第09話 冒険の仲間(3)- Side:黒猫 歌鈴(O市桜ヶ丘)


 私がペットたちとたわむれていると「わふっ」とサモエド。

 急に顔を上げて、階段の方を振り向く。


 そして、トコトコと歩いていった。

 ラグドールの方も同様だ。


 ぴんっと耳を立てた後、抱っこしていた私の腕からスルリと抜け出る。

 そして、サモエドの横に並んだ。


 2匹一緒に、階段の登り口の辺りでなにかを待つように、ちょこんと座る。

 一瞬「どうしたの?」とおどろいたのだけれど、その理由はスグに分かった。


 足音が聞こえる。星霞くんが下りてきたようだ。

 同時に「むー、むー」と唸る声。


 階段を下りてきた星霞くんの肩には、布団で簀巻すまきにされた人物が一人、かつがれていた。顔は紙袋でおおい隠されているので、確認はできなかったけれど――


(恐らく、引きこもっていた人物よね……)


 確か、家政婦さんは『フーカ』と呼んでいた。

 つまりはサモエドたちのご主人様だろう。


 その証拠にサモエドは嬉しそうに尻尾をパタパタと振っている。


『姫、遊ぶでゴザルよ♪』 ※歌鈴の妄想です。

『あっしとも遊んで欲しいですニー』 ※歌鈴の妄想です。


 ペットの2匹はそう言って、うずうずしているようだ。


(本人は拘束こうそくされていて、それどころじゃなさそうだけれど……)


「フガー、フガー」


 とペットたちへ助けを求めるようにあばれたのだけれど、2匹は大人しく座ったままだ。きちんと訓練されているらしい。


 星霞くんは平然としていて、スマホをいじっている。


(これって……どう見ても誘拐ゆうかいでは?)


 私はそう思ったのだけれど、家政婦さんはその様子を見ても、なにも言わなかった。

 むしろ、平然としているので「この家では良くあること」なのかもしれない。


「タクシーを呼んだので、5分くらいで来ると思います」


 ようやく、ダンジョンへ行けますね――と星霞くん。

 どうやら、このままダンジョンへと向かうらしい。


 表情は変わらない。しかし、どこか嬉しそうに見える。

 悪いけど、私としは楽しかった天国が終わり、地獄に変わってしまった気分だ。


「フンガー、フンガー」


 再び逃げ出そうと暴れ出すフーカ(?)だけれど、


「そうですね。運河ウンガーですね。運河ウンガーダンジョンへ行きましょう。『風奏ふうか』にヤル気があって助かります」


 良かった、良かった――と星霞くん。

 まるで子供の戯言ざれごとを聞き流す母親のような対応である。


 一旦、彼女を玄関マットの上に転がすと、靴をく。

 これをチャンスと思ったのか、彼女は逃げようして床を転がる。


『姫、楽しそうでゴザルな♪』 ※歌鈴の妄想です。

『あっしもやるですニー』 ※歌鈴の妄想です。


 1人と2匹は玄関から廊下にかけて、コロコロと転がっては戻ってくるを繰り返した。


「フガー、フガー」

『あはは、楽しいでゴザルな♪』 ※歌鈴の妄想です。

『楽しいですニー』 ※歌鈴の妄想です。


(取りえず、面白いので動画にして残しておこう……)


 私がスマホを向けると、目が合った。

 紙袋には2つ穴が開いていたので、そこから視線を感じる。


「フガー、フガー」


 なにを言っているのかは分からなかったけれど、助けて欲しいのだろう。

 答えは『Yes』であり『No』だ。つまり、どちらでもない。


 私は視線をらすことで誤魔化ごまかした。


『次はなにをするでゴザルかな♪』 ※歌鈴の妄想です。

『あまり動かないのがいいですニー』 ※歌鈴の妄想です。


 よほどなついているのか、2匹は簀巻すまきになっている彼女の上に乗っかった。

 これではもう、転がって逃げることも出来ないだろう。ご愁傷様しゅうしょうさまである。


 一方で靴をき終えた星霞くんは家政婦さんからトートバッグを受け取っていた。

 確か、パジャマがどうとか言っていたので、彼女の着替えや靴だろう。


 星霞くんはソレにポケットから出したスマホを入れていた。

 彼女の部屋から一緒に持ってきていたようだ。


 これなら、ダンジョンへ出掛けても問題ないだろう。星霞くんは、


「ほら、退いてください」


 と言って、サモエドとラグドールの2匹に指示を出す。すると2匹は簀巻すまきになっている彼女の上からゆっくりと降り、そのそばにちょこんと座る。


 まるで、これから主人である彼女が出掛けることを分かっているかのようだ。

 星霞くんは平然とした態度で、再び簀巻きの彼女を肩に担ぐ。


 サモエドとラグドールの2匹が外へ逃げないか心配だったが、訓練されているようなので大丈夫そうだ。私は星霞くんが出やすいようにドアを開ける。


「それでは、行ってきますね」


 と星霞くん。「フガー、フガー」とフーカも暴れているようだったけれど、誰も気にする様子はない。


「フーカ、ガンバレヨ、イッテラー」

『姫、いってらっしゃいでゴザル』 ※歌鈴の妄想です。

『お土産よろしくですニー』 ※歌鈴の妄想です。


 家政婦さんと2匹のペットに見送られ、星霞くんは家を後にした。私も玄関のドアを閉めると同時に「い、行ってきます」と申し訳なさそうに告げる。


 この街は観光地でもあるので、タクシーは多い。

 丁度、来てくれたようだ。


(たしか、運河ダンジョンって言っていたよね……)


 私たちの冒険が始まる。


「フガー、フガー」



🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️



*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*


ฅ^•ω•^ฅ「カリンと~♪」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「フーカのー」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「ティーダンジョン♪」


ฅ^•ω•^ฅ「今日は北海道の運河についてです」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「フガー、フガー」


ฅ^-ω-^ฅ「どうどう、落ち着いて」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「うー」


ฅ^-ω-^ฅ「えっと、北海道の運河といえば……」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「修学旅行先でもお馴染み、観光の象徴とも言える『小樽運河』ね」


ฅ^-ω-^ฅ「小樽市は札幌市や函館市と並ぶ、日本有数の観光都市だからね」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「現在(2024/12時点)では、北海道新幹線の小樽延伸は、2031年度以降に開業が見込まれているみたいね」


ฅ^-ω-^ฅ「地質不良や巨大な岩塊の出現で、難航してるんだよね……」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「よって、北海道の人は今の内に行っておくのも手ね」


ฅ^>ω<^ฅ「北海道新幹線が開業したら、観光客が凄そう!」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「オーバーツーリズムの問題なんかにも気を付けないと」


ฅ^>ω<^ฅ「えっと、小樽駅から小樽運河までは徒歩約10分!」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「駅を出てまっすぐ港方面へ歩くだけで、簡単にアクセスできるわ」


ฅ^-ω-^ฅ「1923年に完成した運河で、港に停泊する船から貨物を運ぶために使われていたんだよ」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「現在でも石造りの倉庫や歴史的建造物が立ち並んでいて、どこ風景を切り取っても絵になるわ」


ฅ^>ω<^ฅ「運河クルーズも人気のアクティビティだね♪」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「私は乗ったことはないけれど、約40分かけて運河をゆっくり巡るみたいね」


ฅ^>ω<^ฅ「運河沿いにはカフェやレストランも多いよ♪」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「じゃあ、私たちも休憩するとしましょう……」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「またね~、ばいば~い!」


*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*

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