第14話 50階層到達(2)- Side:大熊 健太郎(ダンジョン:星空橋)


 今から20年近く前の話になる。「安定した職業にきたい」という理由から、高校を卒業した彼――『大熊おおくま健太郎けんたろう』は自衛隊に入った。


 当時、彼がまだ学生であった頃、ダンジョン災害に巻き込まれてしまったのが理由だ。


 ダンジョンが出現する際、モンスターが地上へ出現することもあれば、周囲の物質を取り込むこともある。


 運悪く、彼は家ごとダンジョンへと取り込まれ「命からがら家族と脱出してきた」というワケである。結果、彼の家族は住む家を失った。


 そのため、家族のためにも収入が欲しかったのだ。

 彼が働く原動力である。


 また皮肉にも、ダンジョン災害に巻き込まれたことが、その後の人生にとってプラスに働く。健太郎が探索者シーカーになることは決まっていたのかもしれない。


 彼の不幸中の幸いは「家族が全員無事だったこと」だろう。それにより、落ち込むよりも「早く家族に安定した暮らしをさせてやりたい」という思いが強かった。


 自衛隊に入ったからといって、特に強い正義感を持っていたワケではない。

 だが、健太郎の境遇と親しみやすい性格から、周囲の人たちは彼に協力的だった。


 きびしい自衛隊の訓練において、彼がリーダーシップを発揮するタイプであったこともこうそうする。チーム活動では重要なスキルだったからだ。


 チームリーダーとしての役割を果たすためには、他の隊員を導く能力が求められる。ダンジョン災害を経験していたため、健太郎には忍耐力もつちかわれていた。


 訓練が厳しい、プライベートの時間が少ない――そんな理由からめていく者も多かったのだが、帰る家のない彼には「辞める」という選択肢などなかった。


 転機が訪れたのは彼が30代となり、結婚をしてからだ。

 当時はダンジョンコンパ――つまりはダンジョンでの合コン(合同コンパニー)も流行っていた。


 ただ、それだと略称がダンコンとなるため、別の意味にも取ることが出来る。

 そのため、現在は『異世いせコン』(異世界コンパニー)と呼ぶのが普通だ。


 男性はモンスターを倒して、男らしさをアピールする。女性はそんな男性のたくましさやリーダーシップ、気遣いやコミュニケーション能力を図るのだ。


 自衛官であった彼が、意中の女性のハートを射止いとめるのは「そう難しくなかった」と言える。その後、昇進によって給料は安定してきたが、貯金は少なかった。


 子供が生まれることを考えると、心許こころもとない。

 また、自衛官のままでは、家族との時間が取れないことは容易に想像がつく。


 そのため、彼が転職先を探し始めたのは自然な流れだった。

 最初は派遣会社に登録しようと考えていたのだが、自衛隊をめた同期の友人に相談すると「実はいい話があるんだ」と話を持ち掛けられる。


 少子高齢化のご時世、探索者を集めるのに企業も苦労していた。元自衛官や元スポーツ選手などに声を掛け「スカウトする」というのは珍しい話ではない。


 闇バイトなどの事件に巻き込まれる可能性もある。怪しいサイトで探すよりは、友人の伝手つてで会社を紹介してもらう方が安心できた。


 さらにその就職先が大企業である『ダンジョンインダストリーズ』だというのだから、彼が飛びついたのも無理はない。


 ダンジョンインダストリーズは産業規模での探索と資源回収を行う会社だ。

 今でこそ大企業だが、その前進となる会社は北海道にある『ノースエクスプロア社』であるというのは、地元でも有名な話だった。


 再生可能エネルギーや資源開発に特化した大手企業『クロノスエネルギーソリューションズ社』に買収されたのが10年程前――それから急成長をげている。


 ただ、その所為せいで内部の管理体制が追いつかず、問題が発生しやすい状態だったのだが、当時の健太郎にそこまで把握するすべはなかった。


 いや、思いいたらなかった――というのが正解だろう。当時の面接官からは、


「ダンジョン適合者だそうですね。キミには、ダンジョン探索チームのリーダーをやってもらいたい」


 とすでに言われていた。自衛隊でつちかったリーダーシップや戦術的なスキルは「ダンジョン探索において非常に有用だ」と考えられていたようだ。


(正直なところ、自衛隊の戦術はダンジョンではあまり、役には立たないのだが……)


 余計なことは口にせず、健太郎は妻とこれから生まれてくる子供のために、入社を決意する。


 様々なダンジョンが存在するのだが、それらには共通点がいくつかある。

 階層ごとにまったく別の空間となっているのも、その一つだ。


 深い階層へ潜るほど、その空間は広く、大きくなってゆく。

 よって、ダンジョン内に空や海があっても不思議ではなかった。


 一方で自衛隊の小隊は約30名。3から4個の分隊で構成されている。

 中隊になると約100名だ。これらは複数の小隊で構成されていた。


(そんな人数、大企業とはいえ、そろえるだけでも大変だろうな……)


 と当初の健太郎は他人事ひとごとのように考えていた。ダンジョンの広さを考えるのなら、その人数を有効に活用できるのは50階層以降となる。


 ダンジョンへ潜る基準は「パーティーの平均レベル+人数」というのが常識だ。

 一般的なパーティーの数は5、6人とされている。


 そのため、50階層へ潜るのなら、平均レベルは45が推奨となる。

 しかし、探索者のレベルは通常35前後までしか上がらない。


 レベルが上がれば強くなるのだが「人間ではそこが限界だ」というのが、一般的な見解だ。


 努力をしたからといって、誰もがスポーツ選手の花形になれるワケではないのと同じ理屈である。


 つまりは現実的に考えて50階層へ潜る場合、レベル30以上のパーティーで約20名というのが、大熊健太郎の頭の中での計算だった。


 さらに任務は護衛や輸送なども含まれるだろう。

 何かを守りながら戦う場合、より多くの戦力が必要となる。


 また、回復役や索敵能力に優れた仲間も必要だ。


(これは、骨が折れそうだな……)


 というのが、健太郎が面接で感じた内容だった。

 後に痛感することになるのだが「人材さえ投入すればいい」と考える、典型的な「現場を分かっていない会社」である。


 くして、健太郎の苦労の日々が始まるのであった。



 🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️



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ฅ^•ω•^ฅ「カリンと~♪」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「フーカのー」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「ティーダンジョン♪」


ฅ^•ω•^ฅ「今日はダンバー数について」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「友達の友達は、友達だとは限らない……」


ฅ^-ω-^ฅ「こらこら」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「うー」


ฅ^-ω-^ฅ「で、ダンバー数って何? 今日の話と関係あるの?」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「人間が『安定的な社会関係を維持できる』とされる人数の上限ね」


ฅ^-ω-^ฅ「イギリスの人類学者ロビン・ダンバーによって提唱されたみたいだね」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「人間の場合、約150人がその上限らしいわよ。以下のような状況で観察されているわ」


🔴狩猟採集社会:150人程度の集団が一般的。

🔵現代の軍隊:中隊の規模が約150人。

🟡村落の規模:新石器時代の村落も150人程度。


ฅ^>ω<^ฅ「これを超えると、どうなるの?」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「グループの団結と安定を維持するために『より拘束性のある規則や法規が必要になる』とされているわ」


ฅ^-ω-^ฅ「お互いの関係を把握しきれなくなるんだね……」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「今回の話にどう関係あるのか? に対する回答としては、中隊(約100名)が軍隊の基本的な組織単位になっている点ね」


ฅ^>ω<^ฅ「5人の親密な関係 💞」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「家族や親友の数ね」


ฅ^>ω<^ฅ「15人の親しい友人 👥」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「親しい友人や頻繁に連絡を取る人々の数ね」


ฅ^>ω<^ฅ「50人の良い友人 🌟」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「友人や定期的に交流する人の数だけれど、ネットの関係も含めていいのかしら?」


ฅ^;ω;^ฅ「学校行く?」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「その顔やめなさい!――じゃあ、今日はここまで」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「またね~、ばいば~い!」


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