アプリや精密機器のかつかいにも精通していた。〈人馬一体〉というスキルらしい。


(リーナちゃんは『馬』じゃなくて『竜』だけどね……)


 本来の用途と違う気がするのだけれど、便利なスキルである。

 そのため、彼女には人間社会の一般常識もあるようだ。


「フフン、汽車きしゃにだって乗れます!」


 えっへん!――とリーナちゃん。

 北海道では、鉄道列車のことを『汽車』と呼ぶことがある。


 蒸気機関車が主流だった時代の名残なごりなのと、電化区間が少なくて、ディーゼル機関車が多いことが理由みたいだけど――


(セーカくんのことだから、ワザと教えてなさそう……)


 私は「へぇ、すごいね」と答えた。

 探索者シーカーは防衛省の管轄かんかつとなる。


 ダンジョン適合者の把握はあくとダンジョン災害に備えて――というのが理由だ。

 基本、登録した地域エリアからの移動は禁止。


 地域エリアは『北海道地方』『東北地方』『関東地方』『中部地方』『近畿地方』『中国・四国地方』『九州地方』の7つである。


 現在、沖縄県や海底にはダンジョンの出現が確認されていない――とは言っても、申請さえすれば、国内なら自由に移動が可能だ。


 ただ、海外の場合は制限がある。この辺は自衛隊の海外渡航とこうと同じなのだろう。

 日本に比べて、海外の場合はダンジョンの出現率がきわめて少ない。


 ダンジョン出現当初は、ダンジョンの情報を得るために「日本人が拉致らちされる」という事もあったようだ。


 今となっては、ダンジョン観光は主流である。

 私の世代からすると、にわかには信じがたい状況だ。


(東京で電車に乗る機会なんてないから、大丈夫かな?)


 上手く説明する自信もないので、取りえずは、放置でいいだろう。

 こういう事はフーカちゃんの方が向いている。


(それよりも『視聴回数』だよね……)


 嬉しいを通り越して、怖くなったので確認していない。


「えっと……私たちの配信って、人気があるのかな?」


 私はおそおそる聞いてみる。

 正直、ダンジョンでお菓子を食べているだけの配信だ。


(そろそろ、人気も落ちているだろう……)


 そんなことを期待していたのだけれど、


「はい、バッチリです」


 とリーナちゃん。いい返事だ。


「再生回数も増えていますし、チャンネル登録者数も、まだ成長の余地があります。海外向けのサムネイルも作ったので、インプレッションとクリック率にも期待できます」


 むっふん!――とリーナちゃん。何やら、余計なことをしてくれたようだ。


(最初は「たまたま話題になった」と思っていたのだけれど……)


 彼女は機材の準備から配信環境の整備、テスト配信とプロモーションまでやってくれる。


 任せきりにしている私も悪いのだけれど、ちゃんと確認しておくべきだった。

 リーナちゃんから詳しく話を聞いて、いくつか分かったことがある。


 なんと、私たちの知らない間にSNSの配信とブログの作成までやっていた。

 さらに「動画の編集やSEO対策もバッチリです!」とのことだ。


(これ……リーナちゃんに、お金を払った方がいいのかな?)


 などと考えてしまった。

 リーナちゃんはキョトンとした顔で首をかしげると、


「そうです! 忘れていました」


 そう言って、ポンと手を叩いた後、


「マスターに言われて『ダンジョンエクスプローラーメンバーシップ』に参加しておきました。これで収益化が可能になったので、ファンとの交流やコラボをもっと積極的にやっていきましょう!」


 と笑顔を浮かべる。「リーナは出来るメイドなのです、えっへん!」といった感じで胸を張った。


 めてめて――といった心の声が聞こえるので、私は「偉い偉い」と頭をでておく。


(余計なことしないで欲しいな……)


 とも思ったのだけれど、口にはしない。

 気力が回復したのか、やっと息を吹き返したフーカちゃんだったけれど――


(今の話を聞いて、泡を吹いて気を失ってしまったみたい……)


 人間不信の引きこもりには荷が重いようだ。


(まあ、いっか……)


 今は、そっとしておこう。

 どうせ、セーカくんが戻ってきたら――


(八つ当たりをして、元気になるよね?)



🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️



*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*


ฅ^•ω•^ฅ「カリンと~♪」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「フーカのー」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「ティーダンジョン♪」


ฅ^•ω•^ฅ「今日は『電車』についてです」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「北海道を中心に鉄道路線を有する無能な特殊会社があります」


ฅ^-ω-^ฅ「こらこら」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「うー」


ฅ^>ω<^ฅ「今日は北海道の人が東京へ行った時『電車に乗る際に困惑する』っていう話だよ!」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「えっ⁉ 運賃を値上げするしかない能のない、安全管理の不備に事故の多発、不祥事の発覚に経営再建の遅れ、路線廃止のうえ、地域との連携不足で有名な――あの会社の話じゃないの?」


ฅ^>ω<^ฅ「はいはい、まずは『電車の本数の多さ』にビックリするよ!」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「東京の電車は本数が多くて、駅自体も改装していたり、時間帯によってはすごく混雑したり、れていないと大変だからね」


ฅ^>ω<^ฅ「次は『複雑な路線図』!」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「確かに複雑だけれど……今はスマホアプリがあるわ。待っていれば、スグに電車もくるでしょうし、慌てないことよ」


ฅ^>ω<^ฅ「次は『ICカードの利用』!」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「北海道と違ってSuicaやPASMOのアプリやICカードが一般的ね。ただ、アプリやICカードを持っている人が、なぜか切符の使える改札口に並ぶ不思議。IC専用の改札口の方が空いているのにね?」


ฅ^>ω<^ฅ「次は『エスカレーターのルール』!」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「片側を空けるルールってヤツね。それくらい、状況を見て判断できるでしょ? 空いていたら歩けばいいし、混んでいたら周りに合わせればいいのよ。人の流れに沿って歩けない人も問題よね。流れに逆らって歩く人。考えるな、感じろ!」


ฅ^>ω<^ฅ「最後は『電車の種類』!」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「普通電車、快速電車、特急電車とかのことかしら? 特急は北海道の場合、別料金だから……文化の違いね。話のネタとして鉄板だし、一度体験しておけばいいんじゃないかしら?」


ฅ^>ω<^ฅ「北海道の人が東京へ行く時は気を付けようね!」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「北海道に限らず、地方は電車よりも車で移動するのが普通よ。北海道の鉄道会社も一部では、地域密着型のサービスが評価されているようね」


ฅ^-ω-^ฅ「観光列車『ノロッコ号』って、廃止じゃなかったけ?」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「大雪の日も増えたし、雪に強い電車(除雪機能や耐寒性能を強化した車両)で人を集めればいいのに……」


ฅ^-ω-^ฅ「そういえば、雪で車が使えない場合もあるよね。駅を病院や介護施設とくっつけて『地域拠点にすればいい』と思うけど……」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「そうなれば、次はお店ね。こうやって、地域住民の利便性が向上することで、駅の利用促進にもつながるわね」


ฅ^-ω-^ฅ「後は無人駅とか、やめた方がいいよね? 夜とか普通に怖いし……社員寮として駅を活用するのはどうかな?」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「無人駅がなくなるし、いつでも駅員さんがいるから安心して利用できるわね。社員の人も、遅刻のしようがないわね」


ฅ^-ω-^ฅ「まあ、北海道はでっかいどーだからね。広大な土地に対する運行コストの高さと、人口減少はどうしようもないのかな?」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「誰が経営しても収益を上げるのは難しいでしょうから、付加価値をつけて、存在意義を見出す方がいいわね」


ฅ^-ω-^ฅ「例えば?」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「新技術を導入するための実験場にするとか、教育機関と連携して学校との共同プロジェクトを行うとかが有効だと思うのだけれど……じゃあ、今日はここまで」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「またね~、ばいば~い!」


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