第35話 フロストシーアクアリウム(2)- Side:黒猫 歌鈴(水族館)


 イルカショーを行う水槽すいそうとは別に、イルカたちが休むための専用プール。

 浅瀬と深みが組み合わさったプールで、イルカが遊びやすい環境が整っていた。


 浅瀬には砂や小石が配置され、自然な環境を演出している。

 ダンジョンの入り口である球体が出現したのは、プールの一番深い場所だ。


 泳ぎの得意な人だったら、大丈夫そうだけれど――


(普通の人なら苦労する深さだよね……)


 観光用ダンジョンの時と同様、バックヤードには別の入り口が用意されているそうだ。


 今回は『探索者シーカー』専用ではなく、職員専用だった。

 私たちは『秘密の研究室』とも言うべき場所へと案内される。


 中にはいくつもの水槽が用意されていて、見たことのない魚が泳いでいた。

 ダンジョンの生物を研究しているらしい。星霞せいかくんは、


「現在、行われているのは『生態調査』と『環境調査』、『行動観察』と『医療研究』でしょうか?」


 そう言って――私たちへの説明も兼ねて――職員さんへ質問する。

 星霞くんの質問の意図をみ取ったのか、案内してくれていた職員さんは、


「そうですね」


 と答えた。彼の話によると――ダンジョンの安全性が確保できないことと、ダンジョン生物の生態が謎であるため、水族館側は『研究プロジェクトの開始』のみを決定したらしい。


 本来であれば『特別展示エリアの設置』や『ダンジョンツアーの開催』、『生物の保護活動』や『教育プログラムの実施』を行いたかったそうだ。


 けれど「知識も人材も足りない」という理由で断念している。

 ダイビングライセンスはかく、『動物飼育技術者』や『水族館学芸員』の資格を持った探索者は珍しいのだろう。


 その他にも『環境保護技術者』や『獣医師』、『水質管理技術者』の資格があるといいらしいのだけれど――


(それだけの人材がいたのなら、逆に水族館をやめて、ダンジョン水族館を開業した方がいいよね……)


 そんな気さえしてくる。また、海や川にダンジョンの生物が逃げてしまった場合、どのような影響があるのか分からない。


 下手をするとダンジョン災害と同様の被害が出てしまうだろう。

 慎重にそうだ。


 現状はプロジェクトを通して、ダンジョンの生物を詳細に調査し、その生態や行動を解明することを目指している段階らしい。


 ダンジョン産の動植物を食べることで、ダンジョン適合者になる可能性があるため、市場への流通は難しいそうだ。


 また、新たな薬の開発や防護対策の確立も必須になる。ダンジョン内の環境も未知な部分が多く、危険も伴うため、慎重なアプローチが求められていた。


天霧あまぎりくんが、ここの職員になってくれれば『遺伝子解析』や『毒性研究』、『繁殖研究』や『食物連鎖研究』、『教育プログラムの開発』にも手を広げられるんだけどね」


 と露骨ろこつな勧誘をする職員さん。

 いや『職員』というよりは『研修者』だったようだ。


 このままでは――星霞くんが取られそうだ――と思って、私はつい「ダメです!」と星霞くん腕に抱き着いてしまった。


(まあ、こんなことをしても私のモノではないのだけれど……)


 フロストナイトの仮面を装着しているため、星霞くんの表情は分からなかったけれど、


「それって『24時間365日』休みナシじゃないですか……」


 嫌ですよ――と告げた。きっと、笑っているのだろう。


「それは残念」


 研究者さんは肩をすくめて失笑した。今の失笑は私の行動を見たからだろう。

 取ったりはしないよ――そういう意味かもしれない。


 途端とたんずかしくなり、私は星霞くんから離れた。

 一方、その星霞くんは、


「研究を続けるにも費用が必要ですしね。ダンジョンで発見された生物の特別展示エリアやガイド付きでダンジョンを探検するイベントを企画、環境保護の重要性をうったえるのも大切だ――というのは分かりますけど……」


 それを良く思わない人たちもいるので、気を付けてください――と告げる。


「そういえば――とあるダンジョンでは『万応素マナ』が枯渇こかつしつつある――そんなうわさがあったな」


 と研究者さん。「国外の勢力の介入か」などとつぶやいてあごに手を当てた。

 星霞くんの反応を知りたかったようだけれど、今はフロストナイトの格好なので分からない。


 当然、私も風奏ちゃんも、そんな話は知らない。

 よって、話はそこで終わった。


 案内された場所である研究室の奥には、転移用の魔方陣がある。

 私が知っているモノよりも小型だ。重機や車を転移させることは出来ないだろう。


 星霞くんは、私と風奏ちゃんを魔方陣の中央へと立たせる。

 同時に彼自身はスマホを使って、転移装置を操作した。


 研究者さんに見送られ、私たちは光の柱に包まれる。

 気が付いた時には、真っ白な部屋にいた。


 広くはないけれど、出入り口は複数あるようだ。

 恐らく、目の前の頑丈で大きな扉から外へ出るのだろう。


「2人とも、体調に異常はないですね」


 と星霞くん。うなずく私たち。

 その反応を確認すると、


「では、こちらです」


 そう言って、小さな扉の方へ私たちを案内する。


「前回のダンジョンは組合くみあいがしっかりと管理をしていましたが……」


 ここはセキュリティが甘いですからね――と告げる。

 しかし「その分、少しくらい派手に動いてもバレません」と不吉なことを言った。


「それはいい」


 とミズウサギの着ぐるみ姿で風奏ちゃん。どうやら、ご当地キャラの「しゃべらない」という設定を律儀に守っていたようだ。


 2人の姿はまるで「くっくっくっ」と笑っているように見えなくもない。


(邪悪な感じがするよ……)



🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️



*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*


ฅ^•ω•^ฅ「カリンと~♪」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「フーカのー」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「ティーダンジョン♪」


ฅ^•ω•^ฅ「今日は『北海道の毛ガニ』についてです」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「ライダーになって、頂点を極めるのは興味深い……!」


ฅ^-ω-^ฅ「こらこら」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「うー」


ฅ^>ω<^ฅ「北海道のカニは季節ごとに異なる美味しさが楽しめるよ!🦀✨」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「毛ガニの他にもズワイガニ🦀、花咲ガニ🦀、タラバガニ🦀なんかがそうね」


ฅ^-ω-^ฅ「残念ながら、たくさんあるので今日は『毛ガニ』だけです」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「甲殻類アレルギーの人もいるからやめない? タコやイカ、貝類(ホタテ、アサリなど)でも反応するらしいわよ」


ฅ^-ω-^ฅ「で、本当の理由は?」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「面倒なだけ」


//////////////////


🦀 北海道では『毛ガニ』一年中捕れる 🦀


🌸 3月~6月:オホーツク海沿岸(北東部)


 流氷が溶けた後の栄養豊富な海で育つため、肉厚で甘みが強い毛ガニが多いです。


☀️ 7月~8月:噴火湾沿岸(西部)


 温泉成分が海に注ぎ込まれるため、特にカニ味噌の質が高いとされています。


🍁 9月~12月:太平洋沿岸(南東部)


 寒冷な海域で育つため、身が引き締まり、しっかりとした食感が楽しめます。


⛄ 12月~2月:日高沖(南西部)


 極寒の時期に水揚げされるため、甘みが濃厚で身がしっかりと引き締まっています。


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ฅ^>ω<^ฅ「オススメの食べ方も紹介するよ🌟 3月~6月!」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「シンプルにでて、そのまま食べるのが一番ポピュラーね。カニの甘みと風味を最大限に楽しめるわ」


ฅ^>ω<^ฅ「7月~8月!」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「カニ味噌を甲羅に詰めて焼いたり、酢の物にしたりして楽しむのがいいみたいね」


ฅ^>ω<^ฅ「9月~12月!」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「焼きガニにして、香ばしい風味を楽しむのが良さそうよ」


ฅ^>ω<^ฅ「12月~2月」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「カニ鍋にして、カニの出汁がたっぷり出る鍋料理が人気ね。寒い季節にはぴったり――ということで、今日はここまで」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「またね~、ばいば~い!」


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