第29話 変わる現実(2)- Side:黒猫 歌鈴(青嶺高校)


(この人、ダンジョン関係者だ!)


 というのはスグに理解した。

 高レベル探索者シーカー特有の圧のようなモノを感じる。


星霞せいかくんは逆に、その辺を隠すのが上手じょうずだけど……)


 この人は隠す気がないようだ。身の危険を感じたワケではないけれど、私は反射的に一歩、後ろへと下がった。いて言うのなら――


(『野生の勘』だろうか?)


 初対面の相手に失礼な態度をとってしまったかもしれない。

 私は「怒らせたかな?」と思った。


 けれど、相手は落ち着いた様子で、にこやかな表情を変えることはなかった。

 気にしている様子は感じられない。


 それどころか、喜んでいるような気さえする。


ためされたのだろうか?)


「これは失礼しました。警戒させてしまったようですね」


 と逆にあやまられてしまう。「いえいえ……こちらこそ、失礼な態度をとってしまって、すみません」と私。


 ここ数カ月、食堂の仕事でつちかった接客スキルで対応しよう。


(いらっしゃいませ、空いているお席へどうぞ……)


 いや、そうじゃない!――内心で一人ノリツッコミをする私に対して、


「自己紹介がまだでしたね。ボクは獅子喰ししくら光輝こうき。」


 と少しクセのある髪とさわやかな笑顔が特徴の好青年だ。


(私のタイプではないけれど……)


 たぶん、お姉さま方には受けがいいのだろう。


「こちらの溌溂はつらつとした雰囲気の彼が獅子喰美火みか、背が高く、落ち着いた雰囲気の彼が獅子喰羽隆うりゅうです」


 と紹介を始める。光輝と名乗った彼の存在に気を取られていて気が付かなったけれど、後ろに2人いたようだ。苗字は一緒だけれど、兄弟といった雰囲気ではない。


 どちらかと言えば、アイドルユニットといった感じがする。

 女子がキャーキャーと騒ぎそうだ。


 3人ともネクタイの色は違うけれど、同じ黒いスーツ姿。

 光輝くん程ではないけれど、2人ともかなり強い。


(探索者のアイドルユニットなんていたっけ?)


 私は首をかしげる。アバターの姿になってもらわないと、よく分からない。

 いや、なったとしても、たぶん私には分からないだろう。


風奏ふうかちゃんなら詳しいかも……)


 などと思っていると、


「まずは座りましょうか?」


 そう言って、私にソファへ座るように勧めた。


(てっきり、動画の件で注意されるのかと思っていたけれど……)


 今のところ、そんな感じはしない。


「えっと、黒猫歌鈴です。まずは要件を教えてくれますか?」


 自己紹介をしつつ、相手の出方をうかがう。本来はここまで警戒するような性格ではなかったのだけれど「どうにも油断できない相手だ」と本能がげている。


(危険感知のスキルを習得したからだろうか?)


 取りえず、ブレザーの内ポケットにあるスマホに手を回し「通話、風奏ちゃんにつないで」とささやく。


 【わかったにゃん♪】という表示と同時に「にゃ~んっ!」とスマホが鳴る。

 風奏ちゃんに教えてもらって、いろいろと設定を変えたのだ。


「すみません、スマホに連絡があったみたいです。お母さんかな?」


 早く帰らないと――と言って、私はうそぶく。


(これで、こちらの情報が風奏ちゃんに聞こえているといいけど……)


「そう警戒しないでください。ボクたちはあなたをスカウトにきたのです」


 と光輝くん。どうやら、探索者の勧誘らしい。

 星霞くんの時といい、流行はやっているのだろうか?


(また、1千万円渡されたら、どうしよう……)


 私は余計な心配をする。そういう発想をするのは星霞くんくらいだろう。


「もちろん、ちゃんとお金も払いますよ」


 光輝くんは笑いながら言った。一瞬、おどろいたけれど、私の考えを読まれたワケではないようだ。恐らく、彼なりの冗談だと思われる。


 私も星霞くんに買われていなかったら「いくらですか?」と興味本位で聞いていたかもしれない。相手の思うつぼだったろう。


「私、高いですよ」


 と返す。実際、1千万の女である。

 ドヤーッ!――と胸を張りたいところだけれど、今は我慢だ。


「それは大変だ」


 光輝くんは冗談と受け取ったようで、封筒から取り出したパンフレットをテーブルの上に置く。


「EGセキュリティ……株式会社?」


 書かれている文字を読み、首をかしげながら、私はソファに座る。

 このタイプのソファは、座るとお尻が減り込む感じがするので苦手だ。


 バランスをくずさないように、スカートをおさえながら、ゆっくりと座る。


「探索者による会社です。『エレメントガーディアンズグループ』と言った方が分かると思います」


 と光輝くん。「ああ、知っている」と私――


///////////////////////

 エレメントガーディアンズ、守るよダンジョン

 精霊技術で、安全を確保

 探索者シーカーたちの、頼れる味方

 エレメントガーディアンズ、未来を守る

///////////////////////


 そんなCMを思い出す。大手企業である。

 私の表情を見て、光輝くんは「手応てごたえたあり」と判断したようだ。


「一度、見学に来ませんか?」


 と優しくさそう。もちろん、私は丁重ていちょうにお断りするつもりだったのだけれど――


 ジャカジャーン! 突然、音楽がひびいた。



🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️



*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*


ฅ^•ω•^ฅ「カリンと~♪」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「フーカのー」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「ティーダンジョン♪」


ฅ^•ω•^ฅ「今日は『未婚率が高い理由』についてです」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「えっ⁉ 収入が低いからでしょ」


ฅ^-ω-^ฅ「こらこら」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「うー」


ฅ^-ω-^ฅ「まあ、実際に経済的な安定がないと、恋愛や結婚に踏み切るのは難しいよね」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「あとは内向的な性格の人が多いのも理由ね。他人との交流をける傾向があるわ」


ฅ^-ω-^ฅ「今はSNSで簡単にコミュニケーションが取れるから、余計に自分から動かないよね」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「結果、恋愛経験が少ない――というワケね。そして、恋愛に対する自信がないから『積極的に行動できない』という悪循環あくじゅんかん


ฅ^>ω<^ฅ「SNSの利用が多いことが原因とされているみたい!」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「特に男性のXユーザーは、他のSNSユーザーに比べて未婚率が高いそうよ」


ฅ^>ω<^ฅ「でも、男性と同じで、女性も30代になると経済的に安定していることが多いよ!」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「その場合、仕事やキャリアを優先するから、恋愛や結婚が後回しになるみたいね」


ฅ^>ω<^ฅ「あれ? もう結婚できないじゃん!」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「現代の恋愛や結婚は競争が激しく、勝者だけが得られるモノとなってしまったのよ」


ฅ^>ω<^ฅ「ひーっ! 戦わなければ結婚できない!」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「逆に外向型は競争が好きだから、インスタを自己アピールの場として利用しているそうよ」


ฅ^>ω<^ฅ「他人よりも優れた生活をアピールするんだね!」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「そして、離婚して、他の独身男性よりも悲惨な感じになる」


ฅ^-ω-^ฅ「えっ、怖っ!」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「まあ、SNSを上手く使って『人間関係を構築しましょう』というのが結論ね」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「またね~、ばいば~い!」


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