第30話 変わる現実(3)- Side:黒猫 歌鈴(青嶺高校)


 エネルギッシュで力強いメロディー。

 く人の気持ちを高揚こうようさせるような曲調だ。


「この曲……」「ああ、間違いない」


 と光輝こうきくんたちは、おたがいに顔を見合わせる。


「間に合ったようですね」


 と校長先生。これからなにが起こるのか、知っているような口振くちぶりだ。


『フロストナイトは氷の守護者~♪』


「「「守護者~!」」」


 困難に立ち向かう勇気や希望、そんな歌詞なのだろう。どこからともなく聞こえてきた歌に光輝くんたちは立ち上がると、声をそろえて反応した。


北星きたぼし運河を守るため、冷たい風が吹き荒れる~♪』


「「「その力で悪をつ~!」」」


 と再び光輝くんたち。


(いったい、なにが始まったの?)


 困惑しているのは私だけのようだ。

 校長先生も「フフン♪」と鼻歌で参加している。


『フロストナイトは勇気の戦士~♪』


「「「戦士~!」」」


『氷の剣を振りかざし、運河の平和を守るため~♪』


「「「今日も戦う!」」」


『フロストナイト~♪』


 ジャカジャーン!――曲が終わったようで、校長先生を含む男子たちは感動をめていた。


 女子である私にはさっぱり分からないのだけれど、満足しているようだ。

 コンコン――ととびらがノックされ「どうぞ」と校長先生。


 扉を開けて入ってきたのは、銀のマスクを付けたスーツ姿の……男性?

 スーツと言っても光輝くんたちの漆黒のビジネススーツとは違い、こっちは白銀のヒーロースーツである。


(通報しないと……)


 冷静にスマホを取り出す私と違って、男子たちは、


「フロストナイト!」「本物ですか?」「北星運河は今日も平和です!」


 と興奮気味の光輝くんたち。目をキラキラとかがやかせている。

 私には分からない世界があるようだ。


「フロストナイト、参上!」


 とヒーロースーツの人はポーズをとる。いや、この声――


星霞せいかくん⁉)


 声を上げそうになった私は、おどろきつつも両手で口を押えた。

 フロストナイト(星霞くん)は手前に手をかざすと、大気から氷の剣を生み出す。


 スキルの無駄使いである。常人なら『万応素マナ』が存在しないため、スキルや魔法のたぐいは使えないのだけれど――


(あの後、100階層まで行くようなこと言っていたからな……)


 体内に万応素が蓄積しているのだろう。

 氷の剣をにぎると、


「北星運河の平和は、俺が守る!」


 ジャキーン!――とポーズを決めた。


「「「うぉー、カッコイイ!」」」


 と男子たち。校長先生もガッツポーズをしている。

 私としては急に寒くなったので――


(早く剣を仕舞って欲しいのだけれど……)


「悪いな、少年たち! 黒猫歌鈴くんには、俺と一緒に北星運河の平和を守るという使命がある!」


 EGセキュリティには勤めることは出来ない!――そう言って、再びポーズをとった。たぶん、フロストナイトのイメージをくずさないため、頑張っているのだろう。


 そんなフロストナイトの後ろには水色のウサギの着ぐるみがひかえていた。

 ズーン!――と後悔の波動を感じる。


 もしかして、中身は風奏ふうかちゃんだろうか?

 一方「どうする?」とは光輝くんの仲間。少しの間、めたようだけれど、


「こちらも仕事です。いくらフロストナイトの頼みでも、引き下がるワケにはいきません」


 と光輝くん。私としては――


(両方とも帰って頂きたいのだけれど……)


 きっと、その願いはとどかないのだろう。


「当然の意見だ。だが、争いは好まない」


 とフロストナイト。剣を出しているけど、流石さすがに使わないようだ。


「では、どうしますか?」


 仕事をまっとうしようとする光輝くんに対し、


「もちろん、ダンス対決だ!」


 とフロストナイト。光輝くんたちの視線が水色のウサギへとそそがれる。

 そして「なるほど」と納得した。


(いったい、なにが『なるほど』なのか分からない……)


 いえ、フロストナイトはかく、水色のウサギの方は知っている。

 確か『ミズウサギ』。


 北星運河をイメージしたデザインで、運河の美しさを象徴しているそうだ。

 好物はイチゴと桜桃おうとう(さくらんぼ)、プラム。


 特技はダンスで、キレッキレのぴょんぴょんダンスを踊る。

 O市の子供たちにも大人気だ。ちなみに、転校生である私は踊れない。


「よし、まずはオレが行く」


 とは美火みかくん。3人の中では一番小柄だが、運動神経は良さそうだ。

 そして、肝心のミズウサギ(の着ぐるみを着た風奏ちゃん)は――


『おい、ふざけないでよ! 踊るワケないでしょ!』 ※歌鈴の妄想です。


 とフロストナイトにつかみ掛っている。

 ミズウサギはそんなキャラではないので、自重して欲しい。


 しかし、音楽が流れると「後で覚えてなさいよ」とでも言うように、ミズウサギはフロストナイトから離れた。


 そして、ぴょんぴょんダンスが始まる。


 (省略)


 はぁはぁ、と息を切らせる美火くん。そんなに激しい踊りではないのだけれど、ミズウサギの手には重力攻撃が可能な『グラビティピョンマー』がにぎられている。


 ちょっとアレな感じで、ミズウサギが勝利した。


『やったぴょーん!』 ※歌鈴の妄想です。


 そんなミズウサギに対して、


「よし、次はオレがやる」


 と3人の中で一番長身の羽隆うりゅうくん。


「負けないぜ!」


 フロストナイトはそう返したけれど、実際にダンス対決をするのはミズウサギである。


『ふざけてるの!』 ※歌鈴の妄想です。


 とフロストナイトに掴み掛かるミズウサギだったけれど、音楽が流れると渋々しぶしぶ踊り始める。


 さっきは「ぴょんぴょんぴょん♪」といったテンポだったのに「ぴょぴょぴょ♪」くらいになっていた。


 (省略)


「ま、負けた……」


 はぁはぁ、と息を切らせる羽隆くん。自信があったようだけれど、今は床に四つんいになって落ち込んでいた。


「では、最後はボクですね」


 と光輝くん。お約束なのか、


『もう無理! 引きこもりの体力をなんだと思ってるの!』 ※歌鈴の妄想です。


 ミズウサギがフロストナイトに掴み掛かるも、音楽が流れると「覚えておきなさい!」といった雰囲気で離れる。


 今度は「ぴょぴょぴょ♪」といったテンポが「ぴぴぴ♪」くらいの速さになっていた。


 (省略)


 やはり「はぁはぁ」と息を切らせる光輝くん。

 汗をいたようで、ネクタイをゆるめている。


「では、彼女は返してもらう」


 とフロストナイト。私の手を引き「失礼しました」と校長室を後にする。

 こうして、私は無事に救出された(?)のだった。


なにこれ⁉)



🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️



*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*


ฅ^•ω•^ฅ「カリンと~♪」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「フーカのー」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「ティーダンジョン♪」


ฅ^•ω•^ฅ「今日は『フロストナイト』についてです」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「おのれ~、星霞……許さん!」


ฅ^-ω-^ฅ「どうどう」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「うー」


ฅ^-ω-^ฅ「さて、フロストナイトだけれど……」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「北の大地を守護する精霊から力をさずかった騎士――という設定のご当地ヒーローよ」


ฅ^-ω-^ฅ「運河の平和を守るために戦っているんだよね?」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「氷を操り、敵を凍らせることができるわ」


ฅ^>ω<^ฅ「剣だけじゃなく、氷の盾で防御もするよ!」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「銀色の鎧に、氷の結晶をしたデザインがほどこされているわ」


ฅ^>ω<^ฅ「敵のひとつは炎の軍団『フレイムレギオン』🔥」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「マグマの魔人から力を授かった戦士たちで、北星運河を溶かし、支配しようとたくらんでいるの! 気候を変動させ、北海道で山火事や森林火災を発生させるわ」


ฅ^>ω<^ฅ「そして、闇の組織『シャドウクロウ』🌑」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「闇の怪鳥を崇拝する邪教集団よ。北星運河を闇に包み、混乱を引き起こそうとしているの! ソーラーパネルの設置によって、北海道の希少な動植物が生息する自然環境を破壊しようとしているわ」


ฅ^>ω<^ฅ「最後は暗殺集団『ヴェノムヴァイパー』☠️」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「北海道に存在する様々な毒に精通した暗殺者たちで、北星運河を毒で汚染し、支配しようとしているの! 秋のキノコ狩りシーズンで、キノコによる食中毒が多発しているのはコイツらの仕業よ」


ฅ^>ω<^ฅ「大変だ! 敵がいっぱいいるよ」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「だから、フロストナイトは今日も戦い続けているわ」


ฅ^>ω<^ฅ「頑張れー! フロストナイトー!」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「北星運河の平和を守って!――ということで、今日はここまで」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「またね~、ばいば~い!」


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