第15話 50階層到達(3)- Side:大熊 健太郎(ダンジョン:星空橋)


 目を覚ました大熊おおくま健太郎けんたろうの視界には、無機質な天井が映った。

 消毒液や薬品類の混ざった独特なにおい。


 彼はここが何処どこかを把握はあくする。


「ああ、目覚めましたかニャ?」


 とは女性の声。もちろん、知り合いではなく、看護師のモノだ。


(いや、この場合は看護猫か?)


 健太郎の視界のはしで、真っ白な毛並みにブルーの瞳の猫が尻尾しっぽをゆらし、二足歩行でウロチョロしていた。


「返答はしなくてもいいので、もう少し横になっていてくださいニャ」


 とれた対応をする。

 起き上がろうにも、彼の身体からだは言うことを聞かない。


 健太郎は「ここはまだダンジョンの中で、1階層にある医療施設だ」という確証を得る。同時に、


(どうやら、自分は死んだらしい……)


 彼はスグに理解した。

 ダンジョンで死を体験したのも、一度や二度ではない。


 なので、十分に落ち着いている。

 だが、その体験に慣れるかどうかは別の話だった。


 詳しく思い出すとトラウマになりそうなので、彼はあまり考えないようにする。

 素直すなおに看護師の言葉にしたがって、寝ることにした。


 アバターからの強制生還の疲労が抜けていないので「仕方がない」とも言える。

 適合者の中にはスグに起き上がり、再びダンジョン探索へ向かう者も存在した。


 しかし、健太郎の場合、そこまでのタフネスを備えてはいない。

 ダンジョン適合者――と一口に言っても、いくつかの種類に分かれる。


 1)不適合者(モータル)

 2)低位適合者(デミゴッド)

 3)中位適合者(ヒーロー)

 4)上位適合者(デミデウス)

 5)完全適合者(デウス)


 というのが一般的な認識である。神話しんわ風なのは、ダンジョンに住む異世界人の多くが、神を信仰していることに関係していた。


 意思疎通そつうをする上で、彼らにも分かる言葉だからだ。

 では、何が適合者と、そうでない者を分けるのかといえば『万能素マナ』だ


 ダンジョンには万能素マナと呼ばれる未知のエネルギーが存在していた。

 それに適合できるかがどうかが、基準となっている。


 多くの人間は中位適合者である『ヒーロー』に分類され、アバターを作成することができた。健太郎も、その内の一人だ。


 現代における『探索者シーカー』になるための最低条件でもある。

 よって、一般的には中位適合者以上を適合者と呼ぶ。


 ただ、ヒーローであっても、ダンジョンに『ログイン』しない者もいた。

 適合者であっても、ダンジョンで活動できる人材が限られている理由の一つだ。


 モンスターとの戦いを好むか好まないか、そういった性格の違いでもある。

 しかし、日本はダンジョン災害が多く発生する国であるのも事実だ。


 そのため、ダンジョンにもぐらなくても、何かあった時のために「アバターまでは取得する」という人も一定数存在した。


 身分証明のために運転免許証を取得するペーパードライバーのような感覚である。

 また、取得することで入試などに有利な場合もある。


 若者の多くは積極的に取得していた。

 一方で、それが陰謀論だと騒ぐ人間もいる。


 彼らが言うには「政府が若者を戦地へ送るための準備をしている」という事のようだ。


 どうやら、彼らの中では、探索者は戦争の道具らしい。

 元自衛官である健太郎からすれば、鼻で笑ってしまう話だ。


 ちなみに適合者と不適合者を確認する方法としては「ダンジョン内を1時間ほど歩く」という単純な方法が取られていた。


 不適合者の場合、疲労が蓄積しやすく、気分が悪くなったりもするので、すぐに分かる。


 身体に不調がある場合は『対万応素外装アンチマナスキン』である衣服や解毒効果のある『アンチドート』のポーションを飲むことで対応が可能だ。


 次に中位適合者であるヒーローを見分ける方法だが、ダンジョンで採取した果実を食すことで確認できた。


 以前はモンスターを殺すことで確認していたが、現在はこの方が一般的だ。

 仕組みとしては「経験値が手に入り、ステータス画面を表示する『ステータス魔法』が使えるようになる」という理屈である。


 最近ではダンジョン内で出産した場合、生まれた子供は「高い確率で適合者になる」とされ、一部のダンジョンではダンジョン出産が盛んだった。


 また、攻撃魔法を受けることでも覚醒するらしいが、これは危険なため、試すのなら回復魔法が推奨されている。


 そして『ステータス魔法』が使えるようになることで、ダンジョン内で『ログイン』が可能となった。


 ダンジョンにログインすると『アバター』の使用が可能となる。

 アバターを使用することで「もし、ダンジョン内で死んでしまっても、スタート地点やポータルの設置地点に戻って来ることができる」という仕組みだ。


 理屈は解明されていないが、この発見が『探索者シーカー』をダンジョンへ送り込める最大の要因である。


 ただ、PTSD(心的外傷後ストレス障害)やうつ病などを発症させる可能性もあるので、極力死なないようにした方がいい。


 健太郎も動けるようになれば、会社の規定により、カウンセラーのもとへ行くことになっている。


 ダンジョン災害が発生した初期の段階で、この仕組みが分かっていれば「多くの被害者を出さずに済んだ」と未だに悔やまれていた。


 また、アバターについてだが、現在、人類が発見しているモノは5種類。

 種族ごとの特性や、人によって向き不向きがある。


 極端な例をげるのなら「猫アレルギーの人が獣人種アニマには向いていない」といった感じだ。一般的にも知られていることで――


 1)人間種テラン(地球人に近い種族)

 2)半神種エルダ森人族エルフ岩人族ドワーフ風人族ウィンドリングなど。

 3)獣人種アニマ狼人族ウルフィン猫人族フェリス兎人族ラビナなど。

 4)鱗人種メロウ魚人族マーマン蜥蜴人族リザードマン甲羅人族タートルマンなど。

 5)魔人種デモン鬼人族アスラ翼人族リリス眼人族アイズなど。


 から選ぶのが基本だった。一度決めると変更することはできないが、ダンジョンであるアイテムを入手すると「変更可能だ」といううさわが流れている。


 健太郎は獣人種アニマである狼人族ウルフィンを選択していた。

 その名の通り、狼の特性を持っている。


 嗅覚が鋭く、身軽であるため、ダンジョンでの探索に向いていた。

 見た目も――耳と尻尾が出現する以外――あまり人間と変わらないため、人気がある。


(やっと、身体が動くようになってきたか……)


 と健太郎。彼は上半身を起こした。

 ダンジョンで死んだ人間は通常、1階層へと転送される。


 そして、転送された人間が寝かされる場所がここであった。

 そのため、ベッドの数は多い。


 しかし、カーテンやパーティションで仕切られてはいないため、プライバシーの保護は考慮されていなかった。


(すぐに出ていけ!――とういことか……)


 健太郎はそう解釈する。


「バウッ!」


 と時折、犬の鳴き声がするのは、巨大な犬が人を運んでいるからだ。

 ソリに乗せられ、ゴールデン・レトリーバーやラブラドール・レトリーバーをさらに大きくしたような犬が人を運んできた。


 そして、器用にベッドへと寝かせる。

 人間が行うと(特に女性の場合)苦情が来ることが多い。


 そのため、ダンジョンに棲息せいそくする、犬のようは妖精が使役されていた。


「あら、もういいのですかニャ?」


 と猫の看護師。「問診を受けてくださいニャ、その後、荷物を返しますニャ」と番号とバーコードの印刷された紙を健太郎に渡しながら説明する。


 この後、彼は看護師の指示に従って行動し、医療施設を出て、仲間と合流するのだが――不思議なことに会社からは「事件は解決した」と聞かされるのだった。



 🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️



*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*


ฅ^•ω•^ฅ「カリンと~♪」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「フーカのー」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「ティーダンジョン♪」


ฅ^•ω•^ฅ「今日はダンジョンでの死について」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「アイツ(🐻クマ)には犠牲になってもらった……」


ฅ^-ω-^ฅ「こらこら」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「うー」


ฅ^-ω-^ฅ「まあ、本当は私たちが登場するシーンで説明する予定だったんだけれど……」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「私たちが死ぬと、みんなが悲しむからね……ほら――」


🔴人間の都合でクマを殺すな!

🔵山に返すべき! 自然との共生を目指せ!

🟡なぜ殺した? 殺すのは非道なり!

🟢ウシ、ブタ、ニワトリは美味しい♥️ でも、クマを殺したらかわいそう😢


ฅ^-ω-^ฅ「あれあれ……悲しんでる?」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「放って置きなさい、自然と共生していない地域の人ほど、声が大きいのよ」


ฅ^>ω<^ฅ「各地の猟友会の人たちも、抗議の声に悩まされているらしいね!」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「クジラと一緒でしょ、頭がメルヘンなのよ」


ฅ^-ω-^ฅ「まあ、通学路にクマが出没しない人たちの意見だよね」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「ハチミツをめる黄色いアレだと思っているのよ。クジラも『スーパー・ホエール』っていう架空のクジラを作り出してるみたいだし……」


ฅ^-ω-^ฅ「スーパー・ホエール?」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「クジラは世界最大の動物で、大きな脳を持っていて、人懐ひとなつっこくて、歌を歌うってヤツね」


ฅ^>ω<^ฅ「違うの?」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「世界最大のクジラはシロナガスクジラ。大きな脳を持っているのはマッコウクジラ。人懐っこいのはコククジラで、歌うのはザトウクジラ。ちなみに、絶滅に瀕しているのはセミクジラよ」


ฅ^>ω<^ฅ「わお、合体クジラだ!」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「想像力が豊かなのか、欠けているのか分からないわね……」


ฅ^-ω-^ฅ「架空のクジラ像なんだね」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「人は自分の信じたいモノを信じる生き物なのよ。アイツ(🐻クマ)の死は無駄にはしない――じゃあ、今日はここまで」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「またね~、ばいば~い!」


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