第24話 どらごんメイド召喚!(3)- Side:天霧 星霞(ダンジョン:星空橋)


「では、ドラゴンを召喚しますね」


 そんな僕の言葉に「えっ⁉」と声を上げるカリン。

 おどろいた様子で目を丸くする。


 フーカは首をゆっくりと左右に振って「あきらめさない」とでも言うように、彼女の肩へとポンッと手を置いた。


 ここは第50階層。『万応素マナ』の濃度も高く、モンスターも出現しない。

 そのため、企業の研究施設が数多く存在する階層だ。


 未知の生物や植物の研究を行う『生態系研究所』に、ダンジョン内のエネルギー源を利用した新エネルギーの開発を行う『エネルギー研究所』。


 新たな鉱物や資源の発見、その採掘技術の開発を行う『鉱物資源研究所』などである。


 地上では見られない希少な生物や鉱物、特殊な環境が探求心をきつけるのだろう。生活している人は意外と多い。


 ただ、ダンジョン内の特殊な環境を利用した新薬や治療法の開発をする『医療研究所』や、ダンジョン内の生物を利用した新技術の開発を行う『バイオテクノロジー研究所』は『浅深部』(第20階層より浅い階層)に存在した。


 彼らのために「ダンジョンの動植物を採取してくる」というのも探索者シーカーの主な仕事である。


 また、ダンジョン内でのサバイバル技術や科学教育を行うこともあった。

 第50階層にも、宿泊するための施設が存在する。


流石さすがに第50階層へ到達するのは大変なため、そう頻繁ひんぱんには行われないけど……)


 僕はスマホでメッセンジャーアプリを使い、通知を送る。事前に連絡していたので、いつ呼び出していいようだ。


 先程から落ち着かない様子で、僕の後方を気にしてるカリンとフーカへ、


「大丈夫なようですね。ああ、フーカが『メイド好き』という話だったので、メイドの格好で来るようにお願いしました」


 と告げる。そんな僕の気配りに対し、


「余計な情報は送らなくていいのよ!」


 フーカににらまれてしまう。僕は気にせず、


「喜んでくれて良かった……」


 あ、少し離れていてください――と告げた。

 そんな僕の言葉に2人は後方へと下がる。


 フーカは「喜んでない」と言っていたようだけれど、照れ隠しだろう。


「素直ではありませんね」


 そう言って、スマホ画面の魔方陣まほうじんをタップすると、近くの地面に光の粒子りゅうしが集まる。次第に光の粒子は大きくなり、球体になったかと思うと、メイド服姿の少女へ変化した。


「思っていたのと違うよ……」

「ちょっと、誘拐ゆうかいしてきたんじゃないでしょうね」


 とカリンとフーカ。どうやら、カリンはドラゴンの姿で現れると思っていたようだ。また、僕が強力な魔法を使うと考えていたらしい。


 今時の召喚魔法はスマホ操作が基本だ。ただ、召喚される側にも都合はあるので、事前に通達しておくのが礼儀だろう。その辺は契約の際に決めておくのがいい。


「マスター、呼んでいただき、ありがとうございます」


 とメイド服姿の少女。金髪ツインテールに赤の瞳。

 年齢は小学生の高学年くらいに見える。


 彼女の人間姿を見たのは僕も初めてだったけれど、思った通り子供だったらしい。

 やあ、来てくれて助かります――と少女に声を掛けた後、


「彼女の名前は『アウレリーナ』。本来の姿は翼を持つ黄金の竜ですが、フーカの希望通り、メイド服姿で来てもらいました」


 と説明する。「おい、こら」とフーカが言ったような気もするけど、無視していいだろう。


「アウレリーナです。リーナとお呼びください。カリン様、フーカ様」


 そう言って、アウレリーナことリーナは――両手でスカートのすそを軽く持ち上げて――カーテシーを行う。


 彼女に合う子供サイズのメイド服が売っていなかったようで、フレンチメイド型メイド服を改造したらしい。


 翼や尻尾を出しても大丈夫とのことだ。

 しかし、コスプレにしか見えない。


 頭にはホワイトブリム。流れうような金色の髪はツインテールだ。

 可愛らしい姿なので、フーカが「誘拐してきた」と思うのも無理はないだろう。


「わぁ、可愛い♡」


 とカリン。声を上げて、リーナに抱き着く。


「フフン、当然です」


 とリーナ。両手を腰に当て、得意気に胸を張る。


「で、これからどうするの?」


 クイクイと僕のそでまんで引っ張り、そう質問してきたフーカに、


「ここから先は危険なので、2人にはこの階層で待っていてもらいます。リーナは2人の護衛をお願いしますね」


 そんな僕の回答に、


「分かっています、マスター!」


 リーナは笑顔で答えた。


「あと、人とは極力きょくりょく、接触しないようにしてください」

「もちろんよ!」


 今度はフーカが力強く答える。サムズアップまでして、今までで一番いい返事だ。

 カリンは少しあきれているようだったけれど、特に何も言う様子はない。


「それでマスター、質問があるのですが……」


 とリーナ。僕の背後に視線を向ける。

 正確には「倒れている肉塊にくかい」にだ。


「ああ、いきなり襲い掛かってきたらから、動けなくしました」


 と教えてあげる。第50階層へ着いた途端とたんおそってきたモンスターだ。

 哺乳ほにゅう類のような肌と爬虫はちゅう類のようなうろこが混ざったような奇妙な肌。


 紫とも桃色ピンクとも、灰色ともとれる。

 巨体でありながら素早く、ゴリラの行うナックルウォーキング(前肢を握り拳の状態にして、地面を突く四足歩行)で向かってきた。


 なので、自慢じまんの腕をり、あらぬ方向へ曲げてから、心臓へ闘気オーラの気弾を撃ち込んだ。今は仮死状態だろう。


 このまま放って置けば、光の粒子となって自然消滅するハズだ。


流石さすがはマスター!」


 リーナは感動したのか、スカートからドラゴンの尻尾を生やし、バンバンと地面に打ち付ける。


「きゃーっ!」「ちょ、危ない!」


 短い悲鳴を上げ、離れるカリンと後方へ跳躍ジャンプするフーカ。


「危ないので、落ち着いてください」


 と僕がなだめると「おっと、申し訳ありません」そう言ってリーナは尻尾を仕舞う。


「そうだよ、パンツが見えちゃうよ」


 と言ったカリンに対して、


「問題は、そこではない気がするのだけれど……」


 先程までは無かった地面のくぼみに視線を落としながら、フーカはつぶやいた。

 第50階層にボスが再度出現する可能性はゼロではないが、ダンジョンに出現するモンスターとは系統が異なる。


「恐らくは、アイテムを使って人間が変身した姿かもしれません」


 ここが研究施設の集まる場所なら、可能性は高いだろう。ダンジョンインダストリーズの探索者の存在が気になっていたのだけれど、全滅したようだ。


 つまりは「アイテムの回収に失敗した」と考えるのが妥当だろう。

 そして、モンスターではなく万応素マナが足りなかったため「ドラゴンへのなりかけになってしまった」と仮定するのなら――


「ドラゴンオーブ……」


 思い付きで口から出た僕の言葉に、


「7つ集めるとどんな願いも叶うという、あの!」


 とフーカ。「凄いのです!」とおどろくリーナとは違い、


「こらこら」「うー」


 カリンに注意され、フーカは声を出して黙ってしまう。僕は、


「研究所の職員は出てこないようですね」


 と告げる。ダンジョンインダストリーズの探索者が全滅したので、戦闘能力の低い研究者はシェルターにでも避難ひなんしているのだろう。


 ドローンが飛んでいないところを見ると、すでにそちらも撃破されたらしい。


折角せっかくなので、この状況を利用させてもらいましょう」


 僕はダンジョン管理者へとスマホで通達する。モンスターの脅威きょういはそちらでもすでに確認していたようで、僕が対処するむねを伝えると喜んでくれた。


 研究所の職員へは、3時間ほど大人しくしているように通達してもらう。

 また、第50階層へ他の探索者が来ることも禁止だ。


「さて、2人にお願いです」


 と僕。カリンとフーカへ「ダンジョン配信をしてください」と告げた。



🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️



*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*


ฅ^•ω•^ฅ「カリンと~♪」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「フーカのー」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「ティーダンジョン♪」


ฅ^•ω•^ฅ「今日は『ダンジョンインダストリーズの生態系調査部門』についてです」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「追・い・か・け・ろ! ドラゴンオーブ♪」


ฅ^-ω-^ฅ「こらこら」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「うー」


ฅ^-ω-^ฅ「忘れている人もいるかもだけれど、ダンジョンインダストリーズってなんだっけ?」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「あなたが忘れてるの? 産業規模での探索と資源回収を行う大企業よ。ほら、元自衛官の大熊おおくまやとっている会社」


ฅ^-ω-^ฅ「あー、それの生態系調査部門のお話?」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「ダンジョン内の生態系を調査する部門だけれど、実用性が低いと見なされるみたいね」


🏢生態系調査部門がダンジョンに研究施設を持つ理由


1)未知の生物の発見:ダンジョン内に棲息せいそくする未知の生物の調査。その研究は新たな科学的発見につながる可能性がある。


2)環境保護:ダンジョン内の生態系を理解することで、環境保護や生態系の維持に役立つ情報を得るために必要。


3)医療研究:未知の生物から新薬や治療法を開発するための基礎研究。しかし、今は浅深部に施設が集中している。


4)生物多様性の理解:地上では見られない生物多様性を研究し、地球全体の生態系の理解を深める。


ฅ^>ω<^ฅ「なるほど、生き物の調査だね!」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「でも、予算削減や成果の軽視、それによる設備の老朽化や人員不足もあるみたい。また、ダンジョンということもあって、研究範囲やテーマに制約が多く、自由な研究ができないようね」


ฅ^>ω<^ฅ「なんか可哀想!」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「それが大人の世界よ。誰もがなりたい者になれるワケではないし、りたいことを仕事にできるワケじゃない」


ฅ^>ω<^ฅ「そうならないためにも、学校へ行って勉強だ!」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「おっと、もうこんな時間ね。今日はここまで」


ฅ^>ω<^ฅ「まだ、大丈夫だよ♪」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「今日は、こ・こ・ま・で」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「またね~、ばいば~い!」


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