第06話 自分の価値(3)- Side:黒猫 歌鈴(黒猫食堂)


 星霞せいかくんは未だに私の手を離してくれない。


(それを「良し」としている私も私なのだけれど……)


 他にお客さんがいない時間帯で良かったよ――と内心で安堵あんどすべきだろうか?

 いえ、彼のことだから、その辺は計算済みのハズだ。


 次に星霞くんから、発せられた言葉は、


「お金が欲しい!――て、言ってましたよね」


 というモノだった。思わず、私はぽかんと口を開け、間抜けな顔をしそうになった。いいえ、実際、わずかな間だったけれど、間抜けな顔をしてしまった。


(そりゃ「要らない」って言う人は少数だろうけど……)


 いつぞやの私の愚痴ぐちを覚えていたようだ。

 ここO市から札幌は近いので、友達と買い物へ行く際は札幌となる。


 当然「お金も必要になる」というワケだ。東京から来た私からすると商品自体は物足りない気もするのだけれど、高校生のお小遣いで買えるモノなど限られている。


 不自由はなかった。ただ、お金さえあれば、買える服の選択肢が増える。

 価格帯の幅が広がるからだ。


 それに、店員さんから声を掛けられて「今日は見にきただけなんです」と言いつくろう必要もなくなるだろう。


(まあ、私の場合は服よりも、食べ物にお金を使ってしまうのだけれど……)


 北海道の食べ物が、どれも美味しいのは何故なぜなのだろう?

 お陰で体重の管理が大変なのだ。


 今は10月。特にこれからの冬場は気を付けなくてはならない。

 北海道に限らず、運動量が減少し、クリスマスやお正月などのイベントも多い。


 高カロリーな食事をる機会が増えるのは明白である。また、寒さに対抗するために身体がエネルギーをたくわえようとするため、脂肪がつきやすくなるのだとか。


 そんな私の思考を読んだワケではないのだろう。

 いわば『ダイエット』は『限定品』と並んで、女性を誘惑する言葉である。


「ダンジョン探索は美容や健康の維持にも最適ですよ」


 一緒に頑張りましょう!――と星霞くん。たたみ掛けるタイミングと言葉を理解しているらしい。イケメンにそう言われて、その気にならない女子などいないだろう。


(確か「ダンジョンダイエットツアー」とか聞いたことがある……)


 しかし、どうして、こうも熱心なのだろうか?

 疑問に思った私だったけれど――


「うんと言ってくれるまで、放しませんよ」


 と星霞くん。どうやら、私からの言質を取りたいらしい。

 正直なところ、お金が欲しいのは確かだ。


(お母さんも、お金を返す気はないだろうし……)


 東京と違って「北海道の服選びは実用性も考慮しなければならない」と聞く。

 特に冬場は命がかっている。


 わぁ、この服可愛い♪――とか、呑気に言ってはいられないそうだ。

 機能性とデザインの両立。マフラーや手袋、帽子などの小物の活用。


 セーターやカーディガンを重ね着することで温かさを確保。

 ブーツも防寒性が高く、デザイン性のあるモノを選ぶ必要がある。


 そして、私にそんなことをレクシャーしてくれた友人がオススメする最強の防寒具、それは、


『そう、最強の防寒具は車を持っている彼氏よ』


 だそうだ。そして、


『まあ、歌鈴かりんのような独り身は脂肪が彼氏なんでしょうけどね♪』


 とも言っていた。失礼極まりない友人である。


(星霞くんと仲良くなって見返してやりたい……)


 動機は不純だけれど、沸々ふつふつと怒りが込み上げてきた。なので、


「分かりました。星霞くん、よろしくお願いします!」


 と言ってしまったのは仕方のないことだろう。


(しまった!「考えさせて」と言うつもりが……)


 慌てて口を押えても後の祭りだ。


「それは良かった」


 と何故なぜか私の耳元でささやく。

 しかし、近づかれて分かったのだけれど、意外と筋肉質な身体からだをしている。


 思わず喉仏を見てしまったり、胸板に触りたくなったり、肩幅を比べてしまう。

 星霞くんも、実は緊張していたようで、ほっと胸をで下ろしていた。


 そんな彼の様子を「ちょっと可愛いな」と思いつつ、よこしまな思いを抱いてしまったことに後悔する。私は、


「やっぱり、私なんかじゃ――」


 と言って、断ろうとしたのだけれど、


「大丈夫! 若くて可愛いから、すぐにかせげますよ♪」


 と爽やかな笑顔で星霞くん。「ん?」と思わず私は首をかしげてしまう。

 悪いが、変な意味にしか聞こえない。


「初めてでも大丈夫! 僕が一緒ですから……」


 優しくしますね――などと付け加える。

 余計に変な意味にしか聞こえない。


(いや、星霞くんが相手ならいいのか?)


 つい、私はくだらない妄想をしてしまった。

 よくよく考えてみれば、ダンジョンで2人きりという可能性は十分にある。


 友人よ、どうやら最強の防寒具を手に入れるのは私の方が早かったようだな!

 フハハハハ!――と思わず笑いたくなるのをこらえる。一方で星霞くんは、


「一人では不安なら、お友達を連れてきても構いませんよ」


 と告げる。私はかさず、


「友達なんていません!」


 声を上げて、答えてしまう。

 それを聞いた星霞くんは、今までで一番優しい顔をしたのだった。



🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️



*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*


ฅ^•ω•^ฅ「カリンと~♪」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「フーカのー」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「ティーダンジョン♪」


ฅ^•ω•^ฅ「今日は冬の北海道について」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「脂肪が彼氏……プッ」


ฅ^-ω-^ฅ「おいこら」💢

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「うー」


ฅ^-ω-^ฅ「じゃあ、冬の北海道あるある」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「行ってみよー」(棒読み)


ฅ^>ω<^ฅ「雪かきしながらスマホで音楽を聴く🎧」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「スマホのバッテリーが寒さで急激に減る🔋」


ฅ^>ω<^ฅ「友達とオンラインでスキーの予定を立てる⛷️📅」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「スマホで雪の結晶を拡大して観察する🔍☃️」


ฅ^>ω<^ฅ「イルミネーションをスマホで撮影して友達とシェアする✨📱」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「雪の中での星空観察を一人で楽しむ🌌☃️」


ฅ^>ω<^ฅ「友達との雪合戦の様子をライブ配信する📹⚪」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「寒いので家の中で読書する📚」


ฅ^;ω;^ฅ「…………」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「何、その顔……」


ฅ^>ω<^ฅ「冬の北海道は楽しいことがいっぱい!」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「おい」💢


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「またね~、ばいば~い!」


*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*

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