第二章

Side:黒猫 歌鈴

第16話 猫と兎の買い物(1)- Side:黒猫 歌鈴(ダンジョン:星空橋)


「こんな感じで、どうかな?」


 三角のネコ耳がピコピコと勝手に動く。

 感情に左右されるのか、尻尾が立っていた。


 着替えが終わった私は、その場でクルリと回ってみる。


(変じゃ、ないよね?)


 ここはダンジョン第2階層。先程まで私たちがいた場所は探索者シーカー専用のホテルだったようで、転移ポータルが設置されていた。


 第2階層から第5階層までなら、好きな階層へ一瞬で移動が可能である。

 この第2階層には『ファッションブティック』や『アクセサリーショップ』などがそろっていた。


 もちろん、探索者シーカー専用のお店もあるワケで――装備の充実していない私と風奏ふうかちゃんは仲良く(?)――お買い物という事になった。


 私の『アバター』は獣人種アニマ猫人族フェリス

 黒猫なので、見た目はあまり変わらない。


 ただ、少し身体からだが縮んだ気がする。

 顔や手足も細くなり、シュッとした印象だ。


 出るところが出て、引っ込むところが引っ込んだ――


(というべきかな?)


 多くの人たちが、ダンジョンでアバターの姿を借り、動画を配信する気持ちが分かる。獣人種アニマの特性だろうか?


 アバターの姿になった後は、若干筋力も増えたようだ。

 身体からだが動かしやすくなっていた。


 ホテルの部屋でダンジョンに『ログイン』した際は、残念ながらトレードマークである尻尾はズボンの中である。


 私は装備がそろっていなかったので、ログインしても衣服は変わらない。

 そのため「早速、第2階層へと買い物に来た」という流れである。


 基本的に観光用ダンジョンの造りは第1階層から第5階層までが『エントランスとショッピングモール』となっている。

 よって、近くにダンジョンがあると買い物も便利なのだ。


 今、私たちが来ているのは探索者向けの高級アウトドア装備を販売している『ミスティック・レンジャーズ』という店である。私としては――


(もうちょっと、安いところでいいのだけれど……)


 そんなことを考えていたのだけれど、星霞くんも風奏ちゃんも、特に気にした様子はない。いや、星霞くんの場合は――


(もともと、感情が読みにくいところがあるのだけれど……)


 店内は高級感があり、商品の展示も綺麗で洗練されている。

 客層も裕福そうな探索者が目立つ。


 星霞くんは店員を呼びつけると、商品を持ってくるように指示を出した。

 手慣れているようだ。


「ああ、そうだ。ここではセーカと呼んでください。そちらもカリンで設定しているようですね。じゃあ、フトーコーも必要なモノを選んでください」


 とさわやかな笑顔を浮かべる。問題はそこではないのだけれど――


「ねえ、今『不登校フトーコー』って呼ばなかった?」


 獣人種アニマ兎人族ラビナであり、今は白銀の髪を揺らしているウサ耳少女こと風奏ちゃんが、星霞くんこと白銀の騎士セーカに詰め寄る。


「言ってませんよ。ちゃんとフーカと呼びました」


 ねぇ、カリン――とセーカくん。爽やかな笑顔で私に同意を求めてくる。

 私は「あはは」とかわいた笑いを浮かべながら、


「ごめんなさい。ちょっと、聞いてなかったよ」


 と誤魔化す。セーカくんは「ほら、カリンも聞いてないって言ってますよ」と風奏ちゃんことフーカに伝える。フーカちゃんは少し黙った後、


「そう、なら私の聞き間違いね」


 と笑顔で告げた後、


「んなワケあるかっ! ウサ耳めんな! はっきり、聞こえてるのよ!」


 そういって、セーカくんにつかみかかった。

 まったくダメージが入っていないのか「アハハハ」とセーカくん。


 完全にフーカちゃんで遊んでいた。一方でセーカくんに呼ばれ、待機していた店員さんは動じた様子すら見せない。


 ニコニコとした表情でセーカくんからの指示を待っている。


「ああ、取りえず、1日の予定なので――獣人種アニマ用のスポーツブラ(5,000円)とショーツ(4,000円)を2枚ずつ、軽量ソックス(2,500円)も2足に、それから軽量ジャケット(15,000円)とパンツ(12,000円)、トレッキングシューズ(18,000円)を選んでください」


 と私に告げる。それと同時に


「女性用の軽量バックパック(12,000円)と手袋(5,000円)、それに帽子(3,000円)、軽量ベスト(8,000円)、サングラス(5,000円)も――」


 今度は店員さんに、セーカくんは告げた。


(あの、10万円は軽く超えているんですけど……)


 そう言って断ろうと思ったのだけれど、言える雰囲気ではない。

 店員さんも「かしこまりました。色はいかがいたしましょうか?」などと聞いてくる。


「取りえずは黒で……」


 僕の可愛い黒猫なので――とセーカくん。


(ダメだ、私の脳の処理が追いつかない……)


 私の金銭感覚がおかしいのだろうか? しかし、その時の私はまだ甘かった。

 言われるがままに着替えて、完成したのが「今の私」というワケである。


 試着室の鏡を見て「レベル一桁ひとけたの探索者には見えない」というのが私の感想だった。全身黒尽くろづくめで、何やら強そうである。


(本当は、もっとカジュアルで可愛いのが良かったのだけれど……)


 お金を払ってもらっておいて、そんな事を言える私ではない。


「似合ってますよ、カリン」


 セーカくんはそう言って、パチンと指を鳴らす。

 すると店員さんたちが何やら持ってくる。


 1)魔法のリング:スタミナ増強(5,000円〜10,000円)。

 2)魔法のネックレス:防御力アップ(8,000円〜15,000円)。

 3)魔法のブレスレット:速度アップ(5,000円〜10,000円)。

 4)魔法のイヤリング:聴覚強化(4,000円〜8,000円)。

 5)魔法のベルト:体力回復(6,000円〜12,000円)。

 6)魔法のアンクレット:ジャンプ力アップ(4,000円〜8,000円)。


 他にもまだまだある。この後、武器や道具も買わなければいけない。

 いったい、いくら必要なのか?


 庶民の私は、改めてダンジョンの恐ろしさ痛感するのだった。


(私たちの買い物は、まだ始まったばかりだ――)



 🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️



*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*


ฅ^•ω•^ฅ「カリンと~♪」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「フーカのー」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「ティーダンジョン♪」


ฅ^•ω•^ฅ「今日はダンジョンでの買い物について」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「ここから、ここまで全部ください……」


ฅ^-ω-^ฅ「こらこら」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「うー」


ฅ^-ω-^ฅ「ダンジョン、怖いよ……」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「えっ⁉ まだ、買い物しかしてないのに……」


ฅ^-ω-^ฅ「うう、高校生が一度に使う金額じゃないよ」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「何を言ってるの、ほら、まだまだあるから――」


🔴軽量レインコート:防水性(5,000円〜10,000円)。

🟠ヒートスカーフ:防寒対策(2,000円〜4,000円)。

🟡軽量レギンス:動きやすさと快適さ(4,000円〜8,000円)。

🟢軽量アンダーシャツ:吸湿速乾(3,000円〜6,000円)。

🔵軽量ベルトポーチ:小物収納(2,000円〜4,000円)。

🟣魔法のウォーターボトル:たくさん水が入る(1,500円〜3,000)。


(˶ᐢ. .ᐢ˵)「さらに防具は――」


🔴ライトアーマー:防御力と軽量性(12,000円〜20,000円)。

🟠スピードブーツ:スピードと防御力(10,000円〜18,000円)。

🟡ウィンドマント:防風性と防寒性(8,000円〜15,000円)。

🟢パワーグローブ:力強化(5,000円〜10,000)。

🔵インテリヘルメット:頭部保護と知力強化(10,000円〜20,000円)。

🟣シャドウクローク:隠密性アップ(12,000円〜25,000円)。

🟤プロテクトシールド:防御力強化(8,000円〜15,000円)。


ฅ^>ω<^ฅ「ひーっ! この後、武器も買うの?」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「状況によって、使い分けないとね。それに最新のスマホにポーションとかのアイテムもね」


ฅ^-ω-^ฅ「ダンジョン、怖い……」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「どうやら、今日のカリンはもうダメみたい」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「またね~、ばいば~い!」


*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*

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