章間

Side:大熊 健太郎

第13話 50階層到達(1)- Side:大熊 健太郎(ダンジョン:星空橋)


 なぜ、こんなことになってしまったんだ!――元自衛官36歳『大熊おおくま健太郎けんたろう』は恐怖していた。それは死に対するモノではない。


 自分の指示で、仲間が死んでいくことに対する恐怖だ。

 目の前でたたつぶされ、肉片となる仲間の姿を見て、正気を保つのは難しかった。


 急ぎの任務ということで機動力を重視した結果、少人数でのダンジョン探索となる。必要最低限の装備だったのが裏目に出ていた。


(こんなハズではなかった……)


 茜色あかねいろの空をゆっくりと、灰色に染まった雲がまばらに流れている。

 周囲は太古の森を連想させるような密林によって囲まれていた。


 そんな中、大熊健太郎は後悔する。一度、踏破クリアされているダンジョンということもあった。また、50階層のモンスターは比較的大人しい傾向にある。


 30階層や40階層など、10階層ごとにボスが出現するエリアであった名残といえた。よって、探索者シーカーの間では油断が生じやすいエリアでもある。


(静かすぎることに、もう少し注意を払うべきだったか……)


 しかし、そんな理由で撤退てったいしないことは、チームリーダーである自分がよく分かっていた。


 彼が会社から受けた指示は「ダンジョンの50階層まで行き、アタッシュケースを回収してくる」ただ、それだけだ。


 いつもの通り、簡単な任務のハズだった。実際に任務の内容を聞いた時は「それくらい、地上へ転送すればいいだろ」と思っていたくらいだ。


 あの時、心の奥にいだいた疑念を口に出していれば――


(現状は変わっていたのかもしれない……)


 そう、考える健太郎だったが、


(ダンジョン管理者マスター記録ログに転送履歴を残すのは不味まずい――ということか……)


 また、厄介な仕事を頼まれたな――そう思い、納得してしまった。

 ダンジョン内では『ポータル』という転移装置や転移魔法を設置することが出来るのだが、ダンジョン管理者はそれを把握することができる。


 多くのダンジョン管理者は企業を経営しているので「会社全体でそれを把握している」と考えるのは想定の範囲内であった。


 また、探索者などに何かあった場合、救助する必要があるため、現在どのフロアに誰が出入りしているのか、公開することもある。


 今回に限っては、会社から禁止されていた。

 よって、救援を呼ぶことも、ポータルを設置する作業も想定していない。


(会社が違法なことをやっているのではないか?)


 最近の彼はそんな疑問を抱えていたのだが、えて無視していた。

 下手に会社へ楯突たてついて、再就職先を探すハメになっても面倒だからだ。


 それに家も建てたばかりである。健太郎は学生時代にダンジョン災害と遭遇した経験を持つ。そんな彼は、失う事を異様に恐れていた。


 家はその象徴のようなモノだ。妻と子供が以前の自分と同じように「住む場所を失う」そんな経験をして欲しくないと、そう考えていた。


 また、自衛隊にいた頃と比べ、給料などの条件も良かった。

 以前の仕事とは違って、休暇も取りやすい。


 なので「今の会社をめるワケにはいかなかった」というのが理由ある。

 しかし――


(そのツケが、この仕打ちか……)


 自分の都合を優先したばかりに、仲間が死んでいく。

 密林で孤立した部隊が、謎のモンスターとの銃撃戦。


 映画のワンシーンであれば「ガッテム!」などと声に出す場面シーンだ。

 もしくはウィットに富んだ台詞セリフを吐く場面でもある。


 しかし、残念ながら健太郎の口からは、そんな台詞は出てこない。

 銃撃を物ともしない巨大なモンスターとの遭遇そうぐう


 それも50階層には存在しないハズのモンスターだ。

 今の境遇は、まるで怪獣映画である。


 ゴール直前ということもあり、先程までは仲間と年末の予定について軽口を叩いていた。


「家族はいいぞ、お前も早く結婚しろ」

「自分、この任務が終わったら、彼女にプロポーズするッス!」


 死亡フラグではあるが「そんな会話をしていたのがいけなかった」とは誰も本気で思っていない。別に油断をしていたワケでもない。


 仲間の平均レベルは30だが、チームは17名。全員、ダンジョン用の銃火器を装備している。無理さえしなければ、十分に可能な任務のハズだったのだ。


 それが、たった1体のモンスターとの邂逅かいこうで、すべてをくるわされた。

 回復薬である『ヒーリングポーション』も、蘇生のための『リバイバルストーン』も、一撃で殺されてしまうのであれば意味はない。


 薄い紫とも、淡い桃色とも、白に近い灰色とも取れる肌。

 優に20メートルは超えている巨体。


 だが、動きは素早く、相手の突進に巻き込まれるだけで大怪我を負ってしまう。

 爬虫類と人間を掛け合わせたような容姿だが、形状は毛のないゴリラに近い。


 異様に発達した両腕に対し、下半身は脆弱な印象だ。移動方法も、前肢を握り拳の状態にして地面を突くナックルウォーキングを行っていた。


 巨体であるため、動かれるだけでも厄介だ。

 また、顔の形はくずれ、大きさの違う丸い穴が3つ開いている。


 人のようでもあるのだが、どれが目で、どれが口なのか分からない。


(いや、そんなことは、この際どうでもいい……)


 健太郎が現状を打破するために思考をめぐらせている間にも、彼の仲間が放つ銃撃音が消えていく。


 仲間の状況を確認するためのステータス魔法の一種である『フレンドリスト画面』。そこに表示されていた仲間の名前が、死を知らせる赤へと次々に塗り替えられていった。


 圧倒的な存在に対する恐怖。予期せぬ事態への驚き。

 チームを守らなければというあせりと、リーダーとしての責任感。


 この場の誰よりも、いの一番に逃げ出したい人物は彼だったのかもしれない。


(今年のボーナスはあきらめた方が良さそうだ……)


 彼の勤める会社に限らず、探索者との契約は基本、成果主義な会社が多い。

 回復用のアイテムは勿論もちろんのこと、装備にもお金が掛かる。


「家のローンはどうしようか?」


 と健太郎はつぶやく。

 それは愚痴ぐちではなく、思考をリセットするための台詞セリフだ。


「全員、撤退てったいしろ! ここはオレが――」


 それが、彼の最後の言葉であり、指示だった。

 モンスターの最初の襲撃で、彼の持つリバイバルストーンは砕け散っている。


 のちの仲間の証言から、彼はモンスターの拳によって、叩きつぶされたことを知った。

 幸いだったのは、それが彼らにとって、本当の死ではなかった事だろう。



 🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️



*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*


ฅ^•ω•^ฅ「カリンと~♪」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「フーカのー」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「ティーダンジョン♪」


ฅ^•ω•^ฅ「今日は小説における『幕間まくあい』についてです」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「出番がなくて、楽だと思ったのに……」


ฅ^-ω-^ฅ「こらこら」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「うー」


ฅ^-ω-^ฅ「それよりも、何だか別の話になってるよ?」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「私たちとは別の場所で『異なる物語が展開されている』ということね」


ฅ^-ω-^ฅ「それが幕間?」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「劇や小説において、主要な物語の合間に挿入される『短いエピソード』や『シーン』のことよ」


ฅ^-ω-^ฅ「今回は『章間しょうかん』という言葉を使っているけれど……」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「一般的には『幕間』と同じ意味で使われている言葉ね」


🔴幕間:劇や小説で、主要な物語の合間に挿入される短いエピソードやシーン。

🔵章間:章と章の間に挿入されるエピソード。幕間と同じ意味で使われることが多い。

🟡幕章:あまり一般的ではなく、通常は『幕間』や『章間』が使われる。


ฅ^>ω<^ฅ「分かったけど、何やら危険が危ない!」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「頭痛が痛い話ね。でも、私はモンスターなんかより、人間の方がよほど怖いのだけれど……」


ฅ^>ω<^ฅ「もしかして……私たち、これからここに向かうの?」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「分かりやすい伏線ね」


ฅ^-ω-^ฅ「大丈夫かな?」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「ババアとババアが激突……じゃなくて、こっちにも一人、規格外のモンスターがいるから大丈夫でしょ」


ฅ^>ω<^ฅ「????」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「本当に怖いのは、人の皮を被った化け物よね――じゃあ、今日はここまで」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「またね~、ばいば~い!」


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