第11話 探索の前に(2)- Side:黒猫 歌鈴(ダンジョン:星空橋)


 エレベーターが停まり、ドアが開くと、


「こっちですよ」


 星霞くんは、そう告げた。私は「うん」とうなずき、エレベーターから降りる彼の後に続く。素直にしたがう私に対して、


「ここは探索者シーカー専用のフロアで、ランクごとに使用できるフロアが異なっているんですよ」


 と説明してくれた。ランクというのは『探索者シーカーランク』のことで、探索者の能力や経験を示すために使われる評価システムである。


 AからFまでのランクが使われ、Aランクが最も高い評価を示し、Fランクが最も低い評価を示す。ファンタジー作品やゲームなどで、よく見られるシステムだ。


 星霞くんの説明から「おおむね、私の予想通りだ」ということが分かる。

 ダンジョンを探索する彼らのために、企業が拠点を提供しているのだろう。


 無駄に広い廊下で、ふかふかの赤い絨毯じゅうたんを踏みながら――


(こういう場所って、すごーく高いんだよね?)


 などと質問しようと思ったのだけれど、止めておく。

 私なんかに1千万円を払うような星霞くんのことだ。


 よく分からない金額が出てきそうな気がする。

 それに今、聞いてしまうと――


(後戻りできなくなりそう……)


 基本的に探索者は企業や政府、研究機関からの護衛やモンスター討伐、資源調達などの依頼を受けることで「生計を立てている」と聞く。


 つまり「ここは探索者が必要とする物資や装備の補給、メンテナンスを迅速に行うための拠点」といったところなのだろう。


 星霞くんは廊下に点在する扉の内、その一つの前に立つとドアの横にあるセンサーにスマホをかざす。すると、ガコッとロックが外れ、ウィーンとドアが開いた。


 ダンジョン内だからだろうか? 思っていた以上に頑丈がんじょうな作りらしい。


「ここは自由に使っていい部屋なので、後で探索者シーカー専用のデバイスを買いにいきましょう」


 と微笑ほほえむ。たぶん、買ってくれるつもりなのだろう。


(たしか、2十万くらいしたような……)


 まあ、パソコン1台を買う――と考えれば妥当な値段なのかもしれない。


 スマホはスペックによって『エントリーモデル』(2-4万)、『ミドルレンジモデル』(4-10万)、『ハイエンドモデル』(10万以上)の3種類に分けられるのだけれど、さらにその上に『シーカーアルティメットモデル』(20万以上)が存在する。


 持っているだけでマウントが取れるため、承認欲求高めの人にとっては必需品だ。

 安いスマホと比べると処理性能やカメラ性能、ディスプレイ性能に加えて、搭載機能が違うらしい。


 ハイエンドモデルでさえ、ちょっとしたノートパソコンよりも高いスペックを誇ると聞く。


(シーカーアルティメットモデルだと、どうなんだろう?)


 そんな考えが、私の頭に浮かんだ。

 同時に顔へ出ていたのだろう。星霞くんは、


「大丈夫ですよ、5千万までなら自由に使えますから」


 などと言う。うん、これはもう逃げられないヤツだ。

 私は逃げるのをあきらめて、星霞くんと一緒に部屋の中へと入った。


 靴は脱がなくても大丈夫らしい。内装は高級ホテルといった感じだろうか?

 白を基調とした広い作りで、テレビ番組などで紹介されているのを見たことがある。


 大きな窓もあり、そこからダンジョンの景色が一望できるようだ。

 私がポカンとたたずんでいると、


「まずは着替えてから、自己紹介ですね」


 と星霞くん。簀巻すまき美少女をソファーの上に立たせ、ぐるぐる巻きにした布団の拘束こうそくを解きながら、


「『浅深せんしん部』(20階層まで)はダンジョン管理者マスターによって管理されているので、薄着でも大丈夫ですよ」


 と続ける。同時に奥の部屋を指差した。

 着替えは向こうの部屋で――という事のようだ。


 一方で簀巻すまきにされていた美少女はパジャマ姿だった。


(そういえば、パジャマがどうとか言っていた気もする……)


 星霞くんが虚空こくうに手をかざすと、部屋に備えられていたスリッパが宙を舞う。

 そのまま、彼の手の中に吸い寄せられた。


 ここはもうダンジョンなので、スキルを使ったのだろう。

 床にスリッパを置くと、今度は美少女の手を取った。


 彼女は不機嫌なままだったけれど、慣れた動作でソファーから降り、スリッパに足を通す。上下ともライトブルーのシンプルなパジャマだ。


 寒そうにも見えるけれど――


(そういえば、北海道の部屋は暖かいから、冬でも薄着だとか……)


 動作に違和感はなかったのだけれど、黒髪ストレートの綺麗な顔で、星霞くんをにらんでいる。しかし、


「そんな顔をしても無駄ですよ。あなたのお姉さんのからの命令です。それに学校からも頼まれていますしね……」


 文句があるのなら不登校を止めてください――と星霞くんは付け加えた。

 何となくだけれど、彼女が連れてこられた理由が分かった気がする。


 反論すると「面倒なことになる」と判断したのだろう。

 彼女は黙ると、私の方へ向かって歩き始めた。


 緊張でドキドキする私に対し、一言「行くわよ」と告げて、奥の部屋へと入っていく。


 私が怒られるのかも――と思っていたのだけれど、その心配はなかったらしい。

 ホッと胸を撫で下ろす。一方で「早くしなさい」と彼女。


 そういえば、着替えは私が持っているトートバッグに入っているのだった。


「う、うん!」


 と返事をして、私は彼女の後に続く。

 奥の部屋へは靴を脱いで入るらしい。入口の辺りが段差になっている。


(なるほど、ここは着替えたり、談笑をするための部屋なのか……)


 多分、隣の部屋にはベッドがあって、休息が可能なのだろう。

 そして、ダンジョンへと向かうのだ。


 私は一度振り返ると、星霞くんは軽く手を振ってくれた。

 頑張って――という事だろうか? 私も軽く手を振り返す。


(ちょっと、くすぐったいかな♪)


 こんなことで機嫌がよくなる私も、単純なモノである。



🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️



*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*


ฅ^•ω•^ฅ「カリンと~♪」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「フーカのー」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「ティーダンジョン♪」


ฅ^•ω•^ฅ「今日は探索者シーカーのための専用施設について」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「税金の無駄遣い、透明性の欠如、環境への影響……」


ฅ^-ω-^ฅ「こらこら」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「うー」


ฅ^>ω<^ฅ「まずは定番の訓練施設」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「探索者がダンジョン内での戦闘技術やサバイバルスキルをみがくための訓練施設ね。最新のシミュレーション技術を用いたトレーニングが行えるわ」🏋️‍♂️


ฅ^>ω<^ฅ「続いて、医療センター!」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「ダンジョン探索中に負傷した探索者を治療するための専用医療センターよ。高度な医療設備や専門医が常駐しているワケではなく、ヒーラーやポーションが常備されているわね」🏥


ฅ^>ω<^ฅ「そして、研究施設!」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「ダンジョン内で発見された未知の物質や生物を研究するための施設ね。科学者や研究者が集まって、探索者からの情報を基に研究を進めているわ」🔬


ฅ^>ω<^ฅ「装備開発センター!」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「探索者が使用する装備や武器を開発・改良するための施設よ。主に企業がしのぎを削って最新の技術を駆使し、より安全で効果的な装備の提供を目指しているようね」⚔️


ฅ^-ω-^ฅ「あれ? 私たちがいたのは……」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「探索者ホテルね。探索者が必要とする物資や装備の補給、メンテナンスを迅速に行うための拠点で『休息とリフレッシュ』『情報共有』などにも利用できるわ」


ฅ^>ω<^ฅ「おお! 探索者っぽい」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「ぽいじゃなくて、探索者なのだけれど――まあ、いっか……じゃあ、今日はここまで」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「またね~、ばいば~い!」


*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*

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