第07話 冒険の仲間(1)- Side:黒猫 歌鈴(O市桜ヶ丘)


 私が「友達なんていません!」と言った所為せいだろう。

 分かりました――と星霞くん。再び私の手を取り、


「連れていってもいいですか?」


 そう言って、母に確認をする。つないだ手を見せて、仲良しアピールだ。

 すでに、お昼の忙しい時間帯は過ぎた。


 今度は夕方から夜にかけて、徐々じょじょに人が増えてくるだろう。

 しかし、客は常連さんばかりなので「特に問題はない」と母は判断したようだ。


 サムズアップする。きっと、私の表情を見て「満更でもない」と思ったのだろう。

 こういう時の家族の反応というのは、むずがゆい。


「では、行きましょうか? 歌鈴さん……いえ、歌鈴」


 ああ、僕のことも呼び捨てで構いません――などと星霞くんは付け加える。

 私はとっさの反応が出来ずに「彼に手を引かれるまま、家を出た」というワケだ。


 正確には、エプロンと三角巾を外して、コートを羽織った。

 今日は晴れているので、マフラーは必要ないだろう。


 本当はもっとお洒落をしたかったのだけれど、仕方がない。

 日がしずむと気温が一気に下がるので、鞄に手袋とマフラーを入れる。


 学校の知り合いがいないか注意しながら、駅へと向かった。

 途中でアップルパイと栗のマドレーヌを星霞くんに買ってもらう。


 そして、辿たどり着いたのがO市にある桜ヶ丘というエリア。駅からのアクセスも良く、札幌や他の観光地への移動にも便利なことで知られている。


 高台に位置しており、O市街や港を一望できる素晴らしい眺望が魅力だ。

 特に夕日や夜景が美しく、静かな環境が人気だと聞く。


 ゆえにO市の中でも高級住宅街として知られていた。

 また、歴史的な建物も多い。カトリックの教会が有名だ。


 神社仏閣もいいけれど、北海道ではこうした建物に、地域の歴史や文化を感じることが出来る。


 引っ越しの際、市役所でもらった案内にも「春には桜、秋には紅葉が美しく、自然散策が楽しめる」とあった。


 緑も多く、四季折々の自然を楽しめるため、家族連れや高齢者にとっては住みやすい環境といえるだろう。


 私たちは駅前からバスに乗ってやってきた。約10分といった距離だ。


「これから会うは少々、クセが強いのですが……」


 まあ、なんとかなりますよ――と星霞くん。

 一緒にダンジョンへと潜る女の子を紹介してくれるという話だった。


 私に気を使って、男性よりも女性がいいと判断したのだろう。

 けれど、その口調から推測するに――


(どうやら、一筋縄ではいかない性格らしい……)


 私が「友達なんていません!」と言ったばかりに、余計な気を使わせてしまったようだ。今からでも「誤解です」と訂正すべきなのかもしれない。


 けれど、次は「じゃあ、ダンジョン適合者の友達を紹介してもらえますか?」という質問がくるに決まっている。


 正直、いくら星霞くんの頼みとはいえ、紹介できる人物は思い至らなかった。

 もちろん、星霞くんと2人きりという選択肢もあるのだろうけど――


流石さすがに2人だけだと危険よね……)


 この春に転校してきた――というのも理由だけれど、ダンジョンに対して、それほど興味はない。そのため、周囲にいるダンジョン適合者など、気にしなかった。


 なら何故なぜ、適合者の資格を持っているのかといえば、東京にいた頃、学校の授業で取得する機会があったからである。


 適合者であった場合、いろいろと優遇されることが多いようだ。

 今回の学校への転入も、面接で有利に働いたふしがある。


 免許証みたいなモノかと思っていたけれど、私が思っていたよりも便利らしい。

 東京は人が多いため、適合者自体はそれほど珍しくもないのだけれど、北海道みたいに人口が少ない地域では重宝されるのだろう。


「ここですよ」


 と星霞くん。彼が案内してくれたのは、比較的新しい家だった。

 和洋折衷のデザインの住宅が多い中、木骨石造の蔵を併設している住宅もある。


 その中にあって、広い庭や大きな敷地が並ぶエリアだ。


(明らかに、お金持ちの住む家だよね……)


 庶民代表である私は「場違いなところへ来てしまった」という感じが否めない。

 星霞くんは気にした様子もなく、チャイムを押す。


 インターホンのスピーカーから「ハーイ、ドチラサマ?」という返事に対し「先程、連絡した天霧です」と告げる。


 応対したのは、女性のようだけれど片言だ。外国人の家政婦でも雇っているのだろう。「キーテルヨ、ラッシャイ」と言われる。


 一方で星霞くんは戸惑う様子はない。

 では、お邪魔します――と断り、門を開けて敷地内へと入っていく。


 慣れているというよりは「遠慮がない」といった感じだ。


探索者シーカーあるあるよね……)


 私は彼の後に続きながら苦笑する。

 ダンジョン探索と一緒で、こういった行動に遠慮がないのだ。


 玄関まで辿り着くと、ドアを開け「お邪魔します」と再び挨拶をする星霞くん。

 初めての家ということもあり、私は申し訳なさそうに「お邪魔します」と声を出す。


「オー、ヨクキタナ、ハイレ」


 とエプロン姿の家政婦らしき東南アジア系の女性が笑顔で迎えてくれる。


「フーカ、トモダチガ、キタヨ」


 階段へと向かって、彼女は声を上げた途端、涙ぐむ。


「アノ、フーカニ、トモダチガ……」


 と感動しているようだ。別にまだ友達ではなく、それどころか――


(まったくの初対面なのだけれど、大丈夫かな?)



🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️



*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*


ฅ^•ω•^ฅ「カリンと~♪」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「フーカのー」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「ティーダンジョン♪」


ฅ^•ω•^ฅ「今日は北海道の教会について」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「安心しろ、人間なんぞにそこまで価値はない」


ฅ^-ω-^ฅ「こらこら」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「うー」


ฅ^>ω<^ฅ「まずは『トラピスチヌ修道院』!」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「日本初の女子修道院で、美しい庭園と静かな環境が魅力ね。1898年に設立されたわ🌼」


ฅ^>ω<^ฅ「次は『函館ハリストス正教会』!」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「日本初のロシア正教会で、白い壁と緑の屋根が特徴的ね。鐘の音が『日本の音風景100選』に選ばれたとか……🔔」


ฅ^>ω<^ฅ「そして『カトリック元町教会』!」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「ゴシック様式の美しい教会で、白亜の壁と赤い屋根が特徴ね。2度の大火にあって、1924年に再建されたそうよ🌟」


ฅ^-ω-^ฅ「でも、どうして、北海道は教会が多いの?」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「目に付きやすいからで、人口の多い地域の方が数は多いわよ。北海道に、こうした教会があるのは日米和親条約の締結(1854年)による、函館の開港があるわね。また、明治や大正時代に多くの外国人技術者を招聘しょうへいしたという理由もあるみたい」


ฅ^>ω<^ฅ「聞いたことある💡 不死身の杉本ね!」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「ウィリアム・スミス・クラークでしょ! 金塊争奪戦を始める気?」


ฅ^-ω-^ฅ「てへへ『少年よ、大志を抱け!』でした」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「まあ、彼はアメリカ人技術者で札幌農学校の設立に関わった人だけれど……」


ฅ^>ω<^ฅ「じゃあ、続きはまた今度!」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「次回からの投稿は時間を変えて、明日12/5(木)の夕方頃の予定よ」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「またね~、ばいば~い!」


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