第19話 目指せ!50階層(1)- Side:黒猫 歌鈴(ダンジョン:星空橋)
私たちが転移装置で移動した場所は、神殿跡のような場所だった。
「観光客向けに、それっぽい雰囲気に作ってあるのよ」
とフーカちゃんが教えてくれた。ここ第21階層からスタートして、第30階層へ
第20階層へ戻る場合は、私たちが今いる場所ではなく、離れた場所に立てられている施設へと向かう必要があるようだ。
その施設からなら第1階層、第5階層、第10階層、第15階層のいずれかへ戻れるらしい。ちょっとしたハイキングに近い感じである。
「ここから、中央の森へと向かいます」
とセーカくんは指差す。その方向へ視線を向けると、少し離れた場所に森らしきモノが見える。
第1階層から第5階層まではショッピングモールのような造りだったけれど、他は岩肌が
(まるで外だ……)
淡い水色の空が存在する。私は周囲をキョロキョロと見渡した。
草木はところどころに生えているのだけれど「土が
どちらかと言えば、荒れ地のようだった。ダンジョンが必ずしも洞窟や迷宮のような場所ではないことを知ってはいたけれど――
(実際に来てみると、やっぱり不思議な場所……)
「確かに何か出てきそうな雰囲気だね」
私の言葉に「実際に出ますが、今回は無視して、第30階層まで一気に行きましょう」とセーカくん。スマホを操作しているようだ。
「地上程ではないですが、少し肌寒いようですので、温かい恰好をしてください」
というので、私はお店で買ってもらった『ヒートスカーフ』を装備することにした。防寒対策の装備である。
装備した人はMPを消費するけれど、ポカポカと温かい。
(えっと、確か……)
「換装、ヒートスカーフ、エグゼ」
私がそう言うと【Yes, Master】(了解です!)とスマホが反応する。
同時に装備が切り替わった。一瞬である。
ステータス魔法で画面を操作するよりも簡単だ。
(これは便利ね……)
私が感動していると、
「こっちも準備できたわ」
とフーカちゃん。モコモコの白い帽子に、ファー付きの真っ白な手袋とマフラー、白いフワフワのコートとブーツ。全身
「ズルくない?」
私の一言に対し、
「ズルくないわよ。私は回復役、あなた
とフーカちゃん。言われれば、その通りなのだけれど――
(何だか、納得いかないよ……)
「では、スキルを使用して、移動しましょう。異常があれば言ってください」
「あ、私、お腹が……」
セーカくんの言葉に対し「これはダンジョンに
「よいしょっと……」
そう言って、セーカくんはフーカちゃんを肩に
(デジャヴかな?)
見たことのある光景だった。「ちょっと、治った、治ったから降ろして、治りました!」とジタバタするもこもこウサギ。
(やはり、可愛い♪)
「そこ、ほんわかした表情を浮かべてないで、早く助けなさい!」
と言われたのだけれど、ここは
「先程、バトルモードを設定しましたので『バトルモード:ワン、エグゼ』と言ってみてください」
私に向かってそう告げた。
「バトルモード:ワン、エグゼ」
言われた通りに私が声を出すと【Yes, Master】(了解です!)と再び、スマホが反応する。
すると視界に――スキル〈スピードアップ〉実行、スキル〈ハイスピード〉実行――とメッセージが表示された。
「まあ、今回は試運転なので、後で自分の好きに設定してください」
では、ついてきてくださいね――とセーカくん。
中央にある森を目指して、
「きゃーっ!」
というフーカちゃんの悲鳴が遠ざかっていった。
(学習しないな……)
それとも、わざとセーカくんにじゃれているのだろうか?
違うわよ!――と怒られそうなので、それは聞かない方が良さそうだ。
(それよりも、早く追いかけないと……)
観光用ダンジョンということもあり、道は整備されている。森へと
(は、早いっ!)
足が勝手に動いている感じだ。あまりの速さに上半身を
そんな私の様子を見て、セーカくんは
「ちょ、やめてっ!」
フーカちゃんの抗議は当然のように無視された。
私も、やや
途中、モンスターを見たような気もするのだけれど、私たちのスピードには追いつけないらしく、襲われることはなかった。そのまま、森の中へと入る。
(全然、息が切れないし、この
いや、それともスキルの効果だろうか? 他の探索者とすれ違わないのは、帰り用の転移装置がある道とは異なるからだろう。
まだ、この移動手段に
森へ入るとスグに、神殿のような建物が見えた。
距離にすれば、スタート地点から1キロくらいである。
「大丈夫そうですね」「私は大丈夫じゃない」
先に到着して待っていたセーカくんと、
「あ、うん」
と私。正直、まだ高揚感が残っていた。
走っていた時の感覚が抜けなかったため、そんな返事をしてしまう。
むしろ、第20階層にいた時よりも、
「適合者としては問題ないようなので、安心しました」
そう言って、セーカくんは喜んでいるようだ。私も嬉しい。
「これで第30階層行きは決定ね……」
とはフーカちゃんで、私たちから視線を
一方で、セーカくんはスマホをチェックしながら、
「MPも回復しているようですね」
と
私のMPが自然回復しているのは、万応素を吸収してMPに変換しているからだ。
母親がダンジョン災害に巻き込まれた結果、その娘である私にはダンジョンへの高い適正があるのかもしれない。
「では、戦闘を回避しつつ、ドンドン行きましょう」
とセーカくん。しかし、彼がフーカちゃんに手を伸ばすと
その態度に落ち込むどころか、
「いや、失礼。逃げないように、そのまま捕まえておいてください」
私にそう告げる。これはアレだろうか?
共通の敵を作って、仲間意識を高める的なヤツだ。
(何もかも、セーカくんの手の内ってワケね……)
そんな彼の一面に、ときめく私がいる。
🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️
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ฅ^•ω•^ฅ「カリンと~♪」
(˶ᐢ. .ᐢ˵)「フーカのー」
ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「ティーダンジョン♪」
ฅ^•ω•^ฅ「今日は行動適応についてです」
(˶ᐢ. .ᐢ˵)「最も強いモノが生き残るのではない。最も変化に敏感なモノが生き残るのだ」
ฅ^-ω-^ฅ「こらこら」
(˶ᐢ- -ᐢ˵)「うー」
ฅ^-ω-^ฅ「えっと……ダンジョンでは、暑さ、寒さ、風、雨などの環境要因が疲労の原因となります」
(˶ᐢ. .ᐢ˵)「行動適応とは、これらの環境に適応するための行動を指します」
ฅ^>ω<^ฅ「例えば、熱中症!」
(˶ᐢ. .ᐢ˵)「体温が上昇しすぎることで発生するわ。症状は軽度のめまいや多量の発汗から、重度の熱射病まで様々……」
ฅ^-ω-^ฅ「対処法としては、水分と塩分の補給、身体を冷やすことが重要です」
(˶ᐢ. .ᐢ˵)「適切な水分補給と休憩が必要なのはダンジョンでも一緒ね」
ฅ^>ω<^ฅ「そして、低体温症!」
(˶ᐢ- -ᐢ˵)「ダンジョンの環境は様々、氷のダンジョンでは低体温症のリスクが高まるわ。私たちのように適切な防寒具を着用して、体温を維持することが重要よ」
ฅ^-ω-^ฅ「寒冷地でも脱水症状が起こることがあります」
(˶ᐢ- -ᐢ˵)「7月の夏山でも低体温症
ฅ^>ω<^ฅ「ダンジョンでは充分な保温、エネルギー補給、風雨を
(˶ᐢ. .ᐢ˵)「低体温症は適切な対処をしないと、心拍と呼吸が停止して、死に至ることもあるわ」
ฅ^-ω-^ฅ「ダンジョンの中は危険がいっぱい」
(˶ᐢ- -ᐢ˵)「高齢になると、冷房の効いた室内に長時間いても、危険らしいけどね……」
ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「またね~、ばいば~い!」
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