Side:天霧 星霞

第31話 生態系調査部門(1)- Side:天霧 星霞(回想)


 思い付きで始めてみた動画配信だったけれど、想像以上に効果は大きいようだ。

 確信があったワケではないけれど、この辺はやってみないと分からない点が多い。


 ことの発端はダンジョン協同組合の腐敗にある。防衛省や官僚の天下りが多く「彼らが自分たちの利益を優先する」という話自体は、残念ながら珍しくない。


 ちなみに『天下り』とは、退職した高位の公務員が特定の企業や団体に再就職することを指す。


 つまり、自分たちが再就職する予定の企業が有利になるように働きかけるのである。


(この分では賄賂わいろも流れているな……)


 ということは簡単に想像できた。大企業が協同組合の幹部(元官僚など)に賄賂を渡し、有利な規定を作らせている。


 もちろん、この行為は明確な犯罪だ

 本来は贈収賄罪ぞうしゅうわざいに該当し、法律できびしくばっせられる。


 しかし、実際には捕まらない場合もあった。証拠が不十分なことや、関係者が影響力を持っているために捜査が進まないことが原因だ。


(まずは、そこを切りくずす必要があるか……)


 人気ダンチューバーを用意し、そこから情報を発信することで「社会全体で、これらの問題に対処する意識を高めることが出来れば」という程度だったのだが――


(やりすぎになってしまった……)


 取りえず、撮影用の機材を用意し、カリンとフーカを使って黄金竜『アウレリーナ』に撮影を頼んだ結果、影響が思いのほかすごいことになっていた。


 ドラゴンオーブの存在が想定外だったとはいえ、多くの人間はダンジョンに興味津々ということなのだろう。


 それが分かっただけでも収穫だったのだが――


(やることが増えてしまったな……)


 当初は第50階層から知人の研究所にある転移ポータルを使い、第80階層まで行き、第120階層(現在の最下層)に出現したボスを倒す予定だった。


 基本的には第50階層までの記録しか取られていないので、管理者さえ無視していれば、記録が残ることはない。


 カリンとフーカがその時間、動画配信を行っていたことで『スイーツガールズ』としてのアリバイが出来上がる。


 ダンジョン協同組合の規定によるゲートの設置も第50階層までが決まりだった。

 それ以降になると、通常の探索者は利用しないし、ゲートのメンテや管理が大変になる。


 これも大企業による規制緩和というヤツだろう。

 自分はその規定を利用させてもらった――というワケだ。


 第80階層へ行く前に、知人に『ダンジョンインダストリーズ』についての調査を依頼しておく。これで第120階層から戻ってくる頃には、情報が手に入るだろう。


 後は姉への連絡だ。今回の件でダンジョンインダストリーズの弱みを握ることが出来れば、ダンジョン協同組合への牽制けんせいくらいは出来るかもしれない。


 敵は官僚である。いい大学を出て、頭のいい連中に正攻法で勝てるワケがない。

 搦手からめてが必要だった。


 想定通り、自分が第120階層から戻ってくると情報がそろっていたようなので、姉に報告しておく。


 知人は相変わらず、自分を『化け物』のような目で見てくるのだが、そこは気にしないことにしよう。以前、命を助けたことがあって――


(とは言っても、ダンジョンではアバターを使っている限り、死ぬことはないのだが……)


 それ以来、協力関係にある。「危ない橋を渡っている」という自覚はあるようだが、僕が『深深部』(81階層以降)のモンスターから得たドロップ品を渡すと、態度を180度変えるので扱いやすい。


 ダンジョンインダストリーズについての情報はこうだ。

 株式会社ダンジョンインダストリーズの前進となるのは『ノースエクスプロア社』。


 元は北海道にあった小規模な探索技術開発企業である。

 その会社を大手企業『クロノスエネルギーソリューションズ社』が買収した。


 以降、ダンジョンインダストリーズとして名前を変え、急成長したが、内部の管理体制が追いつかず、問題が発生しやすい状態にあるそうだ。


 そんな中『生態系調査部門』が不遇ふぐうな扱いを受けていた。

 第50階層に存在するダンジョンインダストリーズの研究所にある部門の1つだ。


(そこまで聞けば、だいたい想像はつく……)


 まずは実用性が低いと見なされ、研究予算が削減されたのだろう。

 そして、最新の設備が提供されなくなる。


 古い機器での研究を続けることがいられる――というワケだ。

 加えて人員不足。ただでさえ、第50階層に適合できるダンジョン適合者は少ない。


 そんな理由からも、他の部門と比べて、回せる人員が少なくなるのは当然だろう。

 結果「研究が進まなくなる」という悪循環あくじゅんかんが発生する。


 研究成果が他の部門に比べて軽視され、評価されなくなるのは勿論もちろん、会社からのめつけは強くなる。つまりは「確実な成果が要求される」というワケだ。


 会社からの指示で研究範囲やテーマに制約が多くなる。

 そのため、自由な研究ができない。


 また、研究自体の社会的認知の低さもげられるだろう。

 ダンジョン内ということもあって、一般社会からの認知度が低い。


 研究の重要性が理解されていない可能性は十分に考えられた。


(そんな場所で働いていて、楽しいワケがない……)



🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️



*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*


ฅ^•ω•^ฅ「カリンと~♪」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「フーカのー」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「ティーダンジョン♪」


ฅ^•ω•^ฅ「今日は『官僚かんりょう離れ』についてです」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「スパイ天国、役人天国、自殺天国、高齢者天国――日本は極楽パラダイスね」


ฅ^-ω-^ฅ「こらこら」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「うー」


ฅ^-ω-^ฅ「まあ、実際に国家公務員の月給とボーナスの引き上げが決定されたけれど……」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「給与の増加だけだと、若手官僚が感じるキャリアの停滞感や満足感の欠如を解消するには不十分ね」


ฅ^-ω-^ฅ「どういうこと?」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「利権構造が経済的効率を低下させているのが主な原因よ」


ฅ^-ω-^ฅ「利権構造?」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「特定の企業や団体が政府や官僚と結びつき、政策や規制を通じて自分たちに有利な状況を作り出す仕組みのことよ」


ฅ^>ω<^ฅ「不正や腐敗の温床だ!」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「そうね。新しい企業が市場へ参入することが難しくなるから、イノベーションは阻害そがいされるわ。加えて、若手官僚は政治家や上司からの圧力で、自分の意見や信念を貫くことが難しくなるでしょうね」


ฅ^>ω<^ฅ「『役人天国』の復活とも言われているよね!」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「まあ、復活したとしても、公務員人気が元に戻るかどうかは疑問だけれど……」


ฅ^-ω-^ฅ「どういうこと?」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「極端な例を挙げると『霞が関』の場合、課長になるのは50歳前後とされているらしいわ。若手官僚が早期に重要なポジションへくことが難しい状況ね」


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😩 公務員人気が低迷している理由 😩


1)仕事のやりがいと成長機会の不足 📉


 現代の若者は、仕事のやりがいや成長機会を重視する傾向があります。しかし、公務員の仕事は安定している一方で、業務内容がルーチン化しやすく、変化の少ない環境に魅力を感じにくい人が増えています。


2)民間企業の魅力 🌟


 特にIT業界やスタートアップ企業では、スキルや成果に応じた昇給やキャリアの可能性が広がっている。そのため、挑戦を求める若者がそちらに流れやすくなっています。


3)少子化の影響 👶


 少子化により、公務員試験を受ける母数が減少しています。これにより、試験の倍率が低下し、公務員人気が低迷しています。


4)労働環境の課題 🏢


 長時間労働や業務の非効率性が問題視されています。近年は仕事と家庭の両立が難しいと感じる若手職員が多く、これが離職の一因となっています。


5)デジタル化の遅れ 🖥️


 民間企業に比べて、行政機関のデジタル化が遅れています。そのため、効率性を重視する若者にとって『魅力的ではない』と感じられています。


6)社会的な価値観の変化 🌍


 以前は安定した雇用が大きな魅力とされていましたが、現代では「成長」や「チャレンジ」を重視する価値観が強まっています。これにより、公務員の魅力が相対的に低下しています。


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ฅ^>ω<^ฅ「そうそう、外資コンサルの方が魅力的だって聞いたよ!」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「若手でも早期に重要なプロジェクトを任されることが多いそうよ。仕事に対する満足感や成長機会が得られるわ。結果、優秀な人材ほど、外資系企業に流れているみたいね」


ฅ^>ω<^ฅ「あと、税収が増えているんだよね! 日本もこれで安泰あんたい!」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「国民に還元されてないでしょ。普通は『消費税の減税』や『社会保障を充実させる』と思うのだけれど……でも、されてる?」


ฅ^•ω•^ฅ「…………」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「社会保障費の増加、公共事業への投資、財政赤字の補填ほてん……」


ฅ^>ω<^ฅ「大変だ! 日本が終わっちゃう~!」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「落ち着いて、すでに終わっているから」


ฅ^>ω<^ฅ「ガーン!」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「冗談よ。まあ、官僚については『キャリアパスの見直し』や『仕事のやりがい』を提供する仕組みが必要よね――じゃあ、今日はこの辺で」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「またね~、ばいば~い!」


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