第26話 中堅ダンチューバーの苦悩(2)- Side:羊川 芽莉(自宅)


 ヘッドホンから聞こえる軽快なBGMと一緒に、


「カリンと♪」「フ、フーカの?」((せ~の!))

「ティーダンジョン!」「ジョン……」


 黒を基調としたネコ耳少女と白を基調としたウサ耳少女。

 そんな2人組によるタイトルコールで配信は始まった。


 はっきり言ってしまえば、タイミングが合っていない。

 下手へたというよりも素人感丸出しの演出であった。


 羊川ひつじかわ芽莉めりからすれば「もう少し、どうにかならなかったのかしら?」というところである。


(けれど、こういうのを「応援したい」と思う視聴者層もいるのよね……)


 と芽莉は冷静に分析する。

 この動画の視聴者が、どうして伸びているのかを知るためだ。


 2人の初々ういういしさ。

 それは10年も配信を行ってきた彼女からすると、失ってしまったモノでもある。


(だからといって、それだけが人気の理由ではないと思うけど……)


「今日はアップルパイを食べます!」


 と元気に声を出すネコ耳少女とは対照的に、


「人類など滅べばいい……」


 ウサ耳少女の方はんでいるようだ。


「こらこら」「うー」


 そんな2人の掛け合いに――仲の良い友達といったところかしら?――芽莉はそんな感想をいだく。


 今となってはダンジョンからのライブ配信など、めずらしくはない。正確には、現在、芽莉が観ているのはライブ配信を行った後に、その配信を編集した録画配信だ。


 ライブ配信の魅力を活かしつつ、編集によってクオリティを高めた動画である。

 芽莉は思い出していた。


 最初のボーナスを「すべてダンジョン配信のためにぎ込んだ」ことをだ。本格的にダンジョンからの配信を行うのであれば、それなりにお金が必要だった。


 最低でもダンジョンで使うことのできる探索者シーカー専用の高性能スマホ――『ハイエンドモデル』(10万以上)より上の――『シーカーアルティメットモデル』(20万以上)が必要になる。


 その他にも『中深部』(第21階層から第80階層)へ潜るための装備やアイテムもそろえなければならない。仲間も4人から6人が理想的だった。


(カリンとフーカといったかしら? 彼女たち程度の年齢なら……)


 親に買ってもらったスマホで『浅深部』(第1階層から第20階層)を私服で「散策したり、食べ歩いたり、遊んだり」そんな様子を配信するのが定番である。


 基本的にダンジョン配信は財力のある大人の領域りょういきといえた。

 ただ、大人が配信をするにも欠点はある。


 オジサンやオバサンの姿では「人気が出ない」という点だ。

 特に若い世代はルッキズムの影響が強い。


 それにより配信者は「若くて美形のアバターを使った方が、人気が出やすい」というのが常識となっていた。


 羊川芽莉が魔人種デモン翼人族リリスを使用しているのも、それが理由だ。


(趣味や特技を披露ひろうしたいのならかく……)


 本気で人気者になりたいのであれば、半神種エルダ森人族エルフ魔人種デモン翼人族リリスを使用するのが常識とされている。


 それらの種族は長命種であるため、老化が遅い。

 ゆえに年齢を重ねていても、ダンジョンでのアバターは若い姿のままとなる。


 また、容姿にも恵まれているため、探索者の間でも特に人気のある種族だ。


(でも、彼女たちは獣人種アニマ……)


 成長速度は人間と同じなので「中身も見た目通りの年齢だ」と考えることができる。しかし、外見は悪くはなかった。


 特に兎人族ラビナの方の少女は美人だ。


何故なぜか、目は死んでいるみたいだけれど……)


 彼女たちなら「普通にダンジョンを探索するだけでも、珍しさで人気が出そう」というのが芽莉の感想だった。


 装備もいいモノを使っているようなので、お金持ちのようだ。


(初めて行う配信かしら……)


 初回でバズるには、この動画では今一つといえた。

 視聴者からのコメントも少なく、いたって普通だ。


(いえ、ちょっと待って!)


 先程から画面に、ちらほらと光の粒子りゅうしが映っていた。

 万応素マナの粒子だろうと思い、特に気にしてはいなかったのだが――


(何か、多くない?)


 芽莉は最初、近くで戦闘が行われていて「モンスターが退治されているのだろう」その程度に思っていた。


 モンスターが倒されると万応素マナとなって、その死体は消滅するからだ。

 けれど、これは流石さすがに多すぎである。


 最初はイスに座り、テーブルで優雅ゆうがにティータイムを楽しんでいたカリンとフーカだったが、その姿の半分が光の粒子によってつつまれていた。


 これがモンスターの消滅を意味する光であるのならば「いったい、どれ程の数のモンスターを一度に倒せばいいのかしら?」という疑問がく。


 芽莉は頭の中で計算してみたが、見当もつかなかった。

 一方、画面の中の少女たちは平然と手を振っている。


「またね~、ばいば~い!」「ばい……」


 またもや、ウサ耳の少女が台詞セリフのタイミングを間違えたようだけれど、それは関係ない。カメラは飛行し、2人から次第に距離を取る。


 すると、その全容が明らかになった。

 カリンとフーカ。彼女たちが優雅にティータイムを楽しんでいた場所は巨大なモンスターの背中の上だったのである。


 芽莉は急いで、SNSや掲示板をチェックした。

 すでにキュレーションサイト(まとめサイト)も載っている。


 それによると「北海道のO市にあるダンジョンの第50階層である」という場所の特定と「スイーツガールズというチームがドラゴンを倒したのではないか?」という憶測が飛び交っていた。


 ただ、踏破クリア済みダンジョンのため「巨大なモンスターが出現するは変だ」という点で様々な意見と憶測が飛び交っているようだ。


(視聴者が伸びている理由はこれね!)



🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️



*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*


ฅ^•ω•^ฅ「カリンと~♪」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「フーカのー」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「ティーダンジョン♪」


ฅ^•ω•^ฅ「今日は『ルッキズムの影響』についてです」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「その者、白きころもをまといて、金色こんじきの野でアップルパイを……」


ฅ^-ω-^ฅ「こらこら」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「うー」


ฅ^-ω-^ฅ「それより、ルッキズム(外見至上主義)だよ」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「現代社会において、依然として存在する問題ね」


ฅ^-ω-^ฅ「特に若い世代で、外見に対する関心や評価が高まっているよね」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「SNSやメディアの影響が大きいと考えらているわ」


🌟ルッキズムの影響


1)SNSの普及


 Instagram や TikTok などのSNSプラットフォームでは、外見が重視される傾向がある。そのため、美しい写真や動画が多くシェアされ、外見に対するプレッシャーが増している。



2)メディアの影響


 テレビや映画、広告などで美しい外見が強調されることが多い。若い世代は影響を受けやすい。



3)自己表現の手段


 若い世代は外見を通じて自己表現を行うことが多い。ファッションやメイクに力を入れることが一般的となっている。



4)社会的な評価


 外見が良いとされる人が社会的に評価されやすい傾向がある。これがルッキズムを助長している。



ฅ^>ω<^ฅ「自己肯定感の低下、差別や偏見、精神的な負担になっているんだよね!」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「まあ、見た目が良くても、セクハラを受けたり、同性から調子に乗っているとか陰口を言われたり、気に入らないと因縁つけられたりもするけどね……」


ฅ^>ω<^ฅ「綺麗な水と土では、腐海の木々も毒を出さないということだね!」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「そう、汚れているのは人間の心なのよ。人類など滅べばいい……」


ฅ^>ω<^ฅ「私はフーカちゃんのこと好きだよ」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「そ、そういうことを平然と言わないでよ! もう、今日はここまで」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「またね~、ばいば~い!」


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