第一章

Side:黒猫 歌鈴

第04話 自分の価値(1)- Side:黒猫 歌鈴(黒猫食堂)


 母がつとめていた出版社をめた。

 けは祖母の病気である。もう長くはないらしい。


 ある日、突然「仕事を辞めて、実家の北海道へ帰る」と言い出した。

 まあ、転職自体は珍しくない業界のようだ。


 会社からは引き留められることもなかった――と聞いている。どちらかといえば、会社よりも突然そんなことを告げられた私の方が困ってしまう。


 世間一般では、こういう時――


(どういう反応をするのが、正解なのかな?)


 あきらめるにしても、反対するにしても、未成年の私は親にしたがうしかない。

 結果が同じなら「抵抗するだけ無駄むだ」というのが、私の出した結論だった。


 物分かりのいい子で助かる――というのが母親からの評価だろうか?

 正直、そんな評価は要らない。要らないのだけれど――


(結局は、考えるのが面倒なだけかもしれない……)


 従う方が楽なのも確かだ。でも、一つ問題がある。

 それは私が「祖母に一度も会ったことがない」という点だ。


 この話が出るまで、母の実家が「北海道だ」という事さえ知らなかった。てっきり、他界したモノだと思っていたので、祖母に対する思い入れなど、ほとんどない。


 いや「存在すら知らなかった」というべきだろうか?

 何となくだけれど、聞いてはいけいない気がしていた。


 その結果が「行ったこともない土地で、会ったこともない人と暮らす」というワケである。


(不安しかないよ……)


 そんな思いの方が強かった。けれど、ウチは母子家庭だ。

 まだ学生である私は母について行くしかない。


 母と離婚した「父を頼る」という手もあった。

 たまに会う父は優しかったのだけれど――


(今は新しい家族と一緒だから、仕方がないよね……)


 私が幼かった頃は父も母も互いに仕事がいそがしく、2人とも家にることは少なかった。


 仲が良かった――というよりは「ケンカをしていた」という記憶の方が記憶に残っている。たがいに余裕のない状況だったのだろう。


 高校生となった今なら「仕方のない事だ」と少しは理解できる。けれど――


(小さい頃は、ただただ怖かったな……)


 幼かった私は、どうすればいいのかさえも分からず、ただ嵐が過ぎるのを待つように布団ふとんかぶって、ベッドの中へともぐり込んでいた。


 そんな思い出が残る中、父親と他人が暮らす家庭へと転がり込み、上手くやっていく自信はない。私はそれほど器用ではないのだ。


(こんな言い方をするのは、問題なのだろうけど……)


 会ったことのない――それももうじき、死を迎える――祖母と暮らす方が楽だと思った。私は冷たい人間なのだろう。


 きっと母の遺伝だ!――北海道へと引っ越してくる前までは、そう考えていた。

 けれど、違ったようだ。


 母自身も短大へ行ってからは、祖母にはほとんど会っていなかったらしい。

 そう聞いていた私は「折り合いが悪かったのだろう」と勝手に思い込んでいた。


 母は極力、実家を頼りにする事はしたくなかったようで、知り合いの伝手つてを使い、出版社でアルバイトを始めた。


 そうやって学費を稼ぎながら、大学へと編入したそうだ。

 出版社へ就職してからは「実家へは電話すらしていない」と言う。


 そんな母親が祖母の後を引き継ぎ「お祖母ばあちゃんが営んでいた食堂を改装して、再オープンさせるわ!」というのだからおどろきである。


(いったい、なにを考えているのやら……)


 ただ、以前父親から「料理が美味おいしかったから結婚したんだ」そんな話を聞いたことがある。


 私にとっては「寝耳に水」な話だったけれど、母からすると食堂の再オープンは前々から計画していたことだったのかもしれない。


 そう考えると「祖母が死ぬのを待っていた」そんな気さえしてくる。

 怖かったので、真意はしばらく聞けなかった。


(いいえ、今となっては、聞く必要はないのかもしれない……)


 不思議なモノで祖母は私に優しく、そんな私を見て母も笑うようになった。

 念願だった、お店の経営をするようになった影響もあるのだろう。


 けれど、母の場合は性格も明るくなった気がする。死を悟っているためか、祖母に元気はないが「母親と仲が悪い」といった様子はない。


 ただ、ボケてしまっているのか、私のことを母の名前で呼ぶ。


(最初はそう思っていたのだけれど……)


 どうやら「娘が帰ってきた」と思っているらしい。

 私は学校から帰ると、母のお店を手伝っている。


 戻ってきた常連客の中には、昔を知っている人も多いようだ。

 そんな彼らの会話の断片をつなぎ合わせると、一つの事実が浮かび上がった。


 祖母の中では20年以上も前にあった『異空震いくうしん』で「娘が行方不明になってしまった」という事になっているらしい。


 引っ越してきた当時、祖母が母を見ても他人行儀だったのは、それが理由なのだろう。自分の娘だという認識さえ、出来ていないらしい。


 代わりに私の手を握ると、ボロボロと涙をこぼしていた。そんな祖母の様子からも分かる通り、母は「自分が実の娘であることを認めさせる」という事を最初からあきらめていたようだ。


 おそらく、母が実家に戻らず、連絡もしなかったのは、それが理由なのだろう。


 2千年代から発生するようになった異空震の発生によって、地上にダンジョンが出現するようになり、それに呼応するかのように人が消える事件も増えた。


 祖母はダンジョン出現に巻き込まれたことで、おかしくなったのだろう。

 ダンジョンが常人(適合者ではない人間)に与える影響は未知な部分が大きい。


 後遺症が残ったり、記憶が混濁こんだくしたり、思い違いをしていても不思議ではなかった。



🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️



*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*


ฅ^•ω•^ฅ「カリンと~♪」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「フーカのー」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「ティーダンジョン♪」


ฅ^•ω•^ฅ「今日は株式会社と合同会社の違いについてです」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「AIにでも聞いて」


ฅ^-ω-^ฅ「こらこら」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「うー」


ฅ^-ω-^ฅ「えっと、出資者である株主と法人の経営者の役割が切り離されているのが『株式会社』で……」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「株主と経営者は同一人物でも構いません」


ฅ^-ω-^ฅ「出資者が会社の経営者と同一の場合は『合同会社』?」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「株主が何かと口を出してくる株式会社と違って、低コストで手続きが簡便に……」


ฅ^>ω<^ฅ「なるほど!」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「だから中小企業のスタートアップに最適」


ฅ^>ω<^ฅ「うんうん♪」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「出資者全員が経営にも参加できる柔軟な経営体制」


ฅ^>ω<^ฅ「わ~い!」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「利益配分の自由度も高い――ねぇ、本当に分かっているの?」


ฅ^-ω-^ฅ「うんん、分かんにゃい?」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「…………」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「またね~、ばいば~い!」


*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*

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