第27話 中堅ダンチューバーの苦悩(3)- Side:羊川 芽莉(自宅)


 乗るしかない、このビッグウェーブに!――ということで早速、羊川ひつじかわ芽莉めりは『ティーダンジョン』の2人にコンタクトを取ることにした。


 彼女も、北海道O市の住人である。

 ダメ元でコラボ企画を申し込むのは必然といえた。


 他のダンチューバーやクリエイターとのコラボレーションは、視聴者層を広げるために効果的だ。コラボレーションを通じて、新しいファンを獲得することができる。


 芽莉は早速、『概要』ページを確認した。多くのダンチューバーは、チャンネルの『概要』ページに連絡先のメールアドレスを記載しているからだ。しかし――


(ないみたいね……)


 2人は学生のようなので、思い付きで動画を上げただけなのかもしれない。


(そもそも、第50階層に普通の学生が到達できるハズがない……)


 現在は、この動画がディープフェイク(ディープラーニング技術を使って、人工的に作り出された合成映像)かどうかについて、論争が起きていた。


 この2人が実在する人物なのか、その特定も難航なんこうしているようだ。

 本来なら、カリンとフーカ、どちらかのSNSがあるハズである。


 芽莉は「そっちにダイレクトメールを送ればいい」と考えていたのだが――


(それも見当たらないみたいね……)


 そこで彼女は、はたと思う。


「危ないところだったわ」


 フゥッ――と芽莉は一呼吸置き、ひたいの汗をぬぐ仕種しぐさをする。実際に汗をいているワケではなかったが、ダンジョン配信を行っている時のクセだ。


 ダンチューバーは日常生活で、ついついジェスチャーを取り入れてしまうことがある。これは配信中に、視聴者へ分かりやすく伝えるために身についた習慣だった。


 また、オーバーリアクションもりがちである。

 これも配信中に、視聴者の注意を引くためのモノだ。


 無意識に行っていることが多いので、気が付いた場合は優しく教えてあげるか、気付かない振りをしてあげるのが、大人の対応といえる。


 芽莉はソファーに腰を掛けながら、


(これはトラップね!)


 とタブレットの画面を指差し、勝手に判断する。実際は星霞せいかの思い付きで上げた動画なのだが、彼女にはソレを知るすべはない。


「スキル〈社会人の常識〉を発動!」


 未成年とのコラボには、保護者の同意を得ることが重要だ。

 これにより、法的なトラブルをけることが可能となる。


 芽莉は探索者シーカーあるあるの一つ「日常生活で、つい【スキル】と発言してしまう」を行ってしまった自分を「ずかしい」と思いながら、


「ここは彼女たちの学校へ連絡を取るべきよね」


 危なく、警察につかまるところだったわ――と反省した。適切な手続きをまずに未成年とのコラボを行うと、法的な問題に発展する可能性が高い。


 最悪の場合、警察に捕まる可能性もある。未成年のダンチューバーとコラボする際は、必ず保護者の同意を得て、適切な手続きを行う必要があった。


(北海道O市のダンジョンということは……)


 芽莉は「2人がダンジョン高校の生徒だ」ということに当たりをつける。

 ネット上でも、そのように推測されていた。


「職権乱用になるけど……」


 背に腹は代えられない――と彼女は判断する。

 芽莉の仕事は結婚相談所の社員。


 現在、結婚相談所は人気で、札幌市内にも多くの結婚相談所があった。

 特にオンラインお見合いや、コスパの良いサービスを提供する相談所が人気だ。


 当然、このO市も例外ではない。

 ダンジョンが出現したことで、仕事が増えた。


 その働き手として、多くの人が集まっている。

 結果「結婚相談所の需要も高まっている」というワケだ。


 また、新しい住民が増えたことで、結婚相談所は地域にとって『出会いの場』として重要な役割を果たしていた。


 そうなると必然的に、結婚相談所の役割以外でも、地域へ貢献こうけんすることになる。

 例えば、地域イベントの企画や、住民同士の交流を促進する活動などだ。


 その他にも、地域の課題解決に向けた取り組みが期待されていた。

 結婚相談所は地域の魅力を発信する役割もになっている――というワケだ。


 つまり、結婚相談所の名前を出せば、話がスムーズに行く。


(1人や2人くらい、いるわよね……)


 芽莉は結婚相談所に登録している、ダンジョン高校の教師を探す。

 いなければ、OBでもいい。


 直接、本人たちへ連絡を取るよりも「学校を通して、連絡を取る方が安全よね」と考えたからだ。


 学校を通じて、保護者の同意を得ることが出来れば、トラブルを未然に防ぐことも可能である。


(うわ、思ったよりも多い……)


 教師って、出会いがないのかしら?――芽莉はそんなことを考えたが「授業の準備や採点、部活動の指導などでいそがしく、プライベートな時間が少ない」という話を思い出した。


 職場結婚すればいいのに――と思わないこともないが、需要じゅようと供給が必ずしも、み合うワケではない。


(そもそも、それで済めば、結婚相談所は要らないか……)


 芽莉は企画の内容を考える。

 未成年が参加する企画なので、年齢にふさわしい内容でなくてはならない。


 取りえず「一緒に可愛いお菓子を作って食べる企画」で提案することにした。


(アニマルドーナツを作る企画でいいかしら?)



🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️



*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*


ฅ^•ω•^ฅ「カリンと~♪」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「フーカのー」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「ティーダンジョン♪」


ฅ^•ω•^ฅ「今日は『ダンチューバーあるある』についてです」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「一貫したキャラクター設定と定期的なコンテンツ配信は絶対!」


ฅ^-ω-^ฅ「こらこら」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「うー」


ฅ^-ω-^ฅ「無理のない範囲で頑張ろうよ」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「自分らしさを大切にして活動するのが大事よ」


ฅ^>ω<^ฅ「それじゃあ、あるある始めるよ! 配信中にトイレへ行きたくなる♪」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「長時間の配信中に突然、トイレへ行きたくなる現象ね。視聴者に対して、一時的に離席を告げてね」


ฅ^>ω<^ฅ「配信機材のトラブル!」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「ダンジョン内の環境は過酷な場合があるわ。マイクやカメラの不調で配信が中断して、視聴者に迷惑をかけてしまうヤツね」


ฅ^>ω<^ฅ「戦闘中に家族が入ってくる!」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「戦闘シーンを配信している時に、家族が突然助けにくる現象ね。ダンジョンに保護者同伴で入るとよくあるヤツよ」


ฅ^>ω<^ฅ「配信中の体調不良!」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「ダンジョン内には、デバフ攻撃をしてくるモンスターやバッドステータスの罠があるから、その状態で配信しちゃったのね」


ฅ^>ω<^ฅ「配信中のモンスターの乱入!」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「油断しているとモンスターが配信中に乱入してくることがあるようね。視聴者は喜ぶようだけれど、配信者からすると大変よね」


ฅ^>ω<^ฅ「ダンジョン配信では、色々なことが起こるね!」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「皆も注意してね。じゃ、今日はここまで」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「またね~、ばいば~い!」


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